日本電産にとってソフトバンクは協業相手?それとも競合相手?

順調な決算の中で感じた一抹の不安とは

厳しい環境下でも営業増益を達成した日本電産

日本の電機セクターのなかでとりわけ注目度が高い日本電産(6594)が2016年7月22日に2017年3月期Q1(4-6月期)決算を発表し、同日午後に決算説明会を開催しました。

急激な円高の進行により、売上高は対前年同期比で減収、税前利益や親会社の所有者に帰属する四半期利益(以下、純利益)は減益となりましたが、営業利益については増益を確保し、四半期ベースで過去最高益を更新しています。

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日本電産よりも2日早い2016年7月20日にQ1決算を発表した安川電機(6506)の場合、営業利益が前年同期比▲40%減でしたが、それでも発表翌日21日の株価は上昇しています。

安川電機との対比では、おそらく、営業増益を達成した日本電産の決算は好決算であると言えると思います。また、株式市場は、既に減収、減益決算に対して耐性ができている可能性が高いため、日本電産の決算後の株価も、税前利益や純利益の減益を悲観視する可能性は小さく、むしろ営業利益の増益に着目が集まる可能性が高いと考えられます。

戦略分野も順調

今回の決算での注目点は、上述したような短期業績の堅調さだけではありません。為替前提を円高方向に見直したにもかかわらず、通期業績見通しが据え置かれた(従来の見通しから変化がなかった)ことや、戦略的に成長分野と位置付けて強化中の戦略2分野(車載及び家電・商業・産業用)が採算性の改善を伴いながら着実に成長を遂げていたことは、中期的な観点から大いに注目できるポイントです。

決算説明会において永守重信代表取締役会長兼社長は、同社のビジネスの約90%が外貨取引であり、現地通貨ベースで見ると大幅に伸びているとコメントしていました。

また、戦略2分野での長期の受注残が増加傾向にあることや、買収した子会社との意思疎通も非常にうまくいくようになり、採算重視で成長を目指すことで現地のマネージメントと共通認識が持てるようになってきたことも強調されていました。

さらに、欧州の景気不安等による株安や円高の進行で、これまで高すぎて買えなかった買収候補の会社の株価も安くなってきたため、これからは再びM&Aを積極的に展開していく可能性も示唆されました。

このようなことから、同社が目指す2021年3月期を最終年度とする中期戦略目標(売上高目標2兆円、営業利益15%以上、ROE18%以上)が単なる「絵に描いた餅」ではないという印象を、改めて持つことができました。

IoTを巡る一抹の不安

このように、ほとんど非の打ち所がない決算でしたが、唯一、気になったのが(というよりも消化しきれなかったといほうが正確かもしれませんが)、ソフトバンクグループ(9984)のARMホールディングスの買収や、これによって一躍、世間で注目を集めるようになったIoT事業に対する取り組みについての決算説明会での永守氏のコメントでした。

まず、ソフトバンクの買収について永守氏は、「私は孫さんみたいに30年先、50年先を見て会社を買うというまではいかないので、あれだけの会社を3兆3,000億円で買うことはしない。おそらく3,300億円でも買わない」というコメントをしています。

永守氏は、ソフトバンクグループの社外取締役でもありますが、その立場として今回の買収に関して、どのような考えを持っていたのかが初めてオープンにされました。

この発言だけでは、買収に対して否定的のようにも受け取れますが、その後、「孫社長は将来を見極める能力を持っており、先を見て成功しているので、正しい判断をしているのではないかと信じている」ともコメントしており、ソフトバンクグループの判断を否定しているのではなく、“日本電産”としては、「3,300億円でも買わない」ということが、発言の真意であることに注意が必要です。

とはいえ、受け止め方次第では、日本電産も目指すIoT関連市場は、技術革新が激しすぎて、さすがの永守氏でも長期予測は不可能という、「迷い」のような発言にも捉えられます。孫氏が大胆過ぎるのか、永守氏が慎重すぎるのか、その点が気になることの第1点目でした。

第2は、このIoT事業 という日本電産の新規事業の責任者である元シャープ社長の片山幹雄代表取締役副会長執行役員について、実績を出し、将来見通しを明確に語れるまでは、「表にはださない」という永守氏のコメントでした。

これは、当分は、IoT事業に関しての戦略を打ち出さないという趣旨にも受け取れます。これまで、永守氏はIoT分野に、いち早く注目し、昨年来、決算説明会ごとに、その可能性について熱く語ってきましたが、孫氏という、同氏を上回る「大ぼら吹き」の出現により、トーンダウンしてしまった、という印象は拭うことはできませんでした。

ちなみに、永守氏は、IoT関連は、モータが主役となり、そのためには、半導体が不可欠で、このためにルネサスエレクトロニクス(6723)に対して、依然として強い関心を持っていることが今回の説明会では示唆されました。

IoT事業が巨大な成長分野として期待を高めるなかで、日本電産とソフトバンクグループの両者は、今後、協業関係となるのか、あるいは競合関係になるのでしょうか。また、IoT関連の主役はモータなのか、あるいは半導体なのでしょうか。

この問いに対する答えを見つけるのは、片山副会長の“デビュー”を待ち、日本電産の戦略を確認する必要がありそうですが、いずれにせよ、日本電産の長期的な将来を考えるためには、両者の戦略を詳細に分析する必要がありそうです。

まさか、日本電産とソフトバンクを比較する時代が訪れるとは、そう感じたことが、今回の決算での「一抹の不安」でした。

和泉 美治

同志社大学文学部卒業後、エルコインターナショナル (現:京セラエルコ) に入社。英国バーミンガム大学にてMBA取得。
その後UBSフィリップスアンドドリュー証券 (現:UBS証券) に入社し、調査部にてエレクトロニクスセクターを担当。2002年より2013年までJ.P.モルガンにて産業用エレクトロニクス及び民生エレクトロニクスセクターを担当。
日本証券アナリスト協会検定会員。