ウォール街で人気上昇中のヘッジファンド・リプリケーションとは?

度重なる世界的株価急落でリスクヘッジとしての注目度がアップ

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投資家のヘッジファンド離れが進んでいますが、その一方で最近のウォール街ではヘッジファンドの「戦略」への再評価から、ヘッジファンド・リプリケーション(複製)へのニーズが高まっています。

なぜ今、ヘッジファンドの複製に注目が集まっているのか、その背景を探ってみましょう。

ヘッジファンドへの投資効果を低コストで実現

ヘッジファンドそのものではなく、コピー(複製)への需要が高まっている最大の理由はコストにあります。

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米国ではここ数年、年金基金などの機関投資家がヘッジファンドへの投資を縮小する傾向にあり、低金利で運用利回りが低下したことから、手数料などのコストが割高となったことが主な理由とされています。

今月もニュージャージー州投資協議会が2017年のヘッジファンドへの資産の割り当てを現在の90億ドルから半減すると発表しました。残りの部分につても手数料を半額にした上で、事前に合意したリターンに達しなければ報酬を受け取らないことを条件とするなど、厳しい対応を迫っています。

ヘッジファンド・リサーチによると、ヘッジファンドの資産運用残高は2015年4-6月期をピークに減少に転じており、2016年4-6月期まで3四半期連続で資金流出となっています。

このように、ヘッジファンド業界は苦境に陥っており、投資家のヘッジファンド離れは加速している模様ですが、ヘッジファンドの投資手法そのものへの人気は根強いものがあります。

ヘッジファンドの特徴の1つとして、どのような市場環境においてもプラスのリターンを目指す「絶対リターン」型の戦略が挙げられます。ヘッジファンド複製の主な目的は、ヘッジファンドと同様の投資効果を低コストで実現することにあります。

今年2月にはゴールドマン・サックスが同社の人気リポートである「ヘッジファンド・モニター」に基づいた上場投資信託(ETF)を申請したことが話題となりました。ヘッジファンドが提出を義務付けられている四半期報告に基づき、ヘッジファンドが多く保有する50銘柄をピックアップするとしています。

米国には著名ヘッジファンドの投資対象を組み合わせたETFとして「Global X Top Guru Holdings Index(ティッカー:GURU)」があり、ヘッジファンドの過去のリターンからその傾向を読み取って、将来のパフォーマンスが近くなるようにポジションを調整しています。

このように、本来は高い報酬料が要求されるヘッジファンドへの投資を、戦略を複製することで低コストのETFにより代替することが可能となっています。

低金利で絶対リターンへのハードルが低下

ヘッジファンド複製への関心が高まっている主な背景として、世界的な低金利環境、不安定な金融市場、政治的リスクの高まりの3つが指摘されています。

絶対リターンを追及するタイプの戦略は、相場が下落する局面でも利益を上げる可能性が高いと考えられています。たとえば、絶対リターンの代表的な戦略としてロング・ショート戦略があり、売りと買いを同時に保有することで相場全体が上昇しても下落しても利益を上げようとする戦略です。

ただし、この戦略では相場が大きく上昇したケースでは、そのトレンドに乗ることが難しく、代表的な株価指数よりもリターンが小さくなる傾向があります。

米国での代表的なヘッジファンド型ETFである「IQ Hedge Multi-Strategy Tracker(ティッカー:QAI)の過去5年間の累積リターンは14%に過ぎず、S&P500に連動する「SPDR S&P 500(ティッカー:SPY)」の105%と比べ大きく見劣りします。

したがって、株式への投資と考えると不本意なリターンに見えるのですが、発想を転換して債券の利回りと比較すると魅力的なリターンになる可能性があります。

現在、米10年物国債の利回りは1%台半ばですので、株式市場の状況によらず、コンスタントに2%以上のリターンが期待できるのであれば、債券に代わる代替投資先として選択肢となり得るということです。

債券利回りの低下により絶対的なリターンのハードルが低くなったことが、ヘッジファンドの戦略の再評価につながった模様です。

不安定な金融市場や大統領選を控えてヘッジニーズも高まる

昨年8月の人民元切り下げ、12月の米利上げ、そして今年6月の英EU離脱などのイベントをきっかけに、世界的な株価の急落がこの1年の間に3回発生しています。株価が下落する局面でもプラスのリターンを目指すヘッジファンドの戦略は、文字通りヘッジの役割を果たすことが期待できます。

さらに、11月には米大統領選挙を控えており、ウォール街の市場関係者の間では「トランプ大統領が誕生したら、株価は急落するのではないか」との懸念が広がっています。6月の英国民投票では大方の予想を覆してEUの離脱が決定されたこともあり、政治的なリスクへの警戒感が強まっていることも、ヘッジファンドへの関心を高めています。

日本でも人気が高まる可能性あり

日本ではこれまで、「ヘッジファンド」型の投資信託が個人投資家のニーズに応えてきましたが、7月より米資産運用大手のウィズダムツリーが国内では初となるヘッジファンド型のETFの販売を開始しました。これをきっかけに、日本でもヘッジファンドの投資手法を模倣したETFが普及するかも知れません。

最近ではアベノミクスや日銀の異次元緩和に対する厳しい見方が増えており、景気の先行きに対する不安の声も強まっています。ヘッジファンドは下げ局面に強いと考えられていますので、日本でもヘッジファンドの戦略を模倣した商品への人気が高まる可能性がありそうです。

 

投信1編集部

投信1編集部は、証券アナリストやファンドマネージャーとして長年の調査経験を持つメンバーで構成されており、金融・経済ニュースや投資に関する知識・アイデアをわかりやすくお届けします。