減速する中国市場で過熱するエレベーターの高速化競争

日立と三菱電機の世界最速争いよりも注視すべきポイントは?

世界最高速をほぼ同時に発表した三菱電機と日立製作所

2016年5月10日に三菱電機(6503)は、世界最高速となる分速1,230m/時速74kmのエレベーター技術を開発し、同技術を中国・上海市の中国最高層ビル、上海中心大厦(上海タワー、地上632m)向けに導入すると発表しました。

一方、その17日後の5月27日には日立製作所(6501)が中国・広州市の超高層複合ビル、広州周大福金融中心(地上530m)において検査中のエレベーターが世界最高速となる分速1,200m/時速72kmで走行することを実証したと発表しました。

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両社とも世界最速を主張していますが、プレスリリースの数値を見る限り三菱電機に軍配が上がります。とはいえ、両社とも現状はまだ試運転中です。引き渡しは三菱電機が2016年7月、日立が今秋の予定であり、正式な結果が明らかになるのは、おそらく商業運転が始まってからでしょう。

ちなみに、現在運行中の最速は、2016年3月に完成した上海タワーに三菱電機が導入済の分速1,080mのエレベーターです。それ以前は、2005年に東芝が台湾の台北101ビルに導入した分速1,010mが世界最高速でした。

なぜ世界最速にこだわるのか

通常のマンションのエレベーターのスピードは分速30~60mが一般的で、それで十分に事足ります。また、日立のエレベーターの歴史を見ても、導入時点でのスピードは1968年に完成した霞が関ビルで分速300m、1991年の東京都庁でも分速540mに過ぎず、分速1,000mを超えたのは今回が初めてです。足元で急速に高速化競争が激化しているという印象を受けます。

両社がここまで最速にこだわるのは、ここにきて高速化技術が進歩したことに加え、世界最速になるとメディアの注目を集め、技術力の高さについて大きな宣伝効果が期待されるためだと推測されます。

実際、日立のプレスリリースには自社の技術力をアピールする詳細な情報が豊富に盛り込まれていました。

たとえば、分速1,200mを実現するための大出力と薄型化を両立するために自社開発の永久磁石モーターが採用されていること、安全性を高めるために耐熱性に優れた制動材を採用したブレーキ装置も新たに開発されたこと、さらに、快適な乗り心地を提供するため耳閉感を緩和する独自の気圧制御機能も採用されていることなどです。

同様に、三菱電機のプレスリリースにも技術的な優位性が強調されていました。

減速する中国のエレベーター市場

2016年6月1日に開催された日立の「Hitachi IR Day 2016」では、エレベーター事業を手掛けるビルシステム事業についてもプレゼンテーションが行われました。そこで、やや気掛かりであったのは、中国市場について不透明感が依然として強いという会社側のコメントでした。

同社では、2017年3月期の中国の新設市場はマイナス成長を予想し、2018年3月期以降はGDPの成長率に同期して回復を見込むものの、市場の回復が遅れる可能性があるため今後の動向を注視する必要があるとコメントしていました。また、価格競争力のあるボリュームゾーンをターゲットにした新製品を投入することや、保守事業やコストダウンを強化することなどで業績の悪化を最小限に留める考えも示されました。

こうしたコメントから、華々しい高速化競争の裏には、市場環境が悪化する中で少しでも市場でのプレゼンスを引き上げようとする考えがあることが読み取れます。

ちなみに、エレベーター事業は新設の販売だけではなく、既設のエレベーターの保守事業から安定的な収益確保が期待できる典型的なストック型のビジネスです。よって、短期的な市場の調整に過度な懸念は不要ではあるものの、市場回復が遅れるリスクには今後も注意が必要です。

加えて、中国での保守事業は日本に比べてやや遅れているため、期待通りに拡大していくかについても注視していくことが重要でしょう。

 

投信1編集部

投信1編集部は、証券アナリストやファンドマネージャーとして長年の調査経験を持つメンバーで構成されており、金融・経済ニュースや投資に関する知識・アイデアをわかりやすくお届けします。