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ブラジル下院の特別委員会で弾劾勧告が可決したことでルセフ大統領の弾劾裁判への流れは一歩進んだ格好です。しかし、弾劾裁判の道のりは長く、また新たな体制も不透明など、ブラジルの問題解決のハードルは高いと思われます。

弾劾裁判による政権交代期待がブラジルの株式や為替市場のプラス要因となっていますが、弾劾裁判の手続きは複雑で、成立までに紆余曲折が想定されることに注意も必要です。

また、仮に弾劾となっても、新体制の中身に注意も必要です。

弾劾に平行して進められている違法献金捜査が思わぬ展開となる可能性も考えられます。

ブラジル大統領弾劾手続き:ブラジル下院特別委員会で可決

ブラジル下院の特別委員会は2016年4月11日、ルセフ大統領の弾劾の是非を巡って特別委員会(65議員で構成)は賛成38、反対27で弾劾勧告を可決、下院本会議で審議することを決められました。

本会議での投票は早ければ4月17日にも行われる可能性が報道されています。ルセフ大統領は再選を果たした2014年の大統領選挙前に、社会保障関連の予算を不正操作したとして2015年後半に野党がルセフ大統領への弾劾を請求しています。

どこに注目すべきか:特別委員会、副大統領、違法献金疑惑

ブラジル下院の特別委員会で弾劾勧告が可決したことでルセフ大統領への弾劾裁判の手続きは一歩進んだ格好ですが、弾劾裁判の手続きは長く、また新たな体制も不透明など、ブラジルの問題解決のハードルは高いと思われます。

最初に、ルセフ大統領に対する弾劾裁判の流れを確認します。2015年後半、ブラジルの野党はブラジル議会下院にルセフ大統領の弾劾請求を行い、2016年3月に下院に特別委員会が設置されました。

上記で述べたように、同委員会の採決で弾劾勧告が可決したため、下院で弾劾採決が行われる運びです。この採決で下院が賛成多数(3分の2以上、342議席)となれば上院に弾劾手続きが送られ、弾劾継続の可否を問う採決が行われます。

ここで過半数が賛成した場合、ルセフ大統領は180日の離任、テメル副大統領が代行(暫定大統領)、上院に弾劾法廷が設置され、上院で弾劾採決が行われます。そこでも3分の2(54議席)以上の賛成となればルセフ大統領は失職、テメル副大統領が大統領に昇格します。

以上の流れを踏まえ、市場にブラジルの政治改革の前進を期待する声もあり、例えば、レアルは足元回復しています。原油価格の落ち着きなどもレアル回復の要因と見られますが、弾劾裁判への期待もレアル上昇要因と見られます。

弾劾裁判手続きの現状に戻ると、下院の特別委員会(弾劾の是非を検討)の採決結果が出たことで、早ければ4月17日にも賛否を問う採決が下院で行われる見通しで、弾劾の手続きは一歩進んだ印象です。ただし、次の不確実要因も残ります。

まず、下院での弾劾採決が成立するかに注意が必要です。現地の報道を見ると、下院議員で弾劾に賛成なのは現時点で300議席を下回るとの見通しが大半で、可決に必要な342議席(下院の定数は513議席)の確保は微妙な情勢です。

仮に反対が171議席集められなくても、賛成議席が342を下回れば弾劾は不成立(ルセフ大統領留任)となるだけに、野党が今後どこまで弾劾賛成票を伸ばせるかが市場動向を左右する展開も想定されます。ハードルは低くないと見られます。

次に、仮に弾劾が最終段階まで進み上院で成立(またはルセフ大統領の辞任)した場合は、後任として、テメル副大統領が2018年まで任期を得ることが有力ですが、ここでも注意が必要です。テメル副大統領は国民からの知名度は低く、人気が高いとはいえない点が懸念されるからです。

国民への理解を求めながら構造改革を進めことかできるか力量が問われる局面も想定され、万一ルセフ大統領が政権を去ることになったとしても、市場は冷静に新たな体制を評価する必要があると見ています。

なお、ルセフ大統領には、弾劾とは別に、2014年の大統領選挙における違法献金疑惑の捜査も進行中です。時期は不透明ながら、仮に違法献金で選挙結果が無効と判断された場合、正副大統領の辞任、再選挙というシナリオもひょっとすると考えられるかもしれません。再選挙というとイメージは良くありませんが、市場にとっては悪い話ではないのかもしれません。

ブラジルの今後の政局には今後様々な可能性が想定され、正確に予測することは困難と思われます。したがって市場動向を占う上では今後想定される政権が構造改革を進める政権かどうかを押さえることが大切と見ています。

【2016年4月16日 ピクテ投信投資顧問 梅澤 利文】

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ピクテ投信投資顧問株式会社 梅澤 利文