リオ五輪では、日本のメダルラッシュに多くの方が感動されたのではないでしょうか。反面、サッカーはグループリーグ敗退となりました。ロンドン五輪で健闘したのに比べ、今回は残念な結果となりました。

リオ五輪代表のU-23は、世界で結果を残せないチームとされながらもアジアの最終予選ではしっかりと勝つ試合を見せてきただけに、オーバーエイジ組をうまく活用することで五輪でも勝ち切ってほしかったという思いでいっぱいです。一方、日本代表チームは9月からロシアW杯の最終予選が始まります。こちらも楽しみにしましょう。

さて、サッカー選手というと欧州を中心とした海外組が注目されますが、Jリーグがしっかりしないことには日本サッカーの基盤は盤石になりません。今回は、J1リーグ(J1)クラブチームの経営状況分析を試みながら、今後の日本のサッカーがどうすれば強くなっていけるのか、さらにJリーグを盛り上げることができるのかについて考えてみます。

売上高No.1は圧倒的に浦和レッズ

2015年度の各クラブチームの経営状況は、Jリーグのサイトの「Jクラブ個別経営情報開示資料(平成27年度)で確認することができます。

ここから分かることは、浦和レッズの営業収益が他のJ1の17チームと比べて圧倒的に大きいことです。一般企業の売上高にあたる営業収益は、浦和レッズの場合は2015年度に約61億円ありました。2位のFC東京が約47億円ですから、その差は14億円近くもあります。

各クラブチームの営業収益は主に広告収入と入場料収入です。浦和レッズの場合には広告収入が約25億円、入場料収入が22億円です。それぞれの収入源の営業収益に占める割合は42%、36%で、合計では営業収益の80%弱となります。クラブチームによってこの2つの収入源の比率は異なりますが、概ね60~80%です(アビスパ福岡だけは43%)。

さて、浦和レッズの営業収入がなぜJリーグでNo.1かといえば、圧倒的に入場料収入が多いからです。広告収入の多さは名古屋グランパスに次ぐ2位ですが、横浜FM、大宮アルディージャ、ヴィッセル神戸とそれほど金額に差はありません。

一方、浦和レッズの入場料収入約22億円に対し、2位の横浜FMは約9.5億円と大きく水が開いています。いかに浦和レッズの入場料収入が多いかが分かるかと思います。

浦和レッズが本拠地とする埼玉スタジアム2002の収容人数は63,700人、横浜FMの本拠地である日産スタジアムは72,327人ですので、収容キャパシティよりもチームとしての集客力の差が出たとも言えるでしょう。

なぜ浦和レッズは圧倒的に集客できるのか

”なぜ浦和レッズは圧倒的に集客できるのか”というのは愚問だという声もありそうですが、集客力の最大の原動力はチームが強くサポーターにとって魅力的だということが挙げられます。

2015年は、Jリーグチャンピオンシップでの優勝は逃したものの1stステージでは無敗で優勝するなど、その力はミハイロ・ペトロビッチ監督が監督に就任して以降、着実なものとなっています。浦和レッズのサッカーが攻撃的であるか、またはカウンターを軸とした守備的であるかという議論はありますが、試合に勝つという意味では魅力のあるチームだと言えるでしょう。

次に挙げられる集客理由は、浦和レッズが地元に密着し、サポーターのチームに対するロイヤリティが高いことです。旧浦和市は現在さいたま市となっていますが、もともとの拠点である旧浦和市が約48万人の人口を抱えていたことや、埼玉県の他地域からサポーターを呼び込める立地であることは重要でしょう。

ちなみに、隣接する大宮アルディージャの2015年度の入場料収入は約3億円でした。スタジアムの収容人数の違いや2015年度に大宮アルディージャがJ2であったことを考慮しても、浦和レッズの集客力の大きさがよく分かると思います。

クラブチームは大都市に立地すれば成功するのか

浦和レッズの集客力の背景として人口の多い立地を挙げました。では、大都市にあればクラブチームとして成功するかというと、必ずしもそうとは言い切れません。

たとえば、FC東京は東京都を拠点にしているものの(クラブチームとしての所在地は江東区、本拠地の味の素スタジアムは調布市)、2015年度の入場料収入は約10億円です。名古屋グランパスやガンバ大阪も、それぞれ大都市のチームでありながら同じく約10億円と、大都市に立地すれば必ずしも浦和レッズのような入場料収入が見込めるというわけではないのです。

ここで湧いてくる1つの疑問があります。Jリーグは発足当時から地元密着のクラブチームを志向してきたはずです。ところが、FC東京にしても、東京都とはいえクラブチームの所在地は江東区でスタジアムが調布です。東京に住む者からすれば、東京の東と西で大きく離れており、いわゆるFC東京に対する「地元感覚」は乏しいと言わざるを得ません。

また、名古屋グランパスに関してもクラブチームの所在地は名古屋市ですが、より整備され、4万人を収容するスタジアムは豊田市に立地しています(名古屋市のパロマ瑞穂スタジアムの収容人数は2万人)。豊田市に住む方にとっては、名古屋という別の町のチームという感覚を拭いきれないでしょう。

大阪にはガンバ大阪の他にセレッソ大阪という強豪チームが存在し、サポーターを二分しています。メインスタジアムもそれぞれ吹田市と大阪市東住吉区というように大阪府の北と南に位置しています。

より多くのサポーターを集客したいというマーケティング戦略上は、ネーミングに大都市の名前を使いたくなるのも理解できます。しかし、地元サポーターのロイヤリティをより高めてリピート率を上げるためには、よりスコープを絞った地名を用いる方が効果的ではないでしょうか。

そうした観点からうまく経営されているのが、ベガルタ仙台、鹿島アントラーズ、柏レイソル、川崎フロンターレ、アルビレックス新潟、サガン鳥栖といったチームです。大都市の名前を冠するチームは、名称変更を考慮してもいいのではないでしょうか。

資金力のあるチームが勝つという残酷な現実。例外は名古屋グランパスだけ

では、なぜクラブチームは営業収益にこだわる必要があるのでしょうか。答えは簡単です。より多くの資金を得ればより良い選手を獲得することができ、勝つ可能性が高まるからです。

2016年のJリーグの年間順位は、8月24日現在で首位が川崎フロンターレ、2位が浦和レッズ、3位が鹿島アントラーズとなっています。またJ2降格の危機にある下位3チームは名古屋グランパス、湘南ベルマーレ、アビスパ福岡です。

首位の川崎フロンターレは、今年クラブ創設20年にして初のJ1タイトルを獲得すべく邁進していますが、2015年度のチームの人件費は約17億円です。

その顔ぶれには、3年連続J1得点王の大久保嘉人選手、俯瞰したパスを供給し続ける元日本代表の中村憲剛選手、日本代表FWの小林悠選手、リオ五輪でも活躍した大島僚太選手、選択眼に定評のあるスカウト陣が連れてきたブラジル人プレーヤーのエウシーニョやエドアルドネット選手などが揃います。

こうした選手の活躍により、浦和レッズや鹿島アントラーズが人件費に20~21億円を費やしているに比べると、効率的に上位をキープしていると言えます。

また、下位を見てみると、湘南ベルマーレの2015年度チーム人件費は約7億円、アビスパ福岡は約6億円と、上位3チームと比較すると約3分の1程度の規模です。

唯一の例外があるとすれば、名古屋グランパスです。チーム人件費として約21億円もかけているのに下位3チームに入っています。先日、2016年に初めて指揮を執った小倉隆史GM兼監督が休養するという、事実上の解任報道がありました。投下している資本のわりにパフォーマンスが悪いということと、J2降格を何とでも食い止めたいという判断かと思います。

まとめ

ここまで見てきたように、資金を得てそれに見合う選手を獲得することができれば、チームが勝つ可能性は高くなります。ただ、クラブチームの経営として、ない袖は振れません。有力な選手を獲得するためにはスポンサーの広告収入も重要ではありますが、サポーターの入場料収入がいかに重要か、浦和レッズを見ると分かります。

浦和レッズの事業規模は浦和レッズサポーター自身が作り上げ、有力な選手の獲得はサポーターの資金が源泉だといっても過言ではありません。

ここでの教訓は、本当にチームを応援する気持ちがあるならば、スタジアムに足を運んで少しでも値段の高い席に座りましょうということです。そうすることでクラブチームの営業収益は増え、良い選手を獲得するための原資を得ることができるわけです。各クラブがより潤い、また有力な選手を育成していくことが日本のサッカーの底上げにつながると思います。

2017年からのJリーグの放映権は、英国パフォームグループが向こう10年で総額2,100億円という金額で契約を結びました。こうした原資も、今後Jリーグのレベル向上に効いてくるのではないでしょうか。Jリーグは資金面でも変化し始めたとも言えます。今後の各クラブチームの経営に、これまで以上に注目したいと思います。

 

LIMO編集部