セルロースナノファイバーが新素材として有望と言われるのはなぜか

この記事の読みどころ

セルロースナノファイバーは、太陽と水と炭酸ガスがあれば無限に再生される植物資源を原料とする“グリーンケミストリー”として注目されています。

軽くて強い、環境負荷が小さいなどの特徴から次世代の新素材として有望視され、自動車軽量化などへの活用が期待されています。

市場規模は、合成樹脂(プラスチック)との複合材として世界で年間数兆円とも言われ、特に原料の紙パルプを使い慣れている製紙会社など紙パルプ産業が関連度で至近距離にあります。

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持続可能なグリーンケミストリーの一翼を担うセルロースナノファイバー

実は、筆者はセルロースナノファイバー(以下、CNF)について、面白い新素材とは認識していませんでしたが、10月22日のNHKニュースで環境省がCNFを推進する内容の報道を見てから一気に認識が変わりました。

持続可能なグリーンケミストリーの典型であること、再生可能エネルギーと同様の社会に対するインパクトを有する点に興味をひかれました。

注:グリーンケミストリーとは、化学物質のライフサイクル(原料の選択から、製造および使用・廃棄までの過程)全体において、人体および環境への負荷を低減しようとするコンセプトと、そのための技術の総称(出所:国立環境研究所・環境展望台)。

そもそもCNFとは何を意味するのか

まずは、C:セルロース、N:ナノ、F:ファイバーをそれぞれ分けて説明します。

セルロース:一般の木材、竹、稲わら、バガス(サトウキビの搾りかす)、海藻など植物の細胞壁を形成し、細胞壁の50%程度を占める物質です。セルロースの用途は紙類、包装材料のセロハン、タバコのフィルター、液晶画面の保護膜材料、レーヨン繊維等です。

ナノ(n):これは国際単位系の接頭辞のひとつで、一般的には10億分の1を表します。ちなみに接頭辞のマイクロ(μ)は100万分の1でナノの千倍に当たります。

ファイバー:読んで字のごとく繊維のことです。

これらの言葉を合体させると、CNFとは「植物由来の極細の繊維」と理解できます。

CNFのどこがすごいのか

植物の細胞壁、即ち植物繊維を特殊な機械で幅4~100ナノメートルまで極細にほぐし、紙を抄くようにCNFのシートを作ります。

すると、普通のセルロース繊維(パルプ)を抄いた紙が引っ張ればすぐに破れるのに対して、CNFで生産したシートは簡単には破れません。これは非常に細かい繊維同士が絡み合って外部からの物理的な引っ張りに強いからです。

京都大学生存圏研究所(生物機能材料分野)・矢野研究室の資料から引用すると、CNFの特徴は、

(1)軽くて強い(鉄の5分の1の軽さで5倍以上の強さ)

(2)熱による変形が小さい(ガラスの50分の1)

(3)植物由来で持続型資源、環境への負荷が小さい

というもので、理想的な新素材と言えるかもしれません。植物資源ですので、太陽と水と炭酸ガス(CO₂)があれば再生産される無限の資源とも考えられます。

CNFは持続可能性という点で再生可能エネルギーと概念が似通っていると思いませんか。また、かなり前ですが炭素繊維(CF)が新素材として世に現れた時を彷彿とさせます。

どんな応用分野があるのか―潜在市場は世界で数兆円とも言われるが

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)では、2015年度から5か年のプロジェクトを組んでCNFの研究開発を推進する計画です。

NEDOによると、CNFをポリプロピレン、ポリエチレンなどの合成樹脂に10~15%混ぜ合わせることで強度を3~4倍に高め、熱による変形を大幅に抑えられるメリットがあるようです。

例えば1トンの車に使われている合成樹脂部材をCNFで強化された合成樹脂で製造すると、約20kgの軽量化が実現するとしています。

問題は、CNFがセルロース特有の水に溶けやすい性質(親水性)であるのに対して、合成樹脂は水となじまない性質(疎水性)で、混ぜてもなじみが悪いことです。

しかし、これは技術的にはほぼ解決しつつあり、CNFの表面を水となじまない疎水化処理で改質することができるようになりました。

まず、原料の紙パルプの段階で疎水化処理を行い、二軸の混練機によってナノレベルまで解きほぐします。これをポリエチレンなどの合成樹脂と混ぜ合わせて射出成型すれば、軽くて強靭なプラスチック製品ができあがるのです。

これは一種の複合材料(コンポジット)で、炭素繊維複合材料(CFRP)、ガラス繊維複合材量(GFRP)と同列に扱われるでしょう。特に自動車の軽量化素材としての潜在需要は、世界レベルで数兆円の市場が控えていると思われます。

どんな会社が開発を推進しているのか―紙パルプ産業が新たな主役に

CNFは紙パルプを出発原料とするため、紙パルプを扱い慣れている製紙会社が関連度で至近距離にいることになります。既に日本製紙、大王製紙、北越紀州製紙、中越パルプ、阿波製紙は開発を表明しています。

中でも、ナノサイズによって可能になる目の細かさを生かした工業用フィルター、廃水処理用フィルターの実用化は早そうです。紙パルプ産業はどちらかというと新素材では裏方でしたが、脚光を浴びるチャンス到来です。

このほか星光PMCは、親会社のDICと共同でCNFと合成樹脂の強化樹脂を事業化するべく営業活動を積極化しています。化学プラント設備・機器の木村化工機、界面活性剤などを扱う第一工業製薬もCNF関連企業として注目を怠れません。

【2015年10月29日 石原 耕一】

■参考記事■

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石原 耕一

早稲田大学法学部卒。ペンシルバニア大学ウォートン校AMP修了。
大学卒業後、和光証券(現 みずほ証券)に入社。その後、リーマンブラザーズ証券、UBS証券、みずほ証券等でアナリストとして40年以上株式市場で調査活動に従事。特に化学セクターでは20年以上の調査経験を持つ。