化学株の6営業日の騰落率はTOPIXを超える下落率に

新年の日本経済新聞に掲載された、経営者による2016年株式市場見通しの楽観的な予想は、年明け最初の6日間で吹き飛んだ形となりました。

長年株式市場に関わってきた筆者も、このようなお目出たい時期における“売り優勢”の局面は、世界的な株価暴落局面を除いて見たことがありません。

化学株18社を総合化学、電子材料、スペシャリティー化学の3つのサブセクターに分けて、2015年12月30日大納会の終値と、2016年1月12日の終値の騰落率を比較してみました。

この6営業日の間、化学株18社の騰落率は軒並みTOPIXの騰落率▲5.5%を超える下落率となりました。景気の動向を敏感に映す素材産業だから、と割り切って考えれば当然だという結論に達します。

サブセクター別の動きを見てみると

本稿では18社の詳細には触れませんが、総合化学の住友化学(4005)、三井化学(4183)、三菱ケミカルHD(4188)などは▲10%を上回る下落率でした。

同様に、電子材料ではSUMCO(3436)、JSR(4185)、東京応化工業(4186)、日東電工(6988)なども▲10%を上回る下落率となりました。

これは景気に敏感な両サブセクターの動向を敏感に反映した結果と言えます。特に、液晶ディスプレーの偏光板でトップの日東電工は、▲18.8%と18社中最大の下落率を記録しました。外国人投資家の比率が高いため、絶好の益出し株として売られた可能性が高いと考えます。

一方、クラレ(3405)、日産化学工業(4021)、東レ(3402)、旭化成(3407)、信越化学(4063)はTOPIXの下落率を上回るものの、その下落率は▲10%未満で収まっています。

旭化成は杭打ち問題で大きく売られた結果、今回の下落相場の影響をさほど受けなかったと見られます。クラレ、日産化学などは業態がディフェンシブで安定していると見られ、大きくは売られなかったのでしょう。

株価も素材もインフレ歓迎の構造

化学セクターだけでなく、鉄鋼・非鉄、繊維を含めた素材株という観点から2016年の投資アイデアを考えてみました。

株式は昔からインフレに強いと言われてきましたが(逆に債券はデフレに強い)、それは一株当たりの利益(EPS)がインフレで膨張すると株価収益率(PER)が下がり割安感が出るために買われるからです。

実は素材産業も株式同様にインフレ歓迎の産業なのです。原料のナフサ、鉄鉱石が安く、他方、プラスチック、鉄鋼製品の価格が需要好調を映して値上がり(インフレ)すると利益が極大化されます。当然、株価収益率が割安となり、買われることになります。

原油が安値を更新中であるのに加え、原料炭、鉄鉱石、非鉄鉱石が安くなり、こうした原料安で業績が良くなるというシナリオは現在でもまことしやかに語られています。

しかし、デフレが極まるこういう時期に総合化学などの素材株が買われるのには違和感を覚えざるを得ません。

中国による鉄鉱石・非鉄鉱石の爆買い、世界的なゼロ金利政策による原油市場への投機資金流入、自動車低利ローンによる米国の自動車バブル、これらに流入した投機マネーが逆流し始めたのが今年の世界の株式市場の“暗黒のスタート”なのでしょうか。

素材株は“ボトムフィッシング”で

話が長くなりましたが、化学株の動きから素材産業株の投資タイミングを探ると、以下のようにまとめることができます。

  • 原油、鉄鋼・非鉄、穀物の市況が安値を更新中ですが、こうしたデフレ局面では市況が底を打つタイミングが見え始めるまでじっと待つ。そのタイミングは何時か。敢えてリスクを覚悟で予想すると、早ければ今年の夏以降となるでしょう。
  • 中国の景気減速が決算コメントの枕詞になっていますが、今に始まったことではありません。個人消費に関連するプラスチック需要は堅調で、過剰設備処理が進行すれば需給ギャップの解消による経済回復も遠くはないでしょう。
  • 素材株の投資タイミングはファンダメンタルがボトムの時と言うのが定説です。これを称して“ボトムフィッシング”と言います。皆がまだまだ、と言っている時が実はベストタイミングかもしれません。アナリストが「買い」と言った時には株価が既に上がってしまっているケースを何度も見てきましたね。

【2016年1月15日 投信1編集部】

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LIMO編集部