なぜ株式市場で“一億総活躍社会”が注目されるのか

“一億総活躍社会”が株式市場で注目される理由、それは、2015年9月に安倍首相が表明したアベノミクス「新3本の矢」と密接に関連しているからです。

「新3本の矢」は2015年9月に発表されました。これは名目GDP600兆円(2014年度490兆円)を目指すこと、出生率を現在の1.4から1.8へ回復させること、介護離職をなくし社会保障に安心をもってもらうことが柱となっています。

ここで重要なことは、特に女性が出産と育児にしっかり取り組める社会環境を整えること、そして介護の仕組みを持続可能なものにして、国全体として労働人口を確保するという取り組みです。

少子高齢化は長年にわたる日本の課題であり、子育て支援や介護充実を進めることに対して、株式市場は中長期的な期待をしていると思われます。

アナリストが注目する“一億総活躍社会”のポイントは

さて、読者の方々は「新3本の矢」が発表された時にどう感じたでしょう。

「理想として正しいが、実効性・即効性には懐疑的で、アベノミクスの柱になるのか」という消極的な印象を抱いた人も多いのではないでしょうか。2016年の参議院選挙や、同日実施とも噂される衆議院選挙に向けた“ばらまきの材料”という厳しい見方もあったはずです。

しかし、深く考えるほど「新3本の矢」が、現在の巨額な公的債務の安定化には不可欠な最低限の目標であることがわかります。つまり、あと20%は名目GDPを増やさないと公的債務のサステナビリティに支障が出る、と政府が公式に発信していると読み換えてみるべきでしょう。

政府・日銀が目標とする年率2%のインフレ実現だけで、名目GDPを現状から+20%増加させるにはざっくり10年ほどかかる計算になります。しかも、物価の上昇に賃金の上昇が追い付かないと、消費が停滞する危険性もあります。また、生産年齢人口が減り続けるなかで現有の社会保障制度を持続するとなると、現役世代に対する負担が大幅に高まることになるのです。

したがって、生産年齢人口の減少を長期的に少しでも食い止める必要があること、そして現役世代の労働参加を最大化し、所得税と社会保障制度の確保をすることが国の喫緊の課題になります。

特に、女性が出産・育児、そして職場復帰(ないし再就職)をスムーズに行えること、親などの老後の世話に時間を取られ過ぎないために、介護システムを維持可能なものにすることが大変重要になります。

政府の音頭で、個人の自由である結婚や出産が影響を受けるのかどうかは不確かであることは間違いありません。しかし、政府の動機がどうであれ、若い人たちがしっかりと仕事につき、仕事から学び、人脈を作り、希望を持って家庭を築くことができる社会に近づけることに反対する人はいないはずです。

このように考えると、政府は「新3本の矢」をかなり本気で進めていくのではないでしょうか。

出生率改善のための国家戦略で恩恵を受ける銘柄は

安心して子供を産み、働きながら子育てができる環境のためには保育所や学童の整備が不可欠です。厚生労働省のまとめによると、2015年10月時点の待機児童数は約4万5千人に上っています。

また、いわゆる“隠れ待機児童数”は、これとは別に約6万人超に上っていることが、最近になって同省から公表されています。現在は、保育士の確保がボトルネックになっていますが、実際に受け入れキャパが大きくなれば、こうした“隠れ待機児童”の問題が大きく顕在化してくる可能性が高いでしょう。

したがって、JPホールディングス(2749)を始めとする保育園運営などの子育て支援の企業には追い風が吹くとともに、隙間を埋めるベビーシッターなどの市場が活性化されると思われます。

介護制度の拡充のための国家戦略で恩恵を受ける銘柄は

高齢化の進行で、各種介護事業者は需要面で追い風を受けると思われますが、社会保障費の膨張を抑制するため介護報酬に圧力がかかり、労働者確保がボトルネックになる可能性もあります。

したがって、株式市場の視点に立つと、センシングやモニタリング技術を活用し高齢者の見守りを行って介護の効率化を進める分野や、ロボットスーツなどで介護従事者の負担を軽くする分野等に可能性を見出していくと考えられます。この観点からは、パナソニック(6752)やサイバーダイン(7779)などに注目したいと思います。

 

LIMO編集部