2016年の株式市場は、中国をはじめ世界中で波瀾のスタートを切りました。年初から投資家によく聞かれるのが、株が下がるとパロアルトの不動産市場にどういう影響を与えるかということです。

シリコンバレー不動産市場の季節性

そもそもパロアルトをはじめ、シリコンバレーの不動産市場には独自の季節性があります。市場に出回る物件の数と価格は、ともに年初から春に向けて徐々に上昇し、4月末か5月初めに一旦ピークを付けます。それは、家を買う一番の理由が子供をその近所の公立学校に入れることだからです。アメリカの学校は9月が新学期のスタートで、公立校の登録期限は大体5月までです。売る側も需要の一番強い3月あるいは4月に合わせて物件を市場に出してきます。 

価格については、2011年から売り手市場になり、年々買い手の間の競争がエスカレートしてきました。買う側は年初から物件を探し始め、何件かの家にオファーをし、競争に負けて、4月にもなると、かなり焦り始めます。そして、高い価格を払ってでも、どうしてもマイホームを手に入れたい心境に陥る場合がほとんどです。これが、4月末~5月初めが価格のピークになる理由です。

夏休みは5月末から順次始まるため、本来は取引の数が徐々に減って不動産市場は静かになります。ただ近年は、スタンフォードなどパロアルト周辺のサマーキャンプに子供を入れようと、アジアからの家族が7月に集中して来るため、夏に価格の山ができることもあります。市場に出ている数少ない物件に対して通常より多くの買い手が現れるので、提示価格よりはるかに高い価格で売買が成立します。しかも、現金売買がほとんどです。

ちなみに、パロアルトで4億ドル以上の売買はほとんど住宅ローンを必要としないオール・キャッシュ・トランザクションです。例えば、去年の7月には5.895億ドルで市場に出た340平米の古い家に6名の買い手が現れ、最終的に6.8億ドルで取得されました。同じ時期に、3.288億ドルで市場に出た家が4.25億で買われた事例もあります。

9月から10月にかけて、売り手が夏休みから戻って供給が増えることにより、市場に一旦活気が戻ります。年末までの残りの2か月は祝日が多いため、取引はあまり多くなくなります。

株式市場の影響を判断するのは時期尚早

2016年初からの状況は、昨年末から引き続き買い手側の激しい競争となっています。市場に出回る物件がまだ少ない中、列をなして売り物件を待っている買い手が提示価格よりもかなり高い値段でオファーを出すのです。

本来は、NASDAQ指数が調整すれば、ストックオプションを売却して家の頭金に充当しようとしている若い家族を直撃します。そして、ヤフーのような大企業が人員削減に踏み切れば、住宅ローンを払えなくなって、家を売却せざるを得ない人たちも出てくるはずです。さらに、いわゆるユニコーン (未公開市場で10億ドルを超える企業価値と評価されている新興企業)の評価が下がれば、未公開市場でキャッシュアウトする人が減り、キャッシュ・トランザクションの数が減少し、買い手側の競争が緩やかになります。

しかし、フェイスブックの株価はこの3年半でほぼ6倍まで上がり、グーグル株は同じ期間に2.4倍に上昇したことから、目先の調整はインパクトが大きいとは言えません。つい先週、ある大手テクノロジー企業の上層マネジメントが個人で立ち上げたベンチャー企業の資金繰りのため、パロアルトの隣町のロスアルトスにあるセカンドホームの売却に踏み切りましたが、それは本当に稀なケースで、売り手のほとんどは全く資金に困っていません。

中国からの需要は現時点でも強くなっている

では、中国からの需要はどうかというと、足元ではむしろ強くなっています。リターンの高さとリスクの低さの両方から見て、パロアルトでの不動産投資の魅力は今自国の株式市場を上回っています。私の顧客にも、資金を米ドルに転換するハードルさえクリアすれば、投資する予算を引き上げる人がいます。

しかし、中国政府による資本流出への統制が厳しくなっていることの影響は出ています。海外での事業や香港に金融資産を所有しない一般的な中国人は、一人当たりの海外送金は年間5万ドルまでと制限されています。そこで、多くの人は親戚や友達の名義を借りて、いわゆる“蚂蚁搬家(蟻の引っ越し)”という人海戦術で何億ドルもの資金を米国に移転しています。

この“蟻の引っ越し”については、最近、中国側の銀行が送金元が本当に一つであるのか追求を始めています。さらに、米国側の大手銀行が海外からの送金が頻繁に繰り返されている口座の持ち主に対して、住宅ローンを貸さないようになっています。すなわち、需要は根強いものの、すぐに買うことができないのが今の実態です。

パロアルトの住宅市場はいずれにせよ、グローバルの経済環境に影響されます。2016年は変動の大きな年になるような予感がします。

【2016年2月12日 Jiang Xin(ジャン・シン)】

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Jiang Xin