経済が危機的なのに活気あるブラジルの不思議

証券アナリスト ブラジル訪問記(最終回)

この記事の読みどころ

悪化が続くブラジル経済は、2015年に6年ぶりのマイナス成長が確実視されています。

現在の経済状況は、リセッションを通り越して、スタグフレーションと呼べる状況でもあります。

ブラジルは過去に超ハイパーインフレを経験しており、多くの人々は今の景気低迷を余裕を持って受け止めているように思われます。

実質GDPのマイナス成長続くブラジル経済

12月1日に発表されたブラジルの第3四半期(7-9月期)における実質国内総生産(GDP)は、対前年同期比で▲4.5%減、対前期比(対4-6月期比)で▲1.7%減となり、厳しい経済状況が一層悪化していることが明らかになりました。

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四半期ベースのGDPが対前年同期比でマイナスとなるのは6四半期連続、対前期比でマイナスとなるのは3四半期連続です。

正確な定義ではありませんが、一般的には、対前期比のGDP成長率が2四半期連続でマイナスになると、リセッション(景気後退)入りと言われています。

ブラジル経済は、この定義に照らし合わせても、リセッション入りしていることは明白です。しかも、相当に重症であると言えます。

様々なマイナス要因が複雑に絡み合う背景

ブラジル経済悪化の要因を一言で表すことはできません。

今回の悪化の背景には、

  • 主要な輸出先である中国の経済悪化
  • 米国の利上げ実施を睨んだ通貨レアル安
  • レアル安とインフレ抑制のために実施し続ける高金利政策
  • 国営石油会社ペトロブラスを巡る汚職疑惑による政治不信
  • 低所得層向けの“ばら撒き”政策実施による財政緊縮政策の影響(増税、公共料金の値上げ等)
  • 人件費高騰による企業収益の悪化

等々の様々なマイナス要因が複雑に絡み合っているのです。

経済指標だけを見れば、リセッションを通り越したスタグフレーション

足元の経済指標を見てみると、2015年の実質GDP成長率は▲3%見込み(6年ぶりのマイナス成長)、政策金利は14.25%、インフレ率が約10%、賃金上昇率が約9%、失業率が7%超、等となっています。

この数字だけを見れば、ブラジル経済はリセッションを通り越して、スタグフレーションの状態にあると言えます。

スタグフレーションとは、経済活動の停滞(不況)と物価の持続的な上昇(インフレ)が併存する状態を表し、「不況下のインフレ」と呼ばれる極めて深刻な状況と考えていいでしょう。

日本でも第1次オイルショック時にスタグフレーションを経験

長きにわたりデフレが続いてきた日本では、スタグフレーションとはほとんど無縁です。

一番直近の日本経済では、1970年代前半に起きた第1次オイルショック時の狂乱物価が、そのスタグフレーションに該当すると言われています。あの当時、日本経済は戦後初のマイナス成長を余儀なくされ、深刻な不況に陥ったのです。

多くの日本人は、こうした厳しいブラジルの経済指標だけを見ると、閑散とした商店街が続き、街中に失業者が溢れ、治安が極端に悪化した、暗く澱んだ雰囲気を想像するかもしれません。いや、そのように想像するのが普通です。

悪化する経済指標の割には、今でも活気が見られる市内

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しかし、実際にサンパウロやリオデジャネイロ等の大都市に滞在してみた限りですが、そのような悲壮感はほとんど感じませんでした。確かに、この1年間でホームレス(路上生活者)が少し増えたようですが、日本で想像するような悲惨な状況はなかったと言えます。

むしろ、街中を歩く人々には、日本では見ることが難しくなった“活気”を感じることができました。筆者が訪れた11月中旬からは、クリスマスセールが徐々に始まっており、ショッピングモールにも相応の人出があったと見られます。

ブラジルは過去に“超”ハイパーインフレを経験

ブラジルは過去、幾度かのハイパーインフレを経験しています。直近30年間を振り返っても、1990年に約3,000%のインフレ、1993年~1994年に各々約2,000%の“超”ハイパーインフレを迎えました。

筆者を含めた多くの日本人は、このインフレ率を実感することができませんが、具体的には、レストランで食事をしている間に、料理の値段が大幅上昇してしまうことです。

ひどい時は、2倍以上になったこともあったようです。この当時にブラジルに滞在した日本人は、こうした“珍”経験をしているはずです。

インフレに対する根本的な考え方が違う

最後のハイパーインフレから約20年が経過しましたが、ブラジルにはあの頃を覚えている人が大勢います。その多くの人が、“昔に比べれば、インフレ率10%、20%はたいしたことない”と余裕で構えています。

インフレ率2%がなかなか達成できずに苦心している日本とは、根本的な考えが違うことを実感させられました。

【2015年12月12日 持丸 強志】

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持丸  強志

東京工業大学工学部卒業後、日興證券に入社。
その後ドレスナー・クラインオートベンソン証券、㈱大和総研、メリルリンチ日本証券、ドイツ証券、リーマン・ブラザーズ証券、バークレイズ証券等を経て、2013年まで三菱UFJモルガン・スタンレー証券にシニアアナリストとして勤務。
ほぼ一貫して約20年間にわたり、自動車・自動車部品産業の分析、及び、大手自動車メーカーを始めとする企業分析を担当。
日本証券アナリスト協会検定会員。