熊本地震で再浮上した耐震化―空き家問題や中古物件流通とからめ見えてくるものは?

この記事の読みどころ

今回の熊本地震では、多くの家屋が倒壊してしまいました。生活の基盤である自宅の家屋がいかに大切なものか、改めて感じさせられます。

日本全体の住宅のうち、5~6軒に1軒はまだ耐震化されていません。今のペースのままでは国土交通省の掲げる目標達成のハードルは高そうですが、耐震化が進みにくい理由には、日本における不動産に対する視点の問題が影響しているかもしれません。

空き家問題や中古物件流通のためにホームインスペクション(建物状況調査)の活用が進む方向にあります。これが制度として定着すれば、建物の価値に対する意識を変える可能性も秘めており、ひいては、耐震化率の上昇にも資すると考えられます。

続きを読む

自宅を失う悲しみは、はかり知れない

熊本県や大分県をはじめ、4月14日以降に九州地方で発生した一連の地震で被災された方々、およびそのご家族には、心よりお見舞い申し上げます。まだ地震が続いているようですが、一刻も早く地震がおさまり、平穏な日常に戻られることを祈念しております。

今回の地震では、テレビのニュース映像を通じて、1階部分が押しつぶされてしまった多くの家屋を目のあたりにしました。4月14日に発生した最初の最大震度7の地震では耐えたものの、その後の地震で倒壊してしまった家屋も多くあったと聞いています。

なす術もなく倒壊した自宅の前で茫然としている方々の様子を見ると、本当に悲しく、心が痛むばかりです。同時に、誰にとっても、自宅の家屋が自分の日常生活にとっていかに大切なものかということを、改めて実感させられます。

日本全体では家屋の5~6軒に1軒は耐震化されていない

自宅は誰にとっても生活の基盤です。そこで、家屋の耐震化がどこまで進んでいるかについて調べてみました。

(注)今回の熊本地震の力はあまりに甚大なため、耐震基準を満たしていても倒壊した家屋がある可能性があります。データがないので判断できませんが、耐震化されているからと言って安全とは言いきれないかもしれないことはご了承ください。

国土交通省によると、2013年の時点で、日本の総戸数5,200万戸のうち、耐震性があるとされるのは4,300万戸で、住宅の耐震化率は約82%です。逆に言うと、約900万戸は耐震性がないということで、5~6軒に1件は地震に弱い家屋ということになります。

2008年の耐震化率は約79%なので、この5年で3%ポイント上昇したことになります。しかし、国土交通省の掲げる2020年の目標は95%(総戸数5,250万戸のうち、耐震性あり5,000万戸、耐震性なし250万戸)ですが、今のペースのままでは、達成までのハードルは高そうです。

耐震診断をしても耐震改修工事に至らないケースが多い

診断を行い、家屋が耐震基準を満たしていないと分かったとしても、耐震改修工事を行うに至っていないケースも多いようです。総務省統計局の「平成25年住宅・土地統計調査結果」によれば、耐震診断で「耐震性が確保されていない」と診断された住宅のうち、約67%は耐震改修工事を行っていないことになっています。

耐震診断を行うほどの意識が高い母集団に対してこの割合ですから、耐震改修工事までなかなか踏み込めない要因があるのでしょう。資金がないなどの経済的な事情もあれば、賃貸との併用物件などでなかなか手がつけられないといった事情があるのかもしれません。

耐震化率が上がりにくいのは不動産に対する意識の問題のせい?

耐震化率がなかなか上がらないのは、個別の事情のほか、日本における不動産の使用に対する視点の持ち方が影響しているかもしれません。

たとえば、日本の中古物件の取引で、真っ先に確認される情報は「築○○年」ということです。しかし、「その物件をあと何年使うか、または使えるか」という話は、定期借地権の物件でない限り、ほとんど話題にあがってきません。

買い手にとって重要なのは、「これまで何年使われてきたか」よりも、「これから先、何年使えるのか」ということのはずなのに、です。

このことは、「家屋は使われ方に関係なく同じように経年劣化する」と考えられていることと、「リフォームなどの改善のための行為は、家屋の資産価値にプラス評価にならない」とされていること、を意味しているように思われます。

空き家問題と中古物件流通促進とホームインスペクション

国土交通省もそうした状況は理解しているでしょうから、手を打ってきています。

現在、空き家問題が話題に取り上げられることが多くなってきました。空き家問題は、人口減少等の要因で、不動産のストックが過剰になっている問題です。過剰ストックを減らすための解決策は、「まだ使えるものを残し、使えないものをなくす」ことと、「新築を抑える」こととなります。

このうち、前者については、「まだ使える(価値が残っている)不動産を、使いたい人に渡す」という中古物件の流通を促進することが関係してきます。

2016年2月に閣議決定した宅地建物取引業法の改正案は、中古物件の流通促進のための施策の一環です。不動産取引の際に、宅地建物取引士には、契約前に重要事項説明書の説明が義務づけられています。現在は、耐震診断の有無が告知義務の項目に入っていますが、改正後は、ホームインスペクション(建物状況調査)の結果を告知することが義務づけられるようになる予定です。

ここで出てくるホームインスペクションとは、ホームインスペクター(住宅診断士)が、第三者的な立場で、住宅の劣化状況や欠陥の有無、改修すべき箇所やその時期、費用などを診断してアドバイスを行う専門業務とされています。中古物件流通が盛んな米国では取引の70~90%で使われている制度です(参考:日本ホームインスペクターズ協会「ホームインスペクション(住宅診断)とは」)。

住宅を検査するということは、「あとどのくらい使えるか」の判断に資する情報を提供することです。直接的には中古物件の流通を促すことにつながりますが、建物の価値に対する意識を変える可能性も秘めており、ひいては、耐震化率の上昇にも資すると考えられます。

不動産を資産として保有されている方は、ホームインスペクションの動向は、今後注目しておいて損はありません。

まとめ

大きな地震が少ないとされていた熊本県や大分県で起きた今回の大地震で、「日本にいる限り、いつでもどこでも大きな地震が起こりうる」ということに、改めて気づかされました。

住宅の耐震化は、かけがえのない命はもちろん、大切な資産を守ることにつながります。現在、日本人は熊本地震という辛い経験をしている最中です。この厳しい経験を乗り越えて将来につなげるために何ができるでしょうか。

熊本県や大分県の方々への支援をすることとは別に、今できることの1つとして、将来起こりうる災害に備えて、耐震や防火など、自宅の防災について考えることが加わってほしいと願ってやみません。

【2016年4月21日 藤野 敬太】

■参考記事■

>>失敗しない投資信託の選び方:おさえるべき3つのNGと6つのポイント

>>ネット証券会社徹底比較:株も投資信託も気になるあなたへ

藤野   敬太

東京大学経済学部を卒業後、プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント(現日本アイ・ビー・エム)等を経て、2001年から2013年まで、日興アセットマネジメントにて、アナリストおよびファンドマネージャーとして日本株ファンドの運用に従事。
現在は、オフィス・ラコルドの代表として、ファミリー向け・ファミリービジネス向けのコンサルティングおよびアドバイザー業務を展開する。
CFP(日本ファイナンシャル・プランナーズ協会認定)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、シニア・プライベートバンカー(日本証券アナリスト協会認定)。