この記事の読みどころ

化学セクターの2016年3月期決算発表は4月25日の週からスタートを切り、電子材料系事業を収益の柱にした企業が発表を行いましたが、概ね実績は良くありませんでした。

連休明けから発表となる大手総合化学、繊維、ファインケミカルなどの決算の注目点は、今2017年3月期でどのような見通しを公表するかにあります。

化学セクターは原油市況や中国を中心としたマクロ要因に強い影響を受けるため、恐らく慎重な見通しのラッシュとなることが予想されます。

決算発表企業の実績や業績予想から電子材料系の見通しを考える

電子材料系の代表的な化学企業であるJSR(4185)、日立化成(4217)、信越化学工業(4063)は、化学セクターの先陣を切って決算が発表されます。

2016年3月期実績に関しては、JSRの営業利益は期初予想からの下方修正を経て前年同期比で▲9.6%減益であった一方、日立化成の営業利益は同+81.5%の大幅な増益と、この2社は対照的な結果となりました。

JSRの収益源は液晶ディスプレーの各種材料と半導体向けフォトレジスト等ですが、いずれも昨年夏以降のスマートフォンの減産を受け、出荷に大きなブレーキがかかりました。日立化成は2015年3月期に大幅な人員削減を実施した結果、固定費の低減などで大幅な増益となっています。

両社とも2017年3月期の会社予想として1桁台の営業増益を計画していますが、現状のエレクトロニクス産業の環境を勘案すると、これでも楽観的かもしれません。

4月28日に発表された液晶向け偏向フィルムで世界トップの日東電工(6988)の決算では、営業利益は会社予想の1,100億円を下回り、前年同期比▲4.1%の1,024億円となりました。2017年3月期の会社予想も営業利益は▲12%減益を見込むなど、厳しい見通しを開示しました。

日東電工の2016年3月期実績を少し細かく見ると、工業用テープのインダストリアルテープ事業は同+34.9%の営業増益でしたが、液晶向け偏向フィルム、HDD向け配線板などのオプトロニクス事業が同▲25.2%の減益となりました。

2017年3月期もスマートフォン、HDD 駆動装置の厳しい環境が続くと会社側では見ており、現時点で楽観的に予想できる環境ではないと思われます。

決算よりも注目された信越化学工業の社長交代発表、翌日株価は+3.9%高

4月26日の引け後に発表された信越化学工業の2016年3月期実績の営業利益は、前年同期比+12.5%となり、電子材料系不振の環境下では比較的健闘したと思います。おおよそコンセンサス(IFIS)並みの着地でしたが、翌日の株価は+3.9%の6,518円で引けました。

昨年に続き翌年度(2017年3月期)の業績予想を開示しなかったにもかかわらず株価が上昇したのは、社長交代の発表が株式市場で好感されたのでしょう。

具体的には、6月29日の総会をもって現在の森俊三社長から、従前より次期社長の本命と目されていた斉藤恭彦氏にバトンタッチされる予定です。森氏の健康上の理由とされていますが、海外畑が長く米国の塩ビ事業を世界一の規模に引き上げた斉藤氏の実績が買われたものと思われます。

信越化学工業は国内の化学企業の時価総額ではトップ、世界規模でもトップ10にランクされ、今後、海外通の斉藤氏の下でますます国際企業としての展開が期待できそうです。

なお、これまでの実質トップであった金川会長は留任しましたが、90歳という高齢を考えると実質的には斉藤氏が権限を握るという見方もできるでしょう。

連休明けからの発表の動向を予想してみると

5月10日(火)から13日(金)には残る大半の化学会社の発表が目白押しで、気を抜けません。

総合化学メーカーでは、連休前に三井化学(4183)と三菱ケミカルホールディングス(4188)の2社が2016年3月期の業績修正を発表済みですので、決算発表で大きな波乱はないでしょう。しかし、実績にサプライズがない分、2017年3月期の会社予想に大きな注目が集まりそうです。

その他の総合化学企業は、昭和電工(4004、12月決算)、住友化学(4005)、東ソー(4042)、旭化成(3407)と決算発表が続きますから、こちらにも注目です。

石油化学を中心とした汎用化学事業は、原料の国産ナフサ価格が2016年4~6月頃まで下がり続ける可能性が高く、製品価格も原料から3か月程度の遅れで価格が下がります。そのため、一見、原料コスト安のメリットが出るように思われますが、ユーザーはまだ安く買えると思ったら慌てて買うような態度はとりません。

したがって、2017年3月期の業績予想開示の傾向については、上期は2016年3月期下期対比で減益が大勢だと思われます。一方、下期は景気回復、円安への転換を織り込んで強気の見通しを出す可能性は否定できません。しかし、この点は慎重に見極める必要がありそうです。

いずれにしても、大手総合化学企業の株価は2015年後半から大幅に下がってきており、業績悪化は既に株価に織り込まれたと考えて良いでしょう。むしろ、ここからはどのタイミングで買ったらいいのかを考えるステージに入りつつあると筆者は考えます。

原油価格、原料の国産ナフサ価格、中国の景気動向、為替の動きを見ながらそのタイミングを見計らっていきたいと考えます。

【2016年5月3日 投信1編集部】

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LIMO編集部