大幅減少を強いられているブラジルの自動車市場:証券アナリスト ブラジル訪問記(3)

この記事の読みどころ

2010年から世界第4位の規模を維持してきたブラジルの自動車市場ですが、2015年は世界7位に後退しそうです。

金利上昇によるローン販売の低迷の他、政府が進める緊縮財政政策による燃料価格上昇も新車販売低迷の大きな要因になっています。

日本車の販売は苦戦していますが、欧米車はそれ以上に苦戦しているため、結果的には市場シェアが上がりました。

大きく落ち込むブラジルの自動車市場

ブラジルの自動車市場が大きく落ち込んでいます。ブラジルにおける新車販売台数は、経済成長と共に拡大を続けた結果、2010年には中国、米国、日本に次ぐ世界第4位の市場規模になりました。

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その後、昨年2014年までこのポジションを維持していましたが、2015年はドイツ、インド、英国に抜かれて第7位に転落することが確実視されています。

足元の新車販売は前年比▲4割近い大幅減

直近の販売状況も非常に厳しい状況になっており、8月は▲24%減、9月は▲34%減、10月は▲37%減の大幅マイナスでした。なお、2015年1-10月累計では▲24%減となっています。

ブラジルは自動車の輸出が少ないため、国内市場の崩壊は、自動車メーカー各社の生産に深刻な影響を与えます。実際、2015年に入ってから、各社の生産調整(稼働停止、従業員のレイオフ、集団長期休暇など)が何度も行われています。

ブラジルの新車販売に何が起きたのでしょうか?

新車販売が落ち込む3つの大きな理由

クルマは高級消費耐久財の1つですから、販売はマクロ経済に依存します。ブラジルの国内経済は大幅に悪化しているため、新車販売が影響を受けていることは間違いありません。

具体的には、1)物価上昇等に伴う販売価格の値上げ、2)金利上昇や与信審査厳格化等による割賦販売の減少、3)燃料価格の大幅上昇による買い控え、などが主な要因になっています。

政策金利上昇が自動車ローン販売を圧迫

このうち、ジワジワと影響が出ているのが金利上昇の影響です。現在、ブラジルの政策金利は14.25%まで上昇しています。

一般的に、自動車ローンはこれにスプレッドが上乗せされますので、金利は20%超となっている模様です(ファイナンス会社によってまちまち)。また、ローンの与信審査も厳しくなります。

このような状況で、クルマをローンで購入する消費者が減少するのは当然とも言えましょう。

見逃せない燃料価格の大幅上昇

また、燃料価格の上昇も見逃せない要素です。ブラジルはバイオエタノール(サトウキビ製)が世界で最も普及している国です。実に、乗用車(日本以上に小型車が多い)の約90%が「フレックス車」と呼ばれる、ガソリンとエタノールの混合燃料で走る特殊な車です。

ちなみに、日本で走っている普通のガソリン車にエタノール混合燃料を入れると、エンジンが腐食してすぐに故障します。

原油価格の下落にもかかわらずガソリン価格が大幅上昇?

図表2.JPG

上の写真は、ガソリンスタンドの価格表(通貨はレアル、リッター当り)ですが、左側は5年前(2010年12月)、右側が今回(2015年11月)です。

なお、現在は1レアル=約32円。地域や店舗で多少の差異はありますが、ガソリン(Gasolina)もエタノール(Etanol)も5年前より価格が大幅上昇しています。

ちなみに、5年前のWTI原油価格は約90ドルでしたが、現在は約43ドルですから、ガソリン価格が上昇しているのは“異常”現象です。また、エタノールの価格もほぼ倍増に上昇しているので、クルマ保有者の負担が相当に大きいことが伺えます。

財政難を賄うための増税や公共料金引き上げ

この理由は、政府が燃料に課す税金を引き上げたためです。

現在のブラジル政権は、低所得層や貧困層に対する“ばら撒き”に近い保護政策を取った結果、深刻な財政難となりました。サッカーW杯やリオ五輪の開催も財政難に拍車をかけたようです。

それを補う形で、こうした燃料税を始めとする様々な増税や、電気代等の公共料金の度重なる値上げが実施されています。これらが新車販売に大きな影響を及ぼしていることは、容易に想像できましょう。

敵失に助けられている日本車、正念場はこれから

ある意味で特殊なブラジル市場ですが、日本車のプレゼンスは低く、足元の販売も苦戦しています。

しかし、VWやGM等の欧米メーカーの深刻な販売不振に助けられる形で、日本車のシェアは上昇しており、2015年はシェア20%が見えてきました。シェア20%は画期的なことです。

ただし、欧米車の巻き返しが見込まれる来年以降が正念場とも言えそうです。

【2015年11月28日 持丸 強志】

■参考記事■

>>債券型投資信託の注意点―毎月分配型を見極めるポイント

>>失敗しない投資信託の選び方:おさえるべき3つのNGと6つのポイント

持丸  強志

東京工業大学工学部卒業後、日興證券に入社。
その後ドレスナー・クラインオートベンソン証券、㈱大和総研、メリルリンチ日本証券、ドイツ証券、リーマン・ブラザーズ証券、バークレイズ証券等を経て、2013年まで三菱UFJモルガン・スタンレー証券にシニアアナリストとして勤務。
ほぼ一貫して約20年間にわたり、自動車・自動車部品産業の分析、及び、大手自動車メーカーを始めとする企業分析を担当。
日本証券アナリスト協会検定会員。