ロンドンの憂鬱:フィンテックの中心地はどこへ?

英EU離脱でスタートアップを悩ませる「移転か残留か」

by Web Summit

金融 × AIに取組むスタートアップのAlpacaです。

この6月に国民投票で決まったイギリスのEU離脱(Brexit:ブレグジット)という歴史的な出来事は、皆さんの記憶に新しいと思います。今回は、ブレグジット後の動向が気になるEUのフィンテック(Fintech)事情に注目してみたいと思います。

フィンテック ハブとしてのロンドン

近年、ロンドンはフィンテックの世界的なハブとして知られ、EU内から多くのフィンテック スタートアップがロンドンに集まり、活動をしています。

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ブレグジットが起こる前に書かれたこの記事(Forbes)では、「今のところ、ロンドンはEUのフィンテックの王様だ」と述べられています。

ロンドンが「王様」であることを示す数字があります。2010年から2015年まで、フィンテックへの投資額は全世界で497億ドルです。そのうちイギリスのフィンテック企業への投資額は54億ドル、一方、他のEU諸国へは合計で44億ドルです。イギリス1国でEU諸国の合計金額を上回っていますね注1。圧倒的な強さを感じます。

そんな中で起きた今回のブレグジット。その影響はやはり大きいようで、ロンドンに代わる、次のEU内のフィンテック ハブはどこなのかに注目が集まっています。そこで、なぜ今までロンドンがフィンテック スタートアップのハブとして発展してきたのかを、いくつかの要素に分解し、それぞれについて次の候補地を考えていきたいと思います。

注1:"London is Europe’s booming billion dollar fintech capital"(The Memo)

世界有数の金融都市、ロンドン

そもそも、フィンテック(Fintech)は、Finance(金融)とTechnology(テクノロジー)の融合を表す言葉です。まずは金融面に注目してみましょう。

ロンドンがフィンテックの世界的なハブに発展していった大きな要因の1つとして、ロンドンが古くから世界有数の金融都市であることが挙げられます。英シンクタンクZ/Yenグループが4月に発表した世界金融センター指数(GFCI)注2では、ロンドンがニューヨークを抜き、1位に輝いています。

一方、20位以内にランクインしているEU加盟国の都市は、14位のルクセンブルクと18位のフランクフルトだけです。10位以内へのランクインはなく、金融都市としてのロンドンの存在感の大きさが分かります。

また、ランキングには入っていませんが、この記事(Business France)ではパリはユーロ圏で第1位の金融市場だとしていますし、アムステルダムもブレグジット後のロンドンに代わる金融ハブの候補として名前が挙がっているようです注3

注2:"GFCI 19 The Overall Rankings"(Long Finance)
 注3:「金融センター、アムステルダムなどに脚光=オランダ財務相」(ロイター)

有力なフィンテック スタートアップが集まる都市

現在、EU内の多くのフィンテック スタートアップがロンドンに集まっていますが、別の都市を拠点とし、大きな成長を遂げているスタートアップもあります。

『最もアツいヨーロッパのフィンテック スタートアップ15選(2015年)』という記事(EU-Startups)の中で、およそ半数近くをロンドンを拠点にする企業が占める中、ビットコインレンディングプラットフォームのBitbond、ソーシャルレンディングプラットフォームのLendico、モバイル銀行のNUMBER26、オンラインで融資を行うSpotcapの4社が拠点を置くのがドイツのベルリンです。

この4社以外にもベルリンには多くのフィンテック スタートアップが集まっているようで、以下のような地図もあります注4。路線図をベースに作られているようですが、あちこちにフィンテック スタートアップがあることがよく分かります。

注4:"IS BERLIN THE FUTURE OF FINTECH?"(Dataconomy)

ポイントは「規制」

ロンドンがフィンテックのハブになっていった理由について調べていると、多くの記事が指摘しているのが「シングルパスポート」の存在です。シングルパスポートとは、1つのEU加盟国で免許を得た金融機関は、他のEU加盟国で自由に支店の開設や金融商品の販売が可能となる制度です。

金融業界に参入するためのライセンスの取得は、フィンテック スタートアップにとっては大きなハードルの1つと言われています。その負担を減らしてくれるのが「シングルパスポート」であるため、イギリスがEUを離脱しても引き続きこの制度が適用される条約を結べるのかに注目が集まっているようです。

また、イギリスには「Regulatory sandbox」という、ライセンス取得前に”実験”ができる制度もあります。この記事(Reuters)では、オンライン送金サービス企業azimoの共同創業者兼CEOであるマイケル・ケント氏の以下のような発言が取り上げられています。

“イギリスの1つの利点は、新しいビジネスモデルに規制を適合させるにあたって、金融監視当局が他国と比べて革新的な点だ。対照的に、ドイツ連邦金融監督所はあまり進歩的ではない傾向がある。“

このように、イギリスが制度の面でフィンテック スタートアップに寛大であることが窺い知れます。

様々な分野にスタートアップが存在する中で、特にフィンテック分野は規制という要素が大きな影響を与えます。だからこそ、各国がフィンテック スタートアップが参入しやすくなるSandboxのような制度を、今後始めることができるかが1つの鍵になっていると考えられます。

まとめ

今回はブレグジットがEUのスタートアップにどのような影響を与えるのか、ロンドンに代わるフィンテック ハブはどこになるのかに注目してみました。

こうして調べてみると、ロンドンがいかにフィンテック スタートアップにとって魅力的な場所であったかという点とともに、他の都市は決め手に欠ける印象を受けました。だからこそ、ロンドンに留まるべきか、他へ移るべきか、ではどこに行くのが最適なのか、それぞれ難しい選択を迫られているのではないでしょうか。

シリコンバレーと東京に拠点を置くAlpacaですが、同じフィンテック スタートアップとして、EUのフィンテック事情にも注目し続けたいと思います。

 

アルパカ

金融×AIに取組むスタートアップ。シリコンバレーと東京に拠点を置く。
2013年2月に創業。2016年3月から、日々のトレーディング業務をAIによって自動化できるウェブサービス「キャピタリコ」を提供。当初は為替市場でのサービスを提供し、現在米国株と日本株に対応したサービスを開発中。2017年には自動化されたアルゴリズムを共有できるマーケットプレイスをリリース予定。