この記事の読みどころ

  • 半導体の重要素材であるシリコンウエハー(以下、半導体ウエハー)の世界トップ企業である信越半導体※とSUMCO(3436)の半導体ウエハー事業の決算数字から、足元の半導体市場の動きを探ってみました。
  • 2016年4月以降、両社とも300mmウエハーを中心とした急激な需要回復で、在庫取り崩しなどの緊急対応に追われています。
  • 仮に10月以降も需給が崩れないとすれば、懸案の半導体ウエハーの値上げが2017年早々にも実現するかもしれません。これは、株価大化けのカタリストになる可能性もあります。

※信越半導体は信越化学工業(4063)の子会社

決算発表に見る半導体市況の変化

2017年3月期Q1決算(4~6月)、及び、2016年12月期Q2累計決算(1~6月)がほぼ出揃いました。その発表内容を見ると、半導体市況に変化が出てきていることが伺えます。

一方、後述のように、半導体ウエハーの世界トップ企業である信越半導体とSUMCOを比較すると、収益動向は必ずしも一致していません。以下、昨年からの動向と合わせ、詳しく見ていきます。

2015年秋以降、失速した半導体ウエハー

2015年は米アップル社の底堅いスマートフォン(以下、スマホ)需要と、中国のミドルレンジ国産スマホの市場拡大で、半導体ウエハー業界は、4~6月、7~9月と繁忙な時期を経験しました。特に300mmウエハーでは、2015年6月のグローバルでの出荷が史上最高水準を記録しています。

しかし、2015年秋以降のアップル社の生産調整によって、通信用半導体(アプリケーションプロセッサ)向け300mmエピタキシャルウエハーの出荷が大幅に減少しました。この調整は、2016年2月まで続いたとされています。

これは、SUMCOの2015年12月期Q4(10~12月)、及び、2016年12月期Q1(1~3月)決算の大幅な悪化に端的に現れていました。ちなみに、SUMCOは微細化を追求するロジック半導体や通信用半導体に使われるエピタキシャルウエハーでは世界トップ企業です。

今年3月に潮目が変わった

ところが、信越半導体とSUMCO両社のコメントを直接聞くと、3月から潮目が完全に変わり、4~6月には世界の300mmウエハー月間出荷枚数が生産能力を4~6%上回る水準まで伸び上がってきているそうです。

300mmの需要は大きく分けると、ロジック半導体用、DRAM用(メモリー)、NANDフラッシュ用、その他アナログ半導体用の4つに分類されます。昨年からの市況は、DRAM用は横ばい、NANDフラッシュ用が成長、ロジック半導体用の停滞が続いてきました。

それが、ここにきてスマホの世界的な在庫調整が進行し、ロジック半導体の市場が回復してきています。これに従来からのデータセンター向け、脱HDD需要で伸長するNANDフラッシュ用の拡大が重なったというのが一般的な見方と思われます。

信越半導体とSUMCO両社の300mmウエハー稼働率は、ほぼフル操業に転じてきています。しかし、スマホの通信用アプリケーションプロセッサは、加工度が高く生産効率の悪いエピタキシャルウエハーを使うため、必ずしも嬉しい悲鳴だけではないようです。

アナリストを悩ませる疑問

では、決算数字で信越化学工業(信越半導体)とSUMCOの半導体シリコン事業の営業利益の推移を見てみましょう。ちなみに、両社の世界のシェアは、ほぼイーブンです。

【営業利益の推移】

出所:各社決算短信より引用

これを見ると、2016年3月以降の半導体ウエハー需要の回復シナリオに沿って利益を上げているのが信越半導体で、2016年4~6月の結果で素直に回復が読めます。一方、SUMCOはというと、8月5日に明らかになった4~6月の営業利益は対前年同期比で▲73.7%、対前四半期でも▲30.6%減益でした。

その理由として、1)SUMCOの伊万里工場が熊本地震の影響で操業を一時的に止めたために損失が発生したこと、2)ロジック半導体の急回復に伴い生産効率の良くないエピタキシャルウエハー生産にシフトしたことで一般的なウエハーでの収益機会を逸したこと、3)海外売上高比率が70%強と円高による利益の目減りが大きいことなどが指摘されています。

他方で信越半導体は着実に利益を稼いでいます。アナリストはなかなか明確な答えを出しにくいのではないでしょうか。

ウエハーの値上げがSUMCOの利益回復のカギか

SUMCOの2016年12月期Q3(7~9月)の営業利益予想は、対Q2(4~6月)比で▲20%減益となっています。事業環境はQ2よりもQ3の方がさらに良くなるというにもかかわらずの減益予想です。いずれにしても、10月以降の動向は両社とも予想が難しいと見ています。

しかし、仮に10~12月も300mmウエハーの需給ひっ迫が続くとすれば、2017年に向けた販売価格是正の交渉が始まる可能性も否定できません。

なにしろ、2008年秋のリーマンショック以降、300mmウエハーの価格はそれ以前と比べて半値以下にまで下がり続けてきたのです。値上げが実現するとすれば、8年振りとなります。その意味で10月以降の半導体ウエハーの需給動向からは目が離せないでしょう。

ウエハーの値上げは、次の設備投資の原資として活用されるものですが、新設備が稼働するまでには、値上げ分がほぼ全額利益に上乗せされます。そのため、株価への影響は大きいと推定できます。今は信越化学グループが優位にありますが、SUMCOも近い将来業績回復から株高へと向かうことを期待しています。

 

LIMO編集部