三菱重工が日立に巨額請求―火力発電合弁会社の係争の行方

突然、明らかになった巨額請求

2016年5月9日に三菱重工(7011)は2016年3月期決算を発表しました。決算数値は事前に下方修正された数値に沿ったもので大きなサプライズではありませんでしたが、非常に気になったのが、日立製作所(6501)へ約3,800億円もの巨額請求を行ったという決算短信の注記に記載されていた一文でした。

日立も三菱重工が決算を発表した13時から1時間半後の14時30分に「MHPSの南アフリカプロジェクトに関する協議状況について」というリリースを発表しています。こうした係争が存在することが初めて公になるとともに、両者の見解が大きく異なることが明らかになりました。

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異なる両社の見解

三菱重工と日立は2014年に火力発電システムを主体とする合弁会社の三菱日立パワーシステムズ社(以下、MHPS)を設立しています。今回の係争の案件は、この合弁会社が設立される以前の2007年に、日立が受注した南アフリカ共和国におけるボイラー建設プロジェクトに関連するものです。

仮に2014年にMHPSが設立された時に、当該プロジェクトに係る将来の損失を合理的に算定することができていれば、合併比率を調整することで、こうした係争には至らなかったと見られます。

しかしながら、実際はそうすることができなかったために、三菱重工は合弁会社が設立された際、将来、損失が確定した時点で譲渡価格調整金等を日立から受け取る権利を得ています。三菱重工は、こうした契約に基づき上記の金額を請求しています。

これに対して日立は、譲渡価格調整金については、現在も協議が継続中であり両社の間で合意に至っておらず、請求には契約に基づく法的根拠が欠けると主張しています。

また、一方で、既に見通される損失の一部を合理的に見積もった金額に基づき適正に会計処理を行っているとも主張しており、調整金を支払うこと自体は否定していません。

今後の注目点―災い転じて福になるか

このような個別プロジェクトの契約内容については、開示される内容は限定的なものになります。また、両社間には守秘義務があるため、第三者が得られる情報は短信やプレスリリースに限られますが、なぜ、このような巨額な超過費用が発生したのか、および、同じような損失プロジェクトが繰り返されないかについては、今後も注視したいと思います。

そもそも、MHPSはGEやシーメンスといった海外の大手発電システムメーカーとの世界競争で優位な展開を進めるために設立した会社です。両社がばらばらに海外で受注活動を行うよりも日本連合としてまとまったほうが受注獲得の可能性が高まるという考えからでした。

成長の“のりしろ”は海外の方が大きいことを考慮すると、合併は極めて合理的な判断と見ることができます。このため、今回明らかになった係争が早期に解決し、“内なる敵”ではなく“外の敵”に向かって力を存分に発揮することを期待したいと思います。

また、南アフリカでは資源価格の下落により、短期的には鉱山開発のための電力需要が停滞している可能性が考えられるものの、一方で電力不足が経済成長のボトルネックになっているという可能性も十分に想定されます。

このため、今回は“高い授業料”となってしまいましたが、発電プロジェクトを軌道に乗せることで、南アフリカの成長に貢献し、それにより新たなプロジェクトを獲得するという好循環を生み出すことができるかについても、注目していきたいと思います。

【2016年5月11日 和泉 美治】

■参考記事■

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和泉 美治

同志社大学文学部卒業後、エルコインターナショナル (現:京セラエルコ) に入社。英国バーミンガム大学にてMBA取得。
その後UBSフィリップスアンドドリュー証券 (現:UBS証券) に入社し、調査部にてエレクトロニクスセクターを担当。2002年より2013年までJ.P.モルガンにて産業用エレクトロニクス及び民生エレクトロニクスセクターを担当。
日本証券アナリスト協会検定会員。