幻のSED事業に見るキヤノンと東芝の関係

医療機器事業の買収で捲土重来なるか?

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東芝はキヤノンを医療機器子会社の売却先に選定

2016年3月9日、東芝(6502)は医療機器子会社の東芝メディカルシステムズの売却に関し、キヤノン(7751)に独占交渉権を付与すると発表しました。報道によると売却金額は約7,000億円、売却益(税引前)は約5,000億円となる模様です。

不正会計問題によって財務体質が大幅に悪化している東芝は、できるだけ早期に、またできるだけ多額の売却益を得たかったはずです。様々な買収候補企業の中からキヤノンが選ばれたのは、キヤノンが最も良い条件を提示したためであると推察されます。

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一方、単純に「お金」の問題だけではなく、両社の間には一定の信頼関係があったからではないかとも推察されます。過去に両社にはどのような関係があったのかと考える時に思い出されるのが、“幻”となった薄型ディスプレイSED(Surface-conduction Electron-emitter Display)です。

注:SEDはブラウン管と同様、電子を蛍光体に衝突させて発光する自発光型のディスプレイで、ブラウン管の電子銃に相当する電子放出部が画素の数だけ設けられている構造の薄型ディスプレイ技術です。

SEDを振り返る

SEDは1986年にキヤノンが研究開発に着手し、1999年にキヤノンの独自技術である電子源と微細加工技術、東芝のブラウン管技術と液晶・半導体量産技を相互に持ち寄り共同開発を始め、2004年には共同生産を目的にSED株式会社を両社の出資によって立ち上げています

SEDは、開発当初から液晶テレビが普及する2000年代前半までは、ブラウン管並みの高輝度、高精細、高速応答性、高コントラスト、高い色再現性を大画面の薄型テレビでも実現できるとして非常に注目されたディスプレイ技術でした。

ところが、対抗技術の液晶技術も大幅に性能を進化させたことや、量産技術の確立の遅れ、米国における特許訴訟の影響などで事業化が難航し、2004年にSED社を設立したものの、量産化は一向に実現しませんでした。

このため、東芝は2007年にはSED社から撤退し、キヤノンが単独で事業を継続することになりました。しかし、特許訴訟は終結したものの、液晶のさらなるコストダウンと画質向上に対抗できるめどが立たず、2010年にキヤノンはSEDの事業化を断念し、同社を清算しています。

医療機器事業での成功を願いたい

キヤノンがディスプレイにこだわった理由は、ディスプレイを手に入れることで、映像の入り口(カメラ)から出口(ディスプレイ、プリンター)までの全てを一社で提供することを目指したためと考えられます。キヤノンはカメラ、プリンターでは世界のトップクラスです。これに映像ディスプレイが加われば、一段と競争力が高まることが想定できるからです。

今回の買収は、映像の入り口から出口までを押さえる戦略とは直接は結びつかないものの、キヤノンの画像処理技術を東芝メディカルの医療機器に活かすことができれば、大きなシナジー効果が期待できるかもしれません。

ただし、医療機器分野でも、コンピュータの世界でメインフレームからパソコンへダウンサイジング化が進んだように、より小型で安価な製品が台頭してくる可能性があることには注意が必要です。

価格競争に負けて事業化を断念せざるを得なくなったSEDの二の舞にならず、捲土重来となることを祈りながら、今回の買収の成功を願いたいと思います。

【2016年3月12日 投信1編集部】

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投信1編集部

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