なぜルネサスは「アナログ半導体メーカー」を買収するのか?

IoT時代に向けたアナログの再評価は”アナクロ”ではない

米半導体メーカーの買収を検討

2016年8月23日、半導体大手のルネサスエレクトロニクス(6723)が米国のアナログ半導体メーカーであるインターシル社を買収すると、複数のメディアが報じました。報道によると買収金額は約3,000億円(報道直前の株価に対して約38%のプレミアム)、目的は車載用半導体事業の強化とされています。

現時点では会社側から正式なリリースが出ていませんが、複数のメディアが同一内容の報道を行っていることから、水面下で交渉が行われている可能性は極めて高いと推察されます。

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ちなみに、この報道を受けた22日、米国ナスダック市場に上場しているインターシル社の株価は前日比+20%上昇で引けました。その一方で、ルネサスの株価は22日に続き、23日も大幅続落となっています。

大型買収を発表直後の株価は、買収する側の株価は下落し、買収される側の株価が上昇することが一般的です。また、正式発表がないため、今後の買収による資金負担だけがクローズアップされてしまい、買収メリットが見えにくい現在の状況では、違和感のない株価の動きと言えます。

とはいえ、いずれは正式な発表が行われるでしょうから、その前に、ルネサスがアナログ半導体メーカーの買収を目指する意図について、推測を交えて考えてみたいと思います。

そもそも、デジタルとアナログの違いとは

おそらく多くの方は、半導体にはデジタル半導体とアナログ半導体の2種類があることや、デジタル全盛の今の時代に、なぜアナログなのかについて疑問をお持ちかと思います。そこで、まず、デジタルとアナログの違いに関して簡単に説明します。

一般的に「デジタル」は離散したもの・数値化(量子化)されたもの、「アナログ」は連続したもの・数値化(量子化)されていないものと定義されています。

半導体でも、0と1(オンとオフ)だけで情報を処理する半導体はデジタル半導体とされ、代表例にはインテルのマイクロプロセッサ―(MPU)や携帯電話のデジタル信号を処理しているデジタルシグナルプロセッサー(DSP)などがあり、その製造には最先端の設備が使われています。

また、三星電子や東芝などが製造しているスマホ用のメモリー半導体(NANDやDRAM)、ルネサスの主力製品であるマイコン(MCU)もデジタル半導体です。

一方、アナログ半導体は電気信号を連続的に処理する半導体です。電圧をオンとオフだけではなく、“やや高め、やや低め”など、きめ細かくリニアに制御するために使われます。具体的には、パワーマネージメントIC、オペアンプ(演算増幅器)などが挙げられます。

アナログ半導体の製造は、デジタル半導体に比べると旧式な設備で行われていますが、設計には熟練したノウハウが必要とされています。

なお、トップ企業はテキサスインスツルメント(TI)ですが、大半が中堅企業です。これは日本でも同様であり、ローム(6963)、ミツミ電機(6767)、新日本無線(6911)など中小型銘柄が代表企業となっています。

デジタル半導体とアナログ半導体は共存共栄

両者の違いは以上の通りですが、デジタル半導体メーカーには巨大企業が多く先端的な設備投資を行っているため、また、単純に言葉の印象から、デジタル半導体はハイテク、アナログ半導体はローテクというイメージを持たれがちです。

とはいえ、自然界そのものは圧倒的にアナログの世界です。また、アナログ半導体の方が瞬間的、直感的な情報処理が可能であることや、デジタル信号を人間が理解できるアナログ信号に変換するためにはアナログ半導体が不可欠であるため、すべてをデジタル半導体に置きかえることは不可能です。

たとえば、インテルの先端MPUもアナログ半導体による電圧制御回路(パワーマネージメント)がなければ役に立たないのです。つまり、両社は共存共栄の関係にあるということを忘れるべきではありません。

余談ですが、アナログというと、LPレコードのようなローテク製品がイメージされてしまう一因は、アナログとアナクロが混同されていることが一因とも言われています。後者はアナクロニズム、つまり時代錯誤のことですので、それとは混同しないように注意しましょう。

今後の注目点

米国の半導体業界では、今年7月、アナログ半導体業界4位のアナログデバイスが同8位のリニアテクノロジーを2017年6月までに買収することを発表しています。

今回のルネサスとインターシル社の動きも、アナログ半導体業界の再編の一環とする見方も浮上しています。派手さはないものの、IoT時代には重要な役割を果たすことが期待されるアナログ半導体を見直す動きが背景にあると推察されます。

”アナクロ的”な動きではなく、先端的イノベーションを起こすためにアナログ半導体が見直されてきたと見ることもできるでしょう。

買収価格の妥当性や、買収後の統合プランなど、精査すべき様々な課題は残るものの、デジタルの時代にアナログ半導体の重要性を再評価し、その関連企業の買収に踏み切ろうとしているルネサスの動きに大いに注目したいと思います。

 

和泉 美治

同志社大学文学部卒業後、エルコインターナショナル (現:京セラエルコ) に入社。英国バーミンガム大学にてMBA取得。
その後UBSフィリップスアンドドリュー証券 (現:UBS証券) に入社し、調査部にてエレクトロニクスセクターを担当。2002年より2013年までJ.P.モルガンにて産業用エレクトロニクス及び民生エレクトロニクスセクターを担当。
日本証券アナリスト協会検定会員。