この記事の読みどころ

シャープが鴻海精密工業に買収されることになりました。日本の大手企業が外資系の傘下に入ります。

過去、外資系の傘下に入った日本企業は決して少なくありません。たとえば、自動車メーカーは一時、何と7社が外資系傘下に入っていました。

外資系傘下に入って成功した典型例は日産自動車だけかもしれません。シャープの今後に注目です。

鴻海(ホンハイ)がシャープを買収へ

大手家電メーカーのシャープ(6753)は、リーマンショック後の2010年頃から業績悪化が顕著となり、ここ数年は深刻な経営危機に陥っていました。

シャープの経営支援には紆余曲折ありましたが、結局、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に買収されることが決定しました。正式な買収契約調印の直前に少しバタバタしていますが、このまま買収契約は成立するものと見られます(注:条件変更の可能性は残る)。数日内には何らかの正式発表があるかもしれません。

日経新聞に掲載された記事の一文に感じた違和感

日本経済新聞でも毎日のように、シャープの買収に関する記事が掲載されていますが、先日の記事には「産業史的な位置づけを言うなら、戦後日本の製造業で外資系企業の傘下に入る大手企業は日産自動車に次いで2社目。」とありました。

冒頭の“産業史的な位置づけ”の意味が今一つ不明ですが、その次の文脈を素直に読むと、“外資系企業の傘下に入った大手企業は日産自動車だけ”とも受け取れます。この部分は、少し補足が必要でしょう。

シャープの前例が日産自動車だけのはずがない

過去、外資系企業の傘下に入った企業は、日産自動車だけに止まりません。実際、“傘下に入る”という定義は様々です。

しかし、完全子会社を含む連結子会社化、及び、株主総会で拒否権発動が可能となる33.4%以上の持株比率は言うまでもなく、持分法適用(原則、持株比率15%以上)、代表取締役の派遣、重要な技術提携契約などを含めると、シャープの前例が日産自動車だけのはずがありません。

自動車メーカーは一時、何と7社が実質的な外資系の傘下に

たとえば、自動車業界を見てみましょう。直近20年間において、自動車メーカーだけで7社(日産自動車、いすゞ自動車、三菱自動車、マツダ、スズキ、富士重工、日産ディーゼル工業)が外資系の傘下に入っています。

その中には、“我社は対等の提携関係にあり、傘下には入っていない”という主張をした企業も複数ありましたが、少なくとも、その当時は事実上の傘下に入っていたと考えられます。自動車産業だけ見てもこれだけあるのですから、多分、他の産業でも実例が少なくないと思われます。

では、なぜ日経新聞の記者は日産自動車しか言及しないのでしょうか? こうした過去(それも直近20年)の事例を全く知らなかったとは考え難いです。

外資系の傘下入りで成功した例は日産自動車だけ

執筆した記者に聞かないとわかりませんが、恐らく、“外資系の傘下に入って成功したのは日産自動車だけ”という思いが強かったのだと推測されます。

確かにそうなのです。前述した自動車メーカー7社のうち、日産自動車と日産ディーゼル工業(注)を除く5社は、その後に提携を完全に解消して、今日に至っています。

提携解消にあたっては、先方の都合によるものが圧倒的に多く、やや不運であったことは事実です。しかし、それを割り引いたとしても、成功だったと言える提携(外資系企業の傘下入り)は、日産自動車を除くと、結果的には皆無と言えなくもありません。

もちろん、提携時に得た技術や様々なノウハウが現在の経営に活かされている面はあるでしょう。それでも、外資系の傘下に入って“幸せ”になった企業がどれだけあったのか疑問が残ります。

このまま順当にシャープが鴻海に買収されるならば、これから本当に重要になるのは、買収後の関係になります。自動車の例にあるように、提携後は先方の都合に左右されることも多々ありましょう。日産自動車のような成功例を作り上げることができるか、大いに注目していきたいと思います。

(注)日産ディーゼル工業は、その後、社名をUDトラックに変更し、現在は非上場企業。

【2016年3月9日 投信1編集部】

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LIMO編集部