イエレン議長が利上げをためらう4つのポイント

5月雇用統計後の米利上げ時期を占うには?

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この記事の読みどころ

6月3日に公表された5月の米雇用統計で、非農業部門雇用者数は市場予想を大幅に下回り前月比3.8万人の増加にとどまりました。6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)前では恐らく最後の公の場でのコメントとなる6日のイエレン議長講演では、非農業部門雇用者数の急激な悪化を反映して6月利上げの可能性はほぼ否定される内容となりました。では、利上げはいつまで先延ばしされるのか? イエレン議長の講演などを手がかりに考えてみます。

  • 注目されたイエレン議長の6月6日の講演のポイントは何か?
  • イエレン議長が考える4つの懸念とは?
  • 米国の経済成長率見通しは?
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イエレン議長講演、市場予想を下回った5月の雇用統計を受け、利上げ時期を特定せず

米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長は2016年6月6日の講演で、米経済について、幅広い指標の回復に言及することで、底堅さを維持しているとの認識を示唆、将来的な利上げの意向の維持を印象付けました。

しかしながら、10日ほど前の5月27日の別の講演で数か月内の利上げが適切になる可能性があると語り、6月もしくは7月の利上げをかなり明確に示唆したのに比べ、雇用統計の悪化を受けた今回の講演では利上げの時期について言及しなかったことで、6月利上げの可能性はほぼなくなったと見られます。

どこに注目すべきか:設備投資、雇用統計、労働生産性、GDP

5月の米雇用統計の悪化、今回のイエレン議長の講演で利上げ時期について言及がなかったことなどから6月利上げの可能性はほぼ消滅したと見ています。一方で、イエレン議長は利上げのオプション(選択肢)を残したとも見られます。では、利上げ時期を占う上で何に注目すべきでしょうか?

今回イエレン議長が講演の中で景気回復の懸念、不確実な分野としてあげた4点は、裏を返せば利上げをためらう理由であるとも考えられることから、今後はこの4点に注目する必要があるかもしれません。

1点目は、国内需要で特に設備投資と、新たに加わった懸念として雇用統計をあげています。講演内容のトーンから設備投資は以前より懸念材料としていた一方、イエレン議長も非農業部門雇用者数がこれほど減少するとは想定していなかった模様で、原稿に雇用統計も気になる点として加えたような印象です。

では、雇用統計で何を見るべきか? まずは非農業部門雇用者数が15万人程度の増加ペースに戻るかに注目が必要ですが、それ以外にも、たとえば採用を控えるほど景気が悪化している部門があるかなどが慎重に精査されると見られます。

なお、毎月月初に公表される失業率や平均時給(賃金)非農業部門雇用者数などの「雇用統計」は雇用市場の動向を占う上で重要な指標ですが、イエレン議長は他の指標、たとえば毎週公表されている失業保険申請件数などからも雇用市場の動向を探ることも必要と述べており、単一の指標でなく総合的な判断の必要性を述べています。

2点目は海外経済で、具体的には中国の成長減速懸念と英国の国民投票を指摘していますが、懸念のトーンは以前よりは和らいだ印象です。

3点目は(労働)生産性の低下という長期的なテーマです。生産性をイメージで示すと(分母の)雇用市場は回復している一方で、(分子の)生産(GDP:国内総生産)が相対的に低調となっていることから、特に2008年の金融危機後、低下傾向となっています。生産性が低ければ生活水準に直結する賃金も低水準となることが想定されます。

イエレン議長は過去、たとえば2015年に雇用市場回復の裏で賃金の上昇率が低くとどまっている背景として、生産性低下の可能性を指摘しています。その視点で5月の雇用統計を見直すと、非農業部門雇用者数は前月比3.8万人と大幅に低下しましたが、賃金(平均時給)は改善しています。イエレン議長もこのことを明るい要因として指摘しています。

また、イエレン議長は生産性についてご自身の見解として慎重ながら楽観的(改善を見込む)と表明していますが、「5月の雇用統計が一時的な減速の反映であれば、雇用の伸びは今後上向き、所得の一段の増加を支えるだろう」と指摘したのも、生産性の改善が頭にあったのかもしれません。

4点目はインフレ率が目標に戻るかに対する懸念です。イエレン議長はインフレ率が戻る条件として、石油価格の下落とドル高とならない、の2点あげ、この2つが満たされるならば1~2年でインフレ率は2%に戻るだろうと期待をこめて述べています。

もっとも、石油価格もドルの動向も予想できるものではないと付け加えていますが、イエレン議長の見通しから判断すると、インフレ率の低下を懸念とはしているものの、程度は以前に比べ低下した可能性も考えられます。

こうして利上げの妨げとなる懸念4つを振り返ると、雇用統計を除けば、ハードルはそれ程高くないとも考えられるのではないでしょうか。

米地区連銀(アトランタとニューヨーク)が予想する2016年4-6月期並びに7-9月期GDP(NYのみ予想)は前期比年率2%を越えるなど、軟調だった1-3月期に比べ米国経済の底堅い動きが現段階では想定されています。

少なくとも次回の雇用統計が公表される7月以降にはなるかもしれませんが、仮に雇用市場の落ち込みが一時的と判断されれば、再び利上げの声が出ても不思議ではないのかも知れません。

 ピクテ投信投資顧問株式会社 梅澤 利文

梅澤 利文
  • 梅澤 利文
  • ピクテ投信投資顧問株式会社
  • シニア・ファンド・アナリスト

東京理科大学工学部卒業後、国内証券会社のシステム運用部門を経て、外資系運用会社(BNPパリバ投信投資顧問(当時)等)で債券、仕組債、オルタナティブ運用を担当。
2010年ピクテ投信投資顧問入社。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員。