企業の成長可能性が分かるのは経営説明会―日立製作所を例に

長期投資志向の個人投資家が注目すべきポイントは?

決算発表期の次は経営説明会シーズンが到来


日本では3月を期末とする上場企業が多いため、4月末から5月中旬は通年の決算発表で忙しくなります。それが終わると、次は経営説明会シーズンが到来します。そして、6月後半は株主総会の時期となります。

複数の事業を手掛ける大手企業の中には、経営説明会に加え、各事業の経営戦略について説明を行うIRデーも開催されます。いずれも、決算だけでは理解しきれない中長期の見通しを理解するための有益な機会です。各社のホームページで動画や資料を見ることが可能ですので、長期投資で資産形成を目指す個人投資家の皆さんは、ぜひ活用してください。

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とはいえ、どこに注目すべきなのかよく分からないとお感じの方も多いと思います。そこで、今回は2016年5月18日に発表された日立製作所(6501)の経営方針説明会を例に考えてみたいと思います。

経営説明会のどこに注目すべきなのか―まずは表紙

 
筆者は、まず説明会資料の表紙に注目しす。そこでキーメッセージを掴むことができる企業は、経営に無駄がなくシンプルであり、方向性も明確であることが多いからです。

残念ながら今回の日立のプレゼンテーションの表紙には「2018経営計画」としかなく、副題がありませんでした。しかし、2010年5月31日に発表された2012中期経営計画では、「社会イノベーション事業による成長」と「安定的経営基盤の確立」、また、2013年5月16日に発表された2015中期計画では、「成長の実現と日立の変革」という副題がありました。

ちなみに、なぜ今回は副題がなかったかは不明ですが、筆者であれば、“社会イノベーション事業の深化のための仕組み作りに注力”という副題を付けたと思います。

数値目標そのものよりもストーリーに注目


新聞等のメディアでのヘッドラインには業績目標数値が取り上げられることが多いですが、事業環境は毎年大きく変化しますので、より重要なのは、目標数値そのものではなく、数値を達成するための施策やストーリーの組み立て方です。これが分かりやすく解説されているかが大切な注目ポイントです。

日立の成長ストーリーは社会イノベーション事業の強化


では、日立の場合について見てみましょう。今回、説明されたのは、顧客に直接サービスを提供する「フロント」を強化した組織変革と、「Lumada」と呼ばれるIoTプラットフォームの積極活用(2015年に買収した米ペンタホ社製のビックデータ解析データ分析ソフトをコアとしている)などでした。

フロント部門の強化策としては、営業、SE、コンサルタント、プラットフォーム開発者の人員を2016年3月期の11万人から2019年3月期には13万人に増強する計画が発表されました。また、プロダクトアウトではなく、顧客起点のソリューション提案のマインドを従業員に浸透させるための教育プログラムを強化する計画も示されました。

Lumadaについては、ITとプロダクトの両方にノウハウを持っていることや、欧州のインダストリー4.0、北米のIndustrial Internet、中国の中国製造2025、日本のSociety5.0など、世界各地域で進められている様々なIoTプラットフォームとの連携が可能なオープンアーキテクチャーであることを強みに、普及拡大を進めると説明されました。

また、今回のプレゼンテーションでは、注力事業とそれぞれの事業の注力投資分野として、1)電力・エネルギー(グリッド・エンジアリング強化)、2)産業・流通・水(エンジアリング強化等)、3)アーバン(鉄道事業エリア拡大等)、4)金融・公共ヘルスケア(インフォマティック等の強化)が掲げられました。

こうした説明により、従来のサーバー、モータ、鉄道車両、エレベータなどの単品販売や、発電所システムなどの建設・施工だけではなく、これらにIT技術を組み合わせて顧客の問題解決に注力するというビジネスモデルが日立の目指す姿であることがイメージできました。

IRデーにも注目


方向性は理解できたものの、疑問点もいくつか残りました。たとえば、注力分野の中に自動車の自動運転関連について言及がなかったことです。自動運転分野こそIoTプラットフォームとプロダクトの連携が最も求められる成長分野ですので、おそらく、今回は”紙面の都合“で触れられなかった可能性が高いと考えられます。

日立は、各事業について詳細な説明を行う「日立IRデー」を6月1日に開催予定です。おそらく、自動運転に関しては、そこで説明が行われるのではと推測します。

1回の経営説明会だけで全てが理解できるのが理想ですが、大企業の場合は、そうはならない場合が多いことも現実です。とはいえ、このギャップを埋めるために、日立のようにIRデーを開催し、中期計画のさらなる肉付けを行う”説明責任”(アカウンタビリティ)に対する意識が高い企業も増えています。

このため、経営説明会だけではなく、IRデーを活用した情報収集をすることも、長期投資を目指す個人投資家の皆さんにはお勧めしたいと思います。

 

和泉 美治

同志社大学文学部卒業後、エルコインターナショナル (現:京セラエルコ) に入社。英国バーミンガム大学にてMBA取得。
その後UBSフィリップスアンドドリュー証券 (現:UBS証券) に入社し、調査部にてエレクトロニクスセクターを担当。2002年より2013年までJ.P.モルガンにて産業用エレクトロニクス及び民生エレクトロニクスセクターを担当。
日本証券アナリスト協会検定会員。