堅調なシリコンバレーの不動産市場―長期かつ周期的な観点から見た住宅価格とは

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米国ハイテク企業の経営者が愛する町、パロアルト

シリコンバレーと言えばパロアルト。スタンフォード大学の所在地で、かつてHP(ヒューレット・パッカード)が創業したガレージもここにあります。アップル創業者の故スティーブ・ジョブズの愛した町もパルアルトですし、今はヤフー、グーグル、フェイスブックの創業者の多くが実際に住んでいます。

米国株よりも魅力的だったパロアルトの不動産投資

パロアルトは、米国の先端ICT(情報通信技術)企業の歴史とともに、最近は住宅市場で脚光を浴びています。私は2010年に家族の都合で東京からパロアルトに移住しました。当時218万ドルで購入した270平米の新築2階建ての家は、今では時価400万ドルにまで価格が上昇しました。そのリターンは年率13%に達しています。

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さらに長期の不動産価格トレンドを見ると、1998年に565千ドルであった戸建て中間価格が2回の調整(2000年のITバブルと2008年のリーマンショック)を経て、2015年には4.4倍の249万ドルに達しています。その年間平均上昇率(CAGR)は9.1%にもなります。

ちなみに、その間S&Pインデックスに投資した場合の平均年間リターンは4.3%となるので、不動産がいかに魅力的なパフォーマンスを示したかがお分かりでしょう。加えて、不動産価格のブレであるボラティリティ-中間価格が下がったのは過去17年間で2年だけということからも、リスクが低いと言え、魅力のある投資先だったと言えます。

出所:Multiple Listing Servicesをもとに筆者作成

なぜパロアルトの不動産価格は上昇し続けたのか

では、なぜパロアルトの住宅価格は長い間上昇し続けたのでしょうか。その一番の理由は需給関係にあります。

そもそもパロアルトは40~50年前にそのランドスケープのほとんどができた町であり、新規開発が極めて少ないことが言えます。以下のチャートが示しているように、新規を含めパロアルトにおける戸建ての在庫は、過去12年における四半期ベースの平均で見れば、わずか1.36か月程度です。

つまり、ほとんどの家は5~6週間の間に売却できてしまいます。実際に私が担当した顧客の場合、過去1年で取り扱った案件は、ほとんどのケースが1週間で売買が成立しました。これは全米不動産仲介業界が妥当としている6か月より遥かに短い水準です。

つい最近、日本のある投資家が私に言いました。「では、一軒家が並ぶ地域を購入し、タウンホームやコンドとして開発すれば、供給不足と住宅価格が高すぎという2つの問題を一気に改善できるのではないか?」と。

しかし、どの場所にどのような建物(住宅か商業施設か、一軒家かマルチプル住宅か)が建てられるかは町のゾーニングで決まっており、街作りのマスタープランがある以上、そう簡単には変えられるものではありません。

出所: Multiple Listing Servicesをもとに筆者作成

世界から注目されるパロアルトの不動産市場

パロアルトの住宅価格を支えているのは、限られた供給以上に強い需要です。この需要は、もちろんシリコンバレーの景気に左右されています。景気が停滞すれば、不動産価格にも影響が出るだろうとお考えの方も多いかと思います。

しかし、シリコンバレーの面白い点は、HPのようなハードウェア企業の元気がなければ、アップルを始め、グーグルやフェイスブックのような企業が誕生しますし、テスラやUberのような新しいビジネスモデルを持ち合わせた企業も生まれてきます。

私はそういった企業がさらに事業を発展できるのか、また次のグーグルやフェイスブックは出てくるのかに常に注意を払っています。西海岸からグローバルで競争力のある企業が生まれ続ける限りは、不動産の需要は底堅いと見ています。

最近、私がその需要の強さを身をもって感じたのは、顧客が購入したフェイスブック創業者マーク・ザッカーバーグの住居近くの築60年の一軒家を賃貸市場に回したのがきっかけです。その家を見に来たのは、グーグル、フェイスブックの関係者だけではなく、こちらに拠点を持つ企業にかかわる世界中の優秀なエンジニアや弁護士たちでした。

パロアルトにも殺到する中国マネー

その需要の層をさらに厚くしたのがこの2、3年で増えた海外、特に中国からのバイヤー(購入希望者)です。シリコンバレーあるいはパロアルトにおける中国バイヤーの割合に関して正確な統計はなかなかありませんが、私が所属するパロアルト最大の不動産仲介会社(60%のマーケットシェアを持ってます)では、中国バイヤーの比率は全体の約8%です。

私の中国人の顧客に関して言えば、パロアルトの不動産を購入したいという理由は以下の2つに尽きます。第一に子供の教育のために移住したいという理由と、もうひとつは、金融資産の多様化のために、長期保有することができて最終的にはに子供に残すことができる資産であるからということです。住宅価格の高さからしても、気軽に投機できる市場ではなく、長期の視点での投資と言えます。

パロアルトの不動産価格は上昇し続けるのか

では、パロアルトの不動産価格はそのまま上がり続けるのでしょうか。“Everything is Cyclical”という観点から日本株をしばらく見ていた私からすれば、上昇するスピードが速ければ速いほど、次の調整は大きいと思うのがごく自然です。

※周期的

そして、私は2015年初め、地元誌のPalo Alto Weeklyに不動産価格の調整の可能性が大きいという記事を書きました。しかし私の予想は外れ、2015年の中間価格は前年よりも14%以上上昇しました。しかも私が携わった案件のほとんどは、1つの物件に多数のバイヤーが現れ、どうやってバイヤー間の競争に勝つかで悩まされました。

2016年は、グローバル経済環境の不安定さや米国での利上げの影響を考慮すると、短期的に不動産価格が調整する可能性があるとは認識しています。一方で、コンセンサスの楽観論としては、スタンフォードとイノベーションがある限り、パロアルトの住宅価格は上昇し続けるというものです。もちろんイノベーションの保証はなく、私はそれを促進する風土を保てるかどうかがカギであると考えています。

【2016年1月15日 Jiang Xin(ジャン・シン)】

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Jiang Xin

中国生まれ。早稲田大学商学部卒業後、メリルリンチ証券・投資銀行部門の東京とパロアルトで勤務。その後、ペンシルベニア大学ウォートン校にてMBAを取得。
2005年から2013年まで、日本のフィデリティ投信とサンフランシスコにあるマシューズ・インターナショナル・キャピタル・マネジメントで日本株を含めたアジア株のアナリストとして従事。
2013年からパロアルトを中心に、シリコンバレーで不動産の仲介と住宅の開発に専念。7歳になる娘の母親でもあり、シリコンバレーの住宅と教育事情に詳しい。