インバウンド需要とリスクの先送りについて、道後温泉で考えた

この記事の読みどころ

道後温泉(松山市)に行ってきました。外国人観光客の増加等もあり、想像を超える大混雑でした。

道後温泉本館は、2017年10月から約8年にわたる長期間、大規模な耐震改修工事に入る予定です。この間、本館に入ることはできません。

本館の耐震改修工事は2001年から議論されてきたようです。今までズルズルと延期してきた背景を調べてみました。

3連休の松山市、道後温泉は想像以上の大混雑

久しぶりに松山市(愛媛県)に行きました。松山市は人口50万人強を有する四国最大の都市です。市内には数多くの観光スポットがありますが、何と言っても、道後温泉でしょう。日本三古湯の1つであり、全国でも有数の温泉観光地であることなど、もはや詳細は説明不要です。

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その道後温泉で最も有名なのが、国の重要文化財に指定されている道後温泉本館(以下「本館」)に他なりません。

1894年に建立された本館は、経済産業省から近代化産業遺産にも認定されており、道後温泉のみならず、国内温泉の代名詞的存在とも言えましょう。松山、愛媛、四国と言えば、先ずはこの本館をイメージする人も多いと思います。

筆者が訪れた日は3連休の初日ということもあり、想像を超える大混雑でした。入浴券を買い求める観光客が長蛇の列を作り、その長さは約100m(筆者の目測)。

そのうち約3分の1は外国人観光客であり、一昔前には想像できなかった光景でした。あまりの混雑ぶりに筆者は本館への入場を諦めざるを得なかったのです。

道後温泉本館は2017年10月から8年間にわたる耐震改修工事へ

ところで、この本館は2017年10月頃から大規模な耐震改修工事に入ることが決まっており、工事完了は2024年末が予定されています。何と、工事着工から約8年もの長期間、本館の中にある温泉(「神の湯」など)に入れなくなるのです。

この長期の工事期間、松山市は同じ道後温泉郷にある代替施設「椿の湯」を改装して対応するようですが、観光客の大幅減少が懸念されています。大幅減少どころか、周辺の温泉宿では存続の危機もささやかれている深刻な問題となっています。

なぜ、今になって、このような長期の改修工事を行うのでしょうか。8年に及ぶ工事期間中には、東京五輪も開催され、訪日外国人観光客は3,000万人を超える可能性も高いと見られます(注:2015年は1,974万人)。このような大きな商機を逃しても実施するほど、耐震工事は喫緊の問題なのでしょうか。

2001年から議論されていた本館の耐震改修工事

調べてみると、本館の耐震改修工事は今に始まった問題ではなく、2001年に起きた芸予地震(M6.7、最大震度6弱。松山市は震度5強)後の調査で、長期間の大規模修理の必要性が明らかになっています。しかし、観光産業関係者へ配慮した結果、一部を利用しながら順次修復していくという“折衷案”に落ち着いたようです(2006年3月)。

ところが、なぜかその後も改修工事は着工されず(一部を除く)、本館創建120周年イベントやNHKドラマ「坂の上の雲」の放映による集客需要増大などにより、ズルズルと延期したのが実情のようです。

老朽化と頻発する地震で工事着工は待ったなし?

しかし、東日本大震災の発生以後、愛媛県にも伊予灘を震源地とする地震が多発しており、2014年3月には松山市で震度5弱の大きな地震が発生しています。また、南海トラフ巨大地震の影響を懸念する見方も少なくありません。恐らく、耐震改修工事はもう待ったなしなのではないでしょうか。

もっと早く工事に着工していれば…

しかし、“たら・れば”の話になりますが、もっと早く耐震改修工事に着手していれば…という気持ちは強く残ります。実際、その機会は多々あったことは間違いなさそうです。少なくとも、2006年3月の最終報告時に着手していれば、とっくに工事は終わっていたと考えられます。

確かに、全て結果論ですが、非常に残念です。観光産業が被る痛手という“リスク”を先送りにした結果だと言うと、地元の関係者に怒られるでしょうか。

現在の訪日観光客の大幅増加は想定できなった

一方で、耐震改修工事をズルズルと延ばしていた頃、まさか訪日外国人観光客がこんなに増加するとは予想できなかったのも事実でしょう。何しろ、リーマンショック発生前までは年間730万人強(2004~2008年の5年平均)でしたので、現在の約2,000万人を想定する方に無理があります。

また、当時は国内旅行も下火でしたから、耐震工事の重要性を理解しながらも、明日の生活を考えざるを得なかった関係者が少なくなかったと想像できます。これも、全ては結果論に過ぎません。

今度こそ本当に工事着工となるのか、少し怪しい予感

しかし、気になることがあります。耐震改修工事の着工が2017年10月頃と少し先になるのは、同年9月に行われる「第72回えひめ国体」の集客需要が終わってから、というのが理由のようです。本当に危機感があるのか疑問を感じずにはいられません。

それまでの約1年半に大きな災害が起きないことを心から祈ります。そして、国体終了後は、今度こそ耐震工事に着工することを願っています。

「椿の湯」では本館の代役は無理

なお、余談ですが、本館に入ることを諦めた筆者は、長期工事期間中に“メイン”となる「椿の湯」に行ってきました(上記写真)。本館のような長蛇の待ち行列もなく、すぐに入れました。

しかし、建物に歴史的な重厚性は乏しく、浴場も普通の銭湯という印象でした(注:個人的な意見)。本館の代役を果たすには、あまりに役不足の感は否めません。

やはり、リスクの先送りのツケは大きいのかもしれません。ちなみに、翌々日に本館には入れたことを付け加えておきます。

【2016年3月23日 投信1編集部】

■参考記事■

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持丸  強志

東京工業大学工学部卒業後、日興證券に入社。
その後ドレスナー・クラインオートベンソン証券、㈱大和総研、メリルリンチ日本証券、ドイツ証券、リーマン・ブラザーズ証券、バークレイズ証券等を経て、2013年まで三菱UFJモルガン・スタンレー証券にシニアアナリストとして勤務。
ほぼ一貫して約20年間にわたり、自動車・自動車部品産業の分析、及び、大手自動車メーカーを始めとする企業分析を担当。
日本証券アナリスト協会検定会員。