この記事の読みどころ

小売企業で既に決算を発表した中では、セブン&アイ・ホールディングス(3382)のトップマネジメント問題が最も注目を集めました。今後の日本企業の後継者選出について示唆に富む事例になりました。

もう1つ注目されたのはファーストリテイリング(9983)の業績悪化です。

今後発表される決算は百貨店、家電量販、ドラッグストアなどの企業群です。業績のカンフル剤としてのインバウンド需要の効き目が低下する一方、消費者の財布のひもは固くなっています。各社の戦略が見ものです。

5月の連休前後は日本で決算シーズンがスタートする

新緑がまぶしい5月の連休シーズンですが、日本ではこの直前からいわゆる「決算シーズン」に入ります。これは3月決算の企業が続々と通期決算を発表していくからにほかなりません。

通期決算はとても大切です。決算発表はいわゆる決算短信という形で行われますが、多くの企業が次の1年間の業績見通しを発表するからです。この数字がそれまで市場が期待している数値より良いのか悪いのか、それはなぜか、毎年このシーズンになるとアナリストやファンドマネージャー、そして個人投資家が数字の読み込みをして株価を判断していきます。

1日に何社も決算が出るとアナリストは忙しくなります。私もこの季節は、毎日毎日、岩手名物のわんこそばをいただいているような気分になるものです。

小売の決算は一足早い

ところで小売企業の決算は実は3月末から4月上旬までがピークです。一足早いのです。というのも多くの小売企業が2月や8月に本決算をするからです。

小売企業の決算ではどの会社が好調なのか見ていくことになりますが、実は3月決算の企業の決算を占うヒントも提供してくれます。なぜならば、日本や中国の消費者の最終需要のトレンドが見えてくるからです。特に食品、自動車、家電などの内需の感触はかなり伝わります。ぜひ他の企業より先に発表される小売企業の決算の中身に関心を持っていただきたいと思います。

では既に発表された小売企業の決算で特筆すべき点は何でしょうか。以下に2つ取り上げてみます。

セブン&アイ・ホールディングスのトップ交代劇を株主目線で見る

おそらく一番メディアで取り上げられたのが、国内有数の総合小売業であるセブン&アイ・ホールディングス、そしてその成長牽引役であったセブン‐イレブンを長年率いてきた鈴木敏文会長(当時)が突然降板したことです。長年鈴木会長を支えた村田紀敏社長も退任し、代わってセブン‐イレブン・ジャパン生え抜き社長の井坂隆一氏がグループの社長になりました。

この経緯については、メディアで既にいろいろ報道されていますから詳細はそちらに譲りますが、登場人物の多彩さにも目を奪われます。

ただし投資家目線でこの問題を考えると、これまでのメディアの観点とは少し違う問題を感じてしまいます。なぜなら、グループのトップが変わったことでグループの経営方針がどうなるのか、十分な情報が出てこない「空白期間」が生じてしまったからです。グループ全体が中長期的にどう変わっていきたいのか、株主に向けた方針が見えてきません。

この理由ははっきりしています。鈴木さんの退任は年齢を考えれば当然予想されます。そうであれば、予め複数の後任候補者が指名・報酬委員会などできちんとピッチをしてビジョンを示し、グループ経営を任せるにふさわしい人物かどうか、審査すべきであったということです。この過程を経ているのかいないのか、開示情報はありません。しかし一定のクオリティのピッチコンテストをしていれば、すぐに新しい経営方針が出てくるはずでしょう。

カリスマトップの後継者問題は、ファーストリテイリングしかり、ソフトバンクしかり、日本電産しかりと今後日本の有力な企業が次々に直面する問題です。後継トップの選択をどうやっていくのか、今回の事例は大いに示唆に富むものになったと言えます。

とはいえ、井坂さんはセブン‐イレブン・ジャパンたたき上げです。他のコンビニ大手のトップが商社出身であることとは一線を画しています。現場を知り尽くした新社長の手腕が大いに注目されます。

ファーストリテイリングの下方修正は暖冬が原因か

8月本決算のファーストリテイリングの第2四半期決算も注目を集めました。期初に増収増益計画を立てていたにもかかわらず、第1四半期決算で増益率が下方修正され、今回の第2四半期決算では見通しが再度下方修正されたのです。その結果、現在の会社計画は、通期で売上収益が対前年度比+7%増、営業利益が同▲27%減という減益見通しになりました。

この要因でよく言われるのが、暖冬による需要不振と値上げによる消費者離れ、そして円高の影響です。特に暖冬は稼ぎ時である初冬の売上にマイナスの影響が出ます。暖冬は、たとえば百貨店などの収益にもマイナスの影響を及ぼしました。

しかし、暖冬でなければ順調な決算になっていたかと言われると疑問が残ります。値上げも実はあまり問題ではなかったのではないでしょうか。根底にある問題は、「お店にしっかり在庫を置いて、チラシを打てば、消費者は遅かれ早かれ買いに来る」という店舗至上主義だったと筆者は見ています。

消費者1人1人との接点の弱さを柳井社長は痛感しているはずです。いや、少なくとも昨年には気づき、手を打ち始めていたのではないでしょうか。それが新しい有明の物流拠点であり、ECサイトの強化であり、コンビニ受取です。

日本の小売業の中で、グローバル化が進んでいるのはファーストリテイリングと良品計画です。そしてこの2社がともにEC強化を進めていますが、それはグローバルなサプライチェーンの再構築と連動しており大変興味深いです。この2社が日本初のグローバルリテーラーになるのか、大いに期待したいと思います。

今後の決算発表で注目すべきポイントとは

さて、今後発表される小売企業の決算で注意をしておくべき点を最後に整理しておきましょう。

実はこれまでの決算発表で複数の経営者が述べていたのが、消費者の財布のひもが固くなったということです。原油安や円高で消費者物価の上昇が止まってきましたが、家計の収入は企業業績の悪化で弱含んでいることでしょう。そして株価も下がりました。「生活防衛意識」が高まっている中で、各小売企業がどう収益を上げるのか、これが第1の注目ポイントです。

第2の注目ポイントは、インバウンドの行方です。訪日渡航者数の伸び率が徐々にスローダウンしてきましたし、中国の関税の変更で訪日中国人の購買行動にも変化が予想されます。さらに、今回の熊本の地震の影響も考えられます。追い風だったインバウンド消費が変調した場合の備えがあるのか、注意したいところです。

今後、百貨店では三越伊勢丹ホールディングス(3099)、エイチ・ツー・オー リテイリング(8242)の決算が発表されます。インバウンド需要の変化にどう対応するのか見ていきたいと思います。

ドラッグストアのサンドラッグ(9989)、マツモトキヨシホールディングス(3088)、ディスカウンターのドンキホーテホールディングス(7532)などでは、インバウンドだけでなく国内消費者の生活防衛にどう対応していくのか見守りたいポイントです。

最後に、ヤマダ電機(9831)、ケーズホールディングス(8282)などの家電量販店では、白物家電の好調が続くのか、黒物といわれるテレビやPCに買い替え需要が出るのか見ておきたいと思います。

【2016年4月29日 投信1編集部】

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LIMO編集部