高リターンを生むシリコンバレーの不動産投資、その理由

パロアルトではで年間ROEが50%近い建替え物件も

これまで、本連載ではシリコンバレーの住宅価格が過去6年でほぼ2倍になったことをお伝えしてきました*。さらに長いスパンの30~40年の時間軸で見ると、価格は10~30倍にまで上昇しています。この上昇を支えている要因には、供給が限られているという理由とともに、イノベーションの進展によって、この地域で高収入を得られる就労機会が増え続けてきたことがあります。
*過去の記事はこちらをご参照ください。

今回は、物件そのものから、この上昇をどのように説明できるのか考えてみたいと思います。

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株式市場でのリターンを超えるパロアルトの不動産投資

通常、住宅パッケージの中で理論的に価値が上がるのは土地です。家そのものは減価償却によって価値が下がり続けます。ただし、シリコンバレー、特にパロアルトにおける住宅価格の上昇については、土地の値上がり以外に住宅そのものの新陳代謝という要素も無視できません。

私が投資家に常に説明しているのは、パロアルトの街は“トランジション”しているということです。トランジションというのは、土地の供給が限られている中、古い家を新しく建て直すことによって、住宅の価値を一気に上げることです。

建替えプロジェクトAの例を見てみましょう。パロアルトのミッドタウンにある約80平米のこの古い家は(写真:Before A)、ある投資家に2014年に220万ドルで買われ、2年かけて500平米の立派な家に建替えられ(写真:After A)、今年の6月に493万ドルで売却されました。

Before A

写真は筆者提供、以下同

After A

建築コスト、土地維持コスト(税金)、および売買時のトランザクションコストの概算を合計130万ドルとすると、このプロジェクトの利益は140万ドル(1億4,000万円強、6月28日現在、以下同)です。全額自己資金でこのプロジェクトが実行された場合のリターン(ROE)は、2年で約39%です。レバレッジをかければ、リターンはもっと高めることができます。

建替えプロジェクトBの例では、2013年に物件Aと同じく220万ドルで購入された130平米の古い家が(写真:Before B)、今年6月に270平米の新築物件として530万ドルで売却されました(写真:After B)。上と同じように計算すると、プロジェクトの利益は約175万ドル(1億8,000万円弱)で、ROE は3年で49%になります。

Before B

After B

私は2010年以来、このような建替え案件を100件以上分析してきました。レバレッジをかけない全額自己資本の場合のROEは年間で5%から50%まで様々ですが、その時の株式市場のリターンを大幅に超えるケースがほとんどです。

リターンに大きな影響を与える不動産市場サイクル

こうした建替えプロジェクトのリターンを決める一番の要素は、そのプロジェクトのタイミングです。つまり、いわゆる不動産市場サイクルのどこで買うか、そしてどこで売るのか、ということです。

直近のパロアルト不動産市場のサイクルは、2010年にボトムを打って、その後毎年15~20%のスピードで上昇し、ピークに達したのは2015年の5月あたりです。これを考慮すると、建替えプロジェクトA はサイクルのほぼピークで土地を入手し、ピークから下がり出した時期にエグジットしました。したがって、年間ROE19%は決して高いリターンとは言えません。

一方、プロジェクトBはマーケットが上昇する途中で妥当な価格で土地を入手していますので、通常の2年ぐらいで建替えが終わっていれば、去年春のピーク時に560万ドルで売れてもおかしくありませんでした。年間ROEは30%近くになります。

足元の住宅価格の調整で投資家が戻りつつある

では、パロアルトにおける建替えの案件は、なぜ高い利益を上げられるのでしょうか?

まずは、土地の価格が今までほぼずっと上昇し続けてきたという理由があります。建替えプロジェクトの期間は1年半から3年にわたりますが、この間、土地の価値が10%から20%ぐらい上がります。これは時間の価値というもので、人の手がかかっていません。その以外のほとんどの利益は新築の付加価値によって実現されます。

パロアルトの古い家は、北部では1950~60年代に建てられたもの、南部では第2次世界大戦後に簡易的に建てられたものがほとんどです。200平米を超える古い家は少なく、しかも屋根が低く、エネルギーの効率性もとても低いので、今の時代に求められる住宅とはだいぶ違います。

こうした環境で、建替えの一番の付加価値となるのは住宅面積を倍以上に広げることです。寝室を2~3室から4室に増やし、リビングとキッチンを今のライフスタイルに合わせて大幅に増床します。また、家を作る材料と建築基準が年々向上してきたことによって、省エネと住み心地も大幅に改善されます。

特に、この2~3年で見られるトレンドは、土地が速いスピードで値上がりしてきたことにより、さらに高い売値を見込んで、よりいっそう豪華な家を作るというものです。

もちろん、こうした新築に対する強い需要があるからこそ、建替えプロジェクトは利益を上げられます。プロジェクトAの物件は448万ドルの提示価格に対し、493万ドルで売却されました。

こうした案件を見ると、新築を買うのはほとんどが若い家族です。新築を買うには相当のプレミアムを払わされると誰もが分かっていても、自分で手間暇かけて慣れない家づくりをするよりも、それを専門家に任せて自分の本業でもっと稼いだ方が断然効率がいい、という考えからでしょう。

過去2~3年、パロアルトの不動産市場がやや過熱気味だったため、投資家が実需のある買い手と競争できず、市場参加比率が大分落ちていました。しかし、足元の住宅価格の調整で参加の意欲を高めている投資家が結構います。

パロアルトの不動産市場は、常に需要インフレ状態(too much money is chasing too few opportunities)であるため、毎回マクロ要因で下がってもせいぜい10%ぐらいで、すぐ回復に向かいます。今回も、このトレンドがリピートされるかどうかを見極めるのが楽しみです。

参考(英語版ウィキペディア「Palo Alto」より引用)
“パロアルトは、物価と住民の教育レベルが全米で最も高い都市の1つです。”
“パロアルトの不動産価値を押し上げているのは、米国の中でも非常に魅力的な就労機会が多い割に、新規の不動産開発が制限されているという不均衡にその理由があります。パロアルトはベイエリアの中でも最も教育レベルが高く、かつ、最もお金のかかるカレッジタウンであるという見方もあります。”

 

Jiang Xin

中国生まれ。早稲田大学商学部卒業後、メリルリンチ証券・投資銀行部門の東京とパロアルトで勤務。その後、ペンシルベニア大学ウォートン校にてMBAを取得。
2005年から2013年まで、日本のフィデリティ投信とサンフランシスコにあるマシューズ・インターナショナル・キャピタル・マネジメントで日本株を含めたアジア株のアナリストとして従事。
2013年からパロアルトを中心に、シリコンバレーで不動産の仲介と住宅の開発に専念。7歳になる娘の母親でもあり、シリコンバレーの住宅と教育事情に詳しい。