米株と米債の連動は不吉なサイン? 何に警戒するべきか

米雇用統計は予想に届かず、景気見通しも危うい

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8月の米雇用統計が事前予想に届かなかったことで、米経済の先行きに対してやや慎重な見方が広がっています。こうした中、米株価と米債券価格が同じ方向に動くことが増えており、相場が大きく変調する前触れではないかと心配されています。

8月の米雇用統計、賃金の伸び率低下を失望

8月の米雇用統計では、非農業部門の雇用者数の増加が15.1万人にとどまり、好不調の目安とされている20万人を下回ったほか、事前予想の18.0万人にも届きませんでした。ただし、3か月平均では20万人を超えていますので、トレンドはまだ堅調さを維持していると言えます。

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雇用者数が精彩を欠いた中で、より大きな失望を誘ったのが賃金の伸びでした。時間当たりの賃金の伸び率は前年同月比で2.4%と、前月の2.7%から大きく低下しました。

米連邦準備理事会(FRB)が目標とする2.0%のインフレ率を達成するためには3.0%以上の賃金の伸びが必要とされており、賃金の伸びが鈍化したことでインフレに対する警戒感が薄らぎました。また、賃金の低い伸びが個人消費の低下に結びつくことも懸念されています。さらに、低調な賃金の伸びは景気そのものの弱さを反映している可能性もあります。

先行指標として注目度の高い経済指標も相次いで失速

米新車販売台数は堅調な雇用情勢と低金利を背景に拡大を続けてきましたが、8月は前年同月比で4.1%減少と振るいませんでした。1-8月期の累計では前年同期比0.6%増加と、わずかにプラス圏を維持していますが、通年ではマイナスとなることが予想されています。

2009年に底入れして以降、2010年から2015年まで6年連続で拡大してきた自動車販売にも転換期が訪れた模様です。自動車販売は景気に敏感なこともあり、拡大が止まったことで景気もピークアウトするのではないかと危惧されています。

景気の先行指標として注目度の高い8月のISM製造業景気指数も、6か月ぶりに判断の分かれ目となる50を割り込んでいます。また、ISM非製造業総合指数も節目の50こそ維持したものの、水準は2010年2月以来、6年半ぶりの低水準となりました。

8月のISM指数が製造業・非製造業ともに失速したことで、米景気の減速を裏付ける材料として警戒感が強まっています。

株と債券が同時に買われるとその後に反動安?

ウォール街のファンドマネージャーらが最近気にしているのが、株と債券が連動していることです。この点については、9月6日付けのウォール・ストリート・ジャーナル紙も、マーケットが反落する兆しの可能性があるとして取り上げています。

ポートフォリオを運用する上で、基本となるアセットクラスは株式と債券であり、株価と債券価格は逆方向に動くことが想定されています。実際、長期的なデータを見ると、株価と債券価格の相関係数はマイナスとなり、逆相関の関係にあることが分かります。

景気が良いと株が買われて債券が売られ(利回り上昇)、景気が悪いと株が売られて債券が買われる(利回り低下)ということです。少々ややこしくはなりますが、債券価格と債券利回りは反対方向に動きますので、金利と株価は同じ方法に動く傾向にあるとも言えます。

もちろん、金利と株価は常に同じ方向に動くわけではなく、逆に動くことが珍しいわけでもありません。しかし、株と債券が同時に買われるような局面は「不健全」な動きの可能性があるので注意したほうがよいということです。

年初には2.0%を超えていた米10年債利回りは、現在1.6%前後で推移しており、基調的には低下しています。一方、米主要株価指数はやや乱高下しながらも、断続的に過去最高値を更新しており、上昇トレンドにあると言えます。したがって、この間は株と債券が同時に買われていたことを示唆しています。

金利が低下すれば株高は当然?

ただし、金利が低下すれば株価が上昇するのは当然とする考え方もあります。代表的な株価評価モデルである配当割引モデルによると、金利の低下は株価を押し上げる要因なります。

このモデルでは、世界的に金利が低下しており、この低金利環境がしばらく続くと考えられている限り、株価が上昇しても何ら不思議ではありません。

市場が分断されているから同時に動いている?

低金利と株高はそれぞれが別の要因で動いているとの見方もあります。米国債利回りの低下は、ドイツ国債や日本国債の利回り低下に連動した動きであり、株高は堅調な雇用情勢を背景として景気の先行きに自信があるからだと考えられているようです。

通常、好景気が見込まれる場合には金利は上昇すると考えられますが、そこは見逃されているわけです。

景気回復を前提とした株高には警戒が必要

低金利が株価を押し上げていると考えた場合の最大のリスクは、金融政策の変更にあります。昨年12月に米連邦準備理事会(FRB)が10年ぶりに利上げを実施したことで、年明けのマーケットは大きく混乱しました。

低金利に依存した株高は、金融政策の変更の影響を大きく受ける可能性があります。ただし、米国では早期利上げ観測が後退しており、日欧では追加緩和が議論されていることを踏まえると、近い将来に金融政策が変更されるリスクは大きくはなさそうです。

一方、景気回復を前提とした株高には警戒を強める必要がありそうです。9月に入り発表された、8月分の米経済指標が相次いで米景気の減速を示唆していることから、株式市場は調整局面を迎える可能性があります。

景気の減速が確認され、株が売られて債券が買われることになれば、短期的には不利益を生じる可能性がありますが、経験則に照らすと「健全」な関係に戻ることになるので、ウォール街のファンドマネジャーはむしろ安心するのかも知れません。

 

投信1編集部

投信1編集部は、証券アナリストやファンドマネージャーとして長年の調査経験を持つメンバーで構成されており、金融・経済ニュースや投資に関する知識・アイデアをわかりやすくお届けします。