リーマンショックの前兆は感じられなかった4月鉱工業生産指数

消費増税再延期の政治的判断の背景は?

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4月の鉱工業生産指数は2か月連続のプラスに

2016年5月31日に経済産業省が発表した4月の鉱工業生産指数(2010年=100、季節調整済み)の速報値は、前月比+0.3%上昇の97.0になりました。業種別では、化学工業(医薬品は除く)、電気機械工業、はん用・生産用・業務用機械工業等が上昇した一方で、金属製品工業、輸送機械工業、繊維工業等が低下しました。

品目別で4月の鉱工業生産をプラス方向に引っ張ったベスト3は、化粧品、自動車部品、生活関連産業用機械でした。一方、マイナス方向に引っ張ったワースト3は、半導体・フラットパネル製造装置、建設用金属製品、乗用車でした。

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4月には熊本地方を中心にした一連の地震により、ソニー(6758)、ルネサスエレクトロニクス(6723)、三菱電機(6503)、トヨタ自動車(7203)などが直接的な被災、あるいはサプライチェーンの混乱による間接的な影響を受けましたが、4月の鉱工業生産指数では明確にはこの影響を確認することはできませんでした。

ちなみに、被災したソニーの熊本地区での生産品が含まれるモス型半導体修正回路(CCD)の生産は前月比▲1%減、出荷は同+8%増、また、ルネサスエレクトロニクスの生産品が含まれるモス型半導体集積回路(マイコン)については、同+5%増、出荷は同▲3%減でした。

5月の統計も精査する必要があるものの、危機対応に備えた事業継続計画(BCP)が、今回の震災では一定程度、貢献していた可能性がありそうです。

今後の見通しは?

今回の発表で経済産業省は、基調判断を2015年9月から8か月連続で「一進一退で推移している」に据え置きました。また、5月の予測指数は前月比+2.2%の上昇(前回予想は▲2.3%の低下)、6月は+0.3%の上昇という見通しを示しました。

4月の在庫指数が2か月ぶりに前月比で低下していたことや、円高傾向に歯止めが見られること、スマホの新製品の生産が始まることなどから、2016年2月を底に生産の回復傾向が今後も続くという見方に特段の違和感はありません。

鉱工業生産指数は、リーマンショック(金融危機)直後の2009年2月には80割れ、また東日本大震災があった2011年3月には85まで低下しましたが、少なくとも今後2か月間は、そうした状況に陥る可能性は小さいと、政府自身が認めていることになります。

鉱工業生産以外の弱さに注意が必要

上記のように、生産活動は健全です。ただし、日本の経済活動全体に占める鉱工業の割合は20%弱であり、また、鉱工業製品の流通に密接に関連する卸売業、小売業、運輸業を考慮しても、国内総生産に占めるウエイトは約4割に過ぎないことには留意すべきでしょう。

つまり、残りの6割の消費や政府支出(公共投資等)にも目配りをすべきということです。

今回、安倍首相は、足元の経済状況を「リーマンショック前夜」と表現し、2017年4月に予定されていた消費税増税の再延期を決断したようです。ここでは安倍首相の経済に対する理解度については議論しませんが、延期の背景にあるのは鉱工業生産ではなく、それ以外の分野、つまり消費に弱さが見られるため、今回の政治的な決断に至ったと考えられます。

ただし、そのようにダイレクトに表現してしまうと、問題の本質が国内内需の問題になってしまい、アベノミクスの失敗という政治的な批判は免れなくなります。そこで、ある意味苦し紛れの「リーマン前夜」という表現になったのかもしれません。

いずれにせよ、長期的に資産形成を目指す個人投資家は、こうした政治家によるレトリックに翻弄されずに経済の実相を見極めることが重要です。少なくとも、生産活動は”リーマン前”のようなバブルにもなっていませんし、”リーマン後”のような急落した水準にもないことを頭の片隅に入れておくこともお忘れなく。

 

投信1編集部

投信1編集部は、証券アナリストやファンドマネージャーとして長年の調査経験を持つメンバーで構成されており、金融・経済ニュースや投資に関する知識・アイデアをわかりやすくお届けします。