今回は秋の相場について考えます

国内外の大きな財政・金融政策の発表や4-6月期決算を無難に通過したので、相場はしばらく小康状態が続く可能性が高いと思われます。早いもので暦の上では8月7日の立秋を過ぎたことから、今回は秋相場のポイントについて考えてみたいと思います。

”日本買い”が復活するための条件

今週の株式市場は、為替相場がやや円高方向で推移する中で、日経平均は底堅さを見せています。この一因は、日銀によるETF買いが背景にあることに異論は少ないと思われますが、見方によるとPKO(プライス・キーピング・ オペレーション)のようでもあるため、日本に本格的なニューマネーを呼び込むためには不十分という印象は免れません。

では、腰が入った“日本買い”を再現するためには何が必要なのでしょうか。それは、改めて申し上げるまでもなく、政府・日銀が目指している「インフレ率2%、実質成長率2%、基礎的財政収支(プライマリーバランス)黒字化」の実現可能性への期待値が上がる大きな変化が起こることでしょう。

とはいえ、そうした期待が実現する可能性は、現時点では非常に限定的です。理由は、以下の記事にあるような労働人口の伸び鈍化、構造改革の遅れ、非効率な資金循環といった構造要因が、依然として大きな障壁として立ちはだかっているためです。

そこを変えることができるか、つまり、今後の秋相場では、経済成長に必要な3要素(労働人口の伸び、生産性の伸び、投資資金の伸び)が改善するための、実効性のある政策が打ち出されていくかを注視していくことが非常に重要なポイントとなります。

出所:米・雇用統計よりも注目したいこと(楽天証券)

循環要因(賃金の動向)を侮ってはいけない

上述したように、構造改革が進むかが重要なポイントではあるものの、景気循環的な回復の可能性についてもアンテナを張っておきたいものです。

特に、日本の労働市場においては失業率が3%台前半にまで低下していることには要注意です。この記事で指摘されているように、現実的にも理論的にも失業率は0%まで低下することはないため、今後の財政政策の効果でさらに失業率の低下が進めば、賃金上昇⇒デフレ脱却という経済の好循環が始まる可能性も否定できないからです。

財政政策は単なるカンフル剤にすぎないと断定してしまわない、“柔軟な視点”を持つことも大切です。

出所:柏原延行の「Market View」次の一手!!(みずほ投信投資顧問)

チャイナショックから1年が経過した中国の動向にも注意したい

思い起こせば、1年前の8月11日には突然の人民元の切り下げを契機としたチャイナショックが起きました。一時は、“中国発の世界恐慌”が起る可能性までが取りざたされましたが、通貨安政策が奏功し、最近の上海株式市場は3,000ポイント前後のボックス圏で推移しています。

とはいえ、8月8日に発表された中国の貿易統計(ドルベース)によると、輸出は前年同月比▲4.4%減、輸入も同▲12.5%減と、力強さは全く見られません。

特に、通貨安政策にもかかわらず輸出が伸びていない点が気になるところですが、この記事によると、中国当局の為替政策は、さらなる通貨安により輸出拡大を目指すというよりも、まずは人民元の安定化を優先することを模索しているとのことです。

いっそうの金融緩和による通貨安政策を進めると、中国からの資本逃避(キャピタルフライ)が加速しかねないだけではなく、輸入品の物価高騰などの副作用も誘発しかねません。その一方で、引き締め策に転じた場合は、国内経済の成長鈍化のリスクが高まることから、どちらにも動けないというのが現在の中国の置かれている状態と見ることができます。

最近発表された7-9月期の決算では、多くの日本の輸出企業が対欧米通貨に対する円高だけではなく、対中国での円高(元安)のマイナス影響を受けていたことが、新たな気掛かり材料として浮上してきました。上記のシナリオを考慮すると、今後も元安影響が続く可能性が高いことには留意したいと思います。

出所:中国人民元の動向を占う(ピクテ投信投資顧問)

 

LIMO編集部