円高対策、為替介入で気になる点―今後の展開は?

この記事の読みどころ

足元、為替市場の変動がするなか円高・ドル安となる局面も見られます。背景としては、米国の景気回復に対する懸念が高まっていること、日本の追加金融緩和策への失望、並びに為替介入期待の後退などがあげられます。麻生財務相は為替介入を思わせる発言を繰り返していますが、実施には至っていない、その背景として考えられる理由をご紹介します。

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米財務省:日本など5か国・地域を「監視リスト」に-為替報告書

米財務省は2016年4月29日、半期に一度の外国為替報告書を発表し、中国と日本、ドイツ、韓国、台湾を「監視リスト」に入れました。米財務省により、5か国・地域が不公正な為替政策の可能性があるとする3つの基準のうち、どの国・地域も2つに抵触するとの判断が示されました。

どこに注目すべきか:外国為替報告書、経常収支、為替介入

外国為替市場で足元、円高・ドル安傾向がドルインデックスを上回るペースで続いていることから、円高・ドル安のペースが相対的に進行している状況です。円高の背景としては、まず(ドル高などを背景に)米国の景気回復に対する懸念が高まっていること、日本の追加金融緩和策への失望、並びに為替介入期待の後退などが要因としてあげられます。

これらの要因のうち、本稿では、為替介入期待の後退に焦点を当てます。その背景としては様々な理由が考えられますが、まずは外国為替報告書の内容を振り返ります。外国為替報告書は年2回、米財務省が議会に為替を操作している国を報告するものです。

同報告書の中で米財務省が不公正な為替政策と判断する基準は次の3つです。1つ目は過去12か月の対米貿易黒字が200億ドル(約2兆1,400億円)超であること、2つ目は経常黒字が名目GDP(国内総生産)の3%超であること、3つ目は継続的で一方向な為替介入でGDPの2%超規模の資産を購入しているかが基準となります。

次に今回の報告書で、(5つの国は)何が基準値に触れたかを見ると、日本をはじめ、中国、ドイツ、韓国は貿易黒字と経常黒字の基準の2つに抵触しています。台湾は経常黒字と継続的な一方向の為替介入の基準に抵触しています。

ここで日本の経常収支の内訳を振り返ると、日本は過去3年ほど貿易赤字となっていましたが、貿易赤字は解消し、安定的な所得収支と合算して経常収支の対GDP 比率は3%を超える経常黒字となっています。

ちなみに外国為替報告書では2015年の日本の同比率は3.3%となっています。また、対米の貿易収支(黒字)は同報告書で2015年が686億ドルと述べられています。

為替介入は台湾だけが該当し、米財務省は台湾の為替介入(純購入)の対GDP比率を2.4%と推定しています。日本は同比率が0%で最近為替介入(による外貨の購入が正味で)が無い格好となっています。

なお、同基準は対GDP比で2%超となっているため、基準に抵触することなくある程度の介入額(10兆円程度)を確保できる計算です。ただし、問題となるのは仮に3つの基準すべてに抵触すると2国間協議を開始し、場合によっては制裁対象となる可能性もあるため、為替介入に慎重になることが考えられることです。

外国為替報告書は為替介入を禁止するという性質ものでは決してありませんが、経常収支が黒字で、かつ対米貿易黒字が大きい国にとっては、為替政策として介入を前面に押し出すには配慮が必要なのかも知れません。

米国景気は2016年後半には回復を見込むものの、目先は軟調な数字も想定されるため、円相場も不安定な動きが見込まれますが、為替介入だけに頼るのでなく景気刺激策との組み合わせも必要と思われ、その上で、為替介入について海外当局との合意を取り付ける必要もあるでしょう。

ひょっとすると、足元、麻生財務相の為替介入のトーンがやや上がっている印象なのは、他国との交渉がある程度進んでいるからなのかもしれません。

【2016年5月12日 ピクテ投信投資顧問 梅澤 利文】

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 ピクテ投信投資顧問株式会社 梅澤 利文

梅澤 利文
  • 梅澤 利文
  • ピクテ投信投資顧問株式会社
  • シニア・ファンド・アナリスト

東京理科大学工学部卒業後、国内証券会社のシステム運用部門を経て、外資系運用会社(BNPパリバ投信投資顧問(当時)等)で債券、仕組債、オルタナティブ運用を担当。
2010年ピクテ投信投資顧問入社。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員。