なぜ株式市場で飼料用アミノ酸が注目されるのか

世界の人口は新興国を中心に増加すると言われていますが、宗教的な観点で増加地域を推定すると、ヒンズー教とイスラム教の国がその牽引役になると見られます。一般的には、経済発展によって中所得者層が増えると、食肉需要が飛躍的に増加すると考えられています。

足元では新興国経済の停滞、中東産油国の財政問題などの懸念が大きく、食糧危機を議論する局面ではないものの、中期的には間違いなく顕在化する大きなテーマだと考えていいでしょう。

なお、イスラム教信者は豚肉を、ヒンズー教信者は牛肉を食べないため、そこに市場拡大の障壁が立ちはだかっているように見えます。一方、鶏肉はどちらの宗教の信者でも問題はなく、先進国では健康志向を背景に鶏肉志向が高まっています。

飼料アミノ酸は食肉増産に“必須“の化学製品

動物(ヒトを含む)の体を構成するタンパク質は、20種類のアミノ酸から構成されています。しかし、アミノ酸には、体内で自然に合成されるものと、合成されにくい必須アミノ酸の2つのグループがあります。

必須アミノ酸とは体の成長のために必要とされるアミノ酸の総称で、リジン、メチオニン、トリプトファン、スレオニン、バリンといったものがあります。

米国で必須アミノ酸であるメチオニンの製造会社を運営している三井物産の資料によると、鶏の成長促進は、飼料へのメチオニンの添加量によって決まるとされています。実際に孵化してから出荷されるまでの期間を見ると、飼料にメチオニンを添加しない場合は120日であるのに対して、添加すると42日で出荷できるようです。

しかも、出荷日が早まるだけでなく、メチオニンを添加した場合、添加しない飼料で育ったものと比べて鶏の体重も劇的に増えるとされています。即ち、必須アミノ酸は肥育効果が大きく改善する切り札になり得るものとも考えられ、食糧危機を救う本命製品になるかもしれません。

飼料用必須アミノ酸の市場規模は

世界的な公式の統計は存在しないものの、製造企業からのヒアリングや様々な資料を参考にすると、世界市場の規模はリジンで年間200万トン弱、メチオニンで同100~110万トン、スレオニンで同33万トン、トリプトファンで同9,000トンと推定されます。

必須アミノ酸の市況はその時々の需給関係で変動しますが、量産規模が年間100万トンを超えるリジン、メチオニンの年間市場規模は4,000億円から5,000億円(110円/ドル換算)近くに達していると推定されます。

また、新興国などの所得増加による食肉文化の進行により、これらの市場の年間平均成長率は+4~5%と見られます。昨今の世界経済の状況を勘案すると、非常に魅力的な成長率と考えていいのではないでしょうか。

世界の製造会社は限られる

必須アミノ酸は、発酵あるいは化学合成によって製造されています。天然と同じものを製造するわけですから、技術力はもちろん、資本力や世界的なネットワークがこのビジネスには必要不可欠です。

したがって、リジン、メチオニン、スレオニンなど主要な必須アミノ酸のメーカーは世界中で3~5社に限られてきます。日本企業では、住友化学(4005)がメチオニンの世界4大メーカーの1社であり、味の素(2802)はリジン、トリプトファン、スレオニオンで世界最大手グループに入っています。

その他の主要な企業は以下の通りです。

リジン:GBTグループ(中国)、CJ第一製糖(韓国)、味の素、Evonic(独)の4社

メチオニン:Evonic(独)、ノーバス・インターナショナル*(米国)、Adisseo(中国の藍星集団が買収)、住友化学(4005)の4社

*ノーバス社は三井物産(8031)65%、日本曹達(4041)(35%)の米国合弁会社

スレオノン:MeiHua(中国)、Evonic(独)、味の素、CJ第一製糖(韓国)など

トリプトファン:Evonic(独)、味の素の2社

 

LIMO編集部