今年初め、グーグルの子会社であるディープマインド社が開発した囲碁AI「アルファ碁」が、過去10年で最強の囲碁棋士とも言われる韓国の李世ドル氏に4勝1敗で圧勝したことは、AIの可能性を示した出来事として記憶に新しいかもしれません。

AIの応用範囲は広いですが、中でも特に注目されているのが金融サービスです。人間を遥かに凌ぐAIの情報収集力と分析力が、投資をより適切なものにする可能性が高いからです。

人間の“心理的バイアス”

たとえば、私たちが銀行に預けている資金は銀行の担当部門によって運用されていますが、その担当部門の情報収集力と分析力は、AIと比べてどうなのでしょうか?

人間が投資先や運用先を決めている限り、その判断は限られた情報に基づくものとなりますし、バイアスもかかります。一例として心理学者のダニエル・カーネマンは、Availability Heuristic(利用可能性のヒューリスティック)というバイアスを挙げています。

これは、「すぐに思いつく物事を優先的に考えてしまう」という人間の心理的バイアスです。試しに次の質問を考えてみてください。

「Kで始まる英単語とKが3番目にくる英単語、どちらの数が多いと思いますか?」

多くの人は「Kで始まる英単語の方が多いのではないか」と思うはずです。しかし、Kが3番目にくる英単語はKで始まる英単語の3倍ほどあるそうです。

なぜ、このようなことが起きるのでしょう? それは、Kで始まる英単語を思い出す方が簡単だからではないでしょうか。Kind, Kill, King, Kiss, Kitchenというふうに、それほど難しくありません。しかし、Kが3番目にくる単語を思いつくのは少し大変です(私はAskしかすぐには思いつきませんでした…)。

投資や運用についても同じことが起こり得ます。世界には投資先がごまんとありますが、どこに投資するかを考える際に、やはり日本の投資家や運用担当者は、日本企業の株式や債券に投資する傾向にあります。

一方で、アメリカの投資家は、アメリカ国内の投資先を選ぶ傾向にあります。それは、やはり日本人は日本の銘柄を、アメリカ人ならアメリカの銘柄が一番先に投資先として頭の中に浮かんでくるからでしょう。

しかし、それが最善の投資方法であるという保証はありません。Kで始まる単語を思いつくのが簡単であることが、Kで始まる単語の方が多いことを保証しないように。もしかしたら、我々日本人に馴染みのないアフリカやラテンアメリカの新興市場の投資先の方がリスクが低く、高い利回りで運用をできるかもしれないのです。

AIとオンラインレンディングによる投資の最適化

そこで登場するのがAIです。AIにはこのような心理的バイアスがありません。全世界の情報を集めてきて、そのビッグデータを統計的に解析し、最適な投資判断をすることができるのです。

イギリス、オックスフォード大学の2人の研究者、カール・フレイ氏とマイケル・オズボーン氏が2013年に発表した論文『The future of employment: how susceptible are jobs to computerization?』では、職業別にコンピュータに仕事を奪われる確率を計算しています。

その中で、なんと銀行の融資担当者は98%の確率で今後10~20年以内にコンピュータに職を奪われる、と予測されています。また、金融機関等の窓口係も同じく98%の確率で職を奪われると予測されています。

そうなると、将来、現在の銀行という企業形態は存在しなくなるのかもしれません。

私たちはネットを通じてお金を預け、それがAIによって自動的に世界中の投資先に最適分配され、リターンが返ってくる、という時代が来るのかもしれません。そうすれば大幅なコスト削減が見込めるため、今より格段に高い利率の預金が可能になるかもしれないのです。

事実、そのような試みはもう始まっています。たとえば、LendingRobotはP2Pレンディングの投資先をアルゴリズムを使って決めるツールです。

 

投資家は、自分で貸付先を選ぶわけではなく、以下のようにリスク性向を決めるだけで、あとは自動的に機械が投資先を選定してくれます。そうすることによって、投資家は複雑なリスクリターン分析から解放され、より正確で自分に合った投資を行うことができるのです。

1.自分のリスク性向を設定する

2.投資実行

AIとインターネットが発達することで、未来の金融の形はここまで大幅に変わる可能性があります。直接金融と間接金融の境はあいまいになり、アルゴリズムによって最適化された資金の世界中への分配が可能になろうとしているのです。

参考文献:
グーグルのAI「アルファ碁」が人間に勝った理由とその意味とは?(杉沼浩司)
『Thinking, Fast and Slow』(Daniel Kahneman)
『AIの衝撃 人工知能は人類の敵か』(小林雅一)
The future of employment: how susceptible are jobs to computerization?(Carl Benedikt Frey and Michael A. Osborne)
Algorithm investing - Part 2: A Review of LendingRobot(Simon Cunningham)

 

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