日銀、追加緩和策にマイナス金利拡大含まずの意味は?

政府との足並みが乱れていないか

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この記事の読みどころ

日本政府は2016年8月2日午後の臨時閣議で、事業規模28.1兆円に上る経済対策を閣議決定しました。新興国経済の停滞や英国の欧州連合(EU)離脱など世界経済が不安定化する中、日本経済を下支えするのが狙いです。

日本政府に先立ち、日本銀行(日銀)は7月29日に追加金融緩和策を公表しましたが、市場で期待されていた政策金利の引き下げや国債購入の増額は見送られました。これを受け市場では債券安(利回りは上昇)、円高が見られました。一方、ETF増額を受け株式市場が上昇しましたが、株式市場を押し上げた要因には、金融セクターの上昇も見逃せません。

日本政府の財政政策は想定以上な一方、期待倒れともとれる日銀の金融政策、政府と日銀の一体的な政策運営に影が見られるのか、注目が必要と見ています。

  • 経済対策(財政政策)と金融政策の足並みは揃っているのか?
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経済対策:財政政策は想定を上回るも、金融政策は期待を下回る

日本政府は、2日に閣議決定された経済対策の財政処置を今後具体化する運びです。報道によると、財政措置は2016年度と2017年度以降を合わせて13.5兆円で、うち国・地方の歳出は7.5兆円、残り6兆円は財政投融資を充てる模様です。

歳出のうち国費は6.2兆円で、今年度予算では第2次補正で計約4.5兆円、来年度以降に1.5兆円をそれぞれ計上する見込みと報じられています。規模としては市場の想定をやや上回る内容とも見られます。なお、内閣府によると、対策によりGDP(国内総生産)の押し上げ効果として1.3%が見込まれています。

一方、日銀は2016年7月29日まで金融政策決定会合を開催、海外経済の不透明感の高まりなどを背景に、追加金融緩和対策を発表しました。

主な対策として、上場投資信託(ETF)の購入額を年6兆円(現行約3.3兆円)とほぼ倍増すること、邦銀のドル資金調達コストの上昇を踏まえドル調達を円滑化する(海外展開する企業支援に米ドル資金を金融機関経由で供給する制度)といった追加の金融緩和措置を決定しました。

しかしながら、長期国債の買い入れ額や、マイナス金利幅は現状を維持しています。また、市場の一部で期待されていた貸出支援プログラムへのマイナス金利適用は見送られました。現行の金融政策の持続性に疑念の声も出る中で、主要な政策手段は温存した格好ですが、金融政策については期待倒れとの声も市場では聞かれます。

どこに注目すべきか:2%物価目標、マイナス金利、総括的な検証

日銀の公表した追加金融緩和策に、政策金利引き下げ(マイナス幅拡大)や国債購入の増額が含まれなかった点で実質的にはゼロ回答とも言える内容です。ともすると、拡大する財政政策と縮小する金融政策に向かう構図にも見えますが、この背景を考える上で、金融政策会合の次の点に注目しています。

まず、市場で事前に日銀に対する金融緩和期待が高まった理由には、政府が財政政策を拡張するとの観測が高まる中で日銀も歩調を合わせる(ポリシーミックス)はずとの期待が高まったことがあります。また、日本のインフレ率が低下傾向で、2%の物価目標に向け対応が必要との観測が台頭したことなどによります。

ただし、29日に公表された「経済・物価情勢の展望」でインフレ率予想を見ると、2016年については4月時点の+0.5%から+0.1%へ下方修正されましたが、2017年(+1.7%)、18年(+1.9%)は据え置かれています。足元のインフレ見通しは引き下げても、将来のインフレ見通しは維持しているため、現局面では金融政策を「温存」した格好にも見受けられます。

2点目として、日銀の意図したことかどうかは不明ですが、マイナス金利拡大の見送りなどは結果として金融、特に銀行セクターを下支えしました。29日の日本株式市場でプラスとなったセクターを見ても上位は銀行、証券、保険セクターです。ただし、黒田総裁は会見でマイナス金利政策を擁護する内容のコメントを行っています。

3点目として、日銀の金融政策の方向性を占う上で、総括的な検証に注目が必要と見ています。日銀が公表した「金融緩和の強化について」の最後の部分で、次回の金融政策決定会合(9月21日公表予定)において、過去の金融政策の効果について総括的な検証を行うことを示唆しています。

市場で追加金融緩和期待が高まっていたにもかかわらず、国債購入拡大を見送るなどあえて実質的なゼロ回答としたのは、実は過去の金融政策の持続性や効果に疑問が起きたのか? それとも今回、主な追加金融政策を見送ったのは単に温存しただけなのか。政策の効果に対する評価が日銀の今後の政策動向に影響する可能性もあると思われ注目しています。

その際、金融緩和が見送られたことで円高となったにもかかわらず、株式市場が銀行中心に上昇した点をどう評価するかにも注目しています。

最後に、黒田総裁の29日の記者会見を振り返ると、財政政策と金融政策のあうんの呼吸とも言えるポリシーミックスの重要性に言及していること、日本経済を取り巻く環境を認識していることから。金融政策を縮小させて国債利回りの急上昇を放置する可能性は低いように思われます。

当面は金融緩和姿勢を維持する必要はあると思われます。ただし、総括的な検証では、たとえば2年で2%のインフレ目標などやや形骸化した目標については、2%は維持するにしても、平均的に2%といった表現に改めることなどは必要かもしれません。

 ピクテ投信投資顧問株式会社 梅澤 利文

梅澤 利文
  • 梅澤 利文
  • ピクテ投信投資顧問株式会社
  • シニア・ファンド・アナリスト

東京理科大学工学部卒業後、国内証券会社のシステム運用部門を経て、外資系運用会社(BNPパリバ投信投資顧問(当時)等)で債券、仕組債、オルタナティブ運用を担当。
2010年ピクテ投信投資顧問入社。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員。