厳しい実態をありのまま示した東芝、そこに希望はあるか?

東芝初のカンパニー別IR説明会で見えた変化

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東芝初のカンパニー別IR説明会を開催

不正会計問題や原子力ののれん減損等により財務基盤が大幅に悪化した東芝(6502)は、2016年7月6日にカンパニー別のIR説明会を開催しました。

こうしたIR説明会は、日立製作所(6501)、ソニー(6758)、パナソニック(6752)、三菱重工(7011)など、多岐にわたる事業を行っている複合企業では恒例行事ですが、東芝は今回初めてです。

昨年、不正会計問題の発覚以降、同社のガバナンスや情報開示のあり方に、資本市場からの信頼は大きく失墜しました。しかし、こうした説明会を開催したこと自体が信頼回復の一助になる可能性はありそうです。

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というのは、この種のIR説明会の目的は、機関投資家や証券アナリストに事業内容を深く理解してもらうだけではなく、各事業責任者が資本市場に向けて直接語ることで経営のアカウンタビリティ(説明責任)を高めるという狙いもあるからです。

実際、冒頭の挨拶を行った綱川智代表執行役社長は、今回のIR説明会の位置付けを「情報開示の充実とカンパニーの自主自律経営の強化により、カンパニー自らが市場と対話しコミットすることにある」と説明しました。

特に注目されたのは、“質疑応答”も含めた説明会の内容を、開催翌日からIRサイトの動画配信でも行うとした点です。こうしたミーティングでは、会社側と証券アナリストとの対話に、より価値があるからです。IR説明会に参加できなかった個人投資家の皆さんも、ぜひ視聴してみてください。

このイベントに関する新聞等のメディア報道は原子力と半導体に関連するものばかりでしたが、これまであまり注目もされず、情報発信の機会も少なかったインフラシステムソリューション社(空調、昇降機、鉄道、水処理等)や、インダストリアルICTソリューション社(システムインテグレーション、デジタルソリューション等)についても詳細な説明が行われています。

利益率の低さと財務基盤の脆弱性を再認識

とはいえ、今回のIR説明会で東芝の将来の不透明感が全て払拭されたわけではありません。

最大の理由は、利益率の低さと財務基盤の脆弱性です。ちなみに、2019年3月期の営業利益率の暫定目標は、全社で4.7%、エネルギーソリューション社(原子力、火力、送変電等)は3.9%、インフラシステムソリューション社は2.3%、インダストリアルICTソリューション社は4.4%に留まります。

ストレージ&デバイスソリューション社(半導体、HDD等)だけは7.7%という目標が掲げられていますが、半導体は非常に収益変動の激しいビジネスだということを忘れてはいけません。

また、パソコン、テレビについては、事業責任者による説明は行われませんでしたが、赤字にはならない経営体質への転換が進んだとされたものの、決して高収益体質ではなく、収益均衡レベルに留まる可能性が高いことにも留意すべきでしょう。

財務面では、新たに2019年3月期に株主資本10%以上という目標が開示されましたが(2016年3月期実績は5.8%)、営業利益率と同様に決して十分に高いレベルとは言えません。この程度では、何か大きな経済ショックがあった場合は、容易に赤字転落、財務面では債務超過になってもおかしくない水準だからです。

はからずも、ディスクロジャーの改善は、こうした”不都合な真実”、つまり東芝の厳しい実態をより強く資本市場に再認識させることにつながったとも言えます。

継続することが重要

しかしながら、IRの基本は、良いことだけを伝えるPRとは異なり、会社の実態を正確に伝えることにあります。厳しい現状を素直にディスクローズしたことは、仮に一時的に資本市場からの評価が低下することがあったとしても、非難されるべきではなく、むしろ評価されるべきことです。

最後に綱川社長が、「定期的に(年1回)実績、実力を進捗報告する」とコメントしていたことにも注目したいと思います。IRは一度限り、あるいはアドホックに行うのではなく、継続的に行われることが重要だからです。そうすることで、経営の変化がより正確にモニターできるからです。

今回のカンパニー別IRミーティングを契機に、東芝の経営がより良い方向へ向かっていけるかを注視していきたいと思います。

 

和泉 美治

同志社大学文学部卒業後、エルコインターナショナル (現:京セラエルコ) に入社。英国バーミンガム大学にてMBA取得。
その後UBSフィリップスアンドドリュー証券 (現:UBS証券) に入社し、調査部にてエレクトロニクスセクターを担当。2002年より2013年までJ.P.モルガンにて産業用エレクトロニクス及び民生エレクトロニクスセクターを担当。
日本証券アナリスト協会検定会員。