LIXILが1台たった2ドルの簡易トイレに注力する本当の理由

社会に役立つ製品への誇りがビジネスにもたらす効果は?

開発途上国向け簡易式トイレの累計台数が100万台を突破

少し前になりますが、トイレなどの住設機器大手のLIXILグループ(5938)は2016年5月31日に、インドなどの開発途上国向けに展開する簡易式トイレの累計使用台数が今年7月に100万台を突破する見込みであると発表しました。

日本では小学校のトイレを完全個室化する話が話題になる一方で、トイレが十分に普及していない国もまだまだ多数あります。そうした地域では、屋外で排せつする人が多く、これが感染症の原因にすらなっています。上記の簡易式トイレはそうした地域向けのソリューションです。

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同社の簡易式トイレは、「SaTo(Safe Toilet:安全なトイレ)パン」と呼ばれ、もともとは同社のグループ会社であるアメリカンスタンダード社が、ビル&メリンダ・ゲイツ財団*から資金助成を受けて開発されたもので、製品特許もLIXILグループが取得しています。

一見するとプラスチック製の赤ちゃん用トイレ(おまる)のようですが、少量の水でも排泄物の付着を防ぐように形状が工夫されていたり、悪臭や病気の伝染のもとになるハエなどの進入を防ぐための弁が取り付けられていたりと、かなりのすぐれものです。

*マイクロソフト創業者のビル・ゲイツと妻メリンダによって創設された世界最大の慈善基金団体

業績・株価へのインパクトは?

「SaToパン」のように、開発途上国の低所得層をターゲットにしたビジネスを、BOP(ボトム・オブ・ピラミッド)ビジネスと呼びますが、BOPビジネスは、CSR(企業の社会的責任)という観点からは評価できても、株価や業績には無関係ではないかと考えられる方が多いと思います。

実際、SaToパンは1台2ドル程度で販売されているため、100万台でも約2億円程度の売上にしかなりません。同社では、これまでの100万台で500万人分の衛生改善につながったとし、2020年までにさらに1億人の衛生環境改善を目指すとしています。それでも売上高は累計で40億円程度に留まります。

同社の2016年3月期の売上高は1兆8,450億円です。このため、売上規模だけに着目するのであれば、確かにこのニュースは、“取るに足らないニュース”ということになります。

重要なのは長期的視点

とはいえ、ここで注目したいのが、この取り組みがもたらす短期的な売上高以外の派生効果です。そのことを理解していただくために、2016年5月9日に開催された2016年3月期決算説明会での瀬戸欣哉代表執行役社長兼CEOの発言をご紹介します。

瀬戸社長は、同社の水回りビジネスの成長戦略の1つとしてインドを取り上げ、「インドは、今後成長が早く、最も魅力的な市場の1つであり、重要な市場である」という趣旨のコメントをしました。さらに「インドは我々が社会貢献できる市場」であり、「トイレビジネスを行うことの“誇り”を感じられる市場である」ともコメントしています。

トイレを製造し販売することで、何百万という人々に快適さを提供するとともに、病気の感染を減少させることができる。そのような誇りを実感できるのがインド市場であり、それを知ることでインドも含め全従業員のモチベーションが高められるということを行間から読み取ることができます。

恥ずかしくて個室でないとトイレにいけない子供たち向けにトイレを作ることにも、それなりの意義はあります。ですが、世界からエボラ熱のような悲惨な感染症を撲滅することにもつながるかもしれないBOPビジネスは、それ以上の意義や、“誇り”をもたらすでしょう。

このことが、LIXILグループが簡易トイレに注力する本当の理由ではないかと考えます。

 

和泉 美治

同志社大学文学部卒業後、エルコインターナショナル (現:京セラエルコ) に入社。英国バーミンガム大学にてMBA取得。
その後UBSフィリップスアンドドリュー証券 (現:UBS証券) に入社し、調査部にてエレクトロニクスセクターを担当。2002年より2013年までJ.P.モルガンにて産業用エレクトロニクス及び民生エレクトロニクスセクターを担当。
日本証券アナリスト協会検定会員。