「『大阪伝統の味』とか大阪以外で言う店はアカン」。その日、大阪からやってきた元同僚と一杯飲むべく街に繰り出したとき、彼はある店の前でぼそりとつぶやきました。「確かに知らんな」。上京ホヤホヤだった筆者もそう思ったのを覚えています。

まさかそれから半年もたたないうちに、このお店を運営する会社が上場するとは。そう、このお店こそ2016年9月14日に東証マザーズに上場した「串カツ田中」(3547)でした。

大阪人は知らない「大阪伝統の味」

大変な失礼を承知であえて申し上げますと、実際のところ大阪人のほとんどは串カツ田中を知りません。それもそのはず、同社が「大阪伝統の味」を売りに第1号店を出店したのは2008年、場所は東京・世田谷です。

以来、順調に事業を拡大し、2016年7月末現在の店舗数は直営・FCあわせて120店舗まで急拡大していますが、関西にはまだ7店舗しかありません。そのうち大阪市内にあるのは2店舗だけ。大阪ではまだまだなじみのない店です。

しかし、百聞は一見に如かずとランチに訪れてみて、串カツ田中はこれまで大阪人(だけ?)が持っている串カツ屋のイメージをいい意味で覆す可能性があるかもしれないと思ったのです。

大阪人が持つ串カツ屋のイメージとは違う!?

筆者が訪れた店舗は、都内の学生やサラリーマンが多い街の一角にありました。店内は清潔で手入れが行き届いており、シンプルなテーブルとイスは決して豪華ではないけれど、居心地が悪いわけではない。

アツアツの揚げたて串カツをほかほかごはんとゆっくり食べられる(そして、たまたまなのかソースは容器に入っていてかけたい放題)。あたりを見回すと女性のおひとり様やグループも少なくない。「大阪の串カツ屋と全然雰囲気ちゃうやん…!」

かつて十数年大阪の梅田に勤めていた頃、筆者は串カツ屋に3回くらいしか行っていません。なんとなく雑多で落ち着かないし、周りで黙々と食べているおっちゃんがちょっと怖いし、立ち食いのところが多くてしんどい。「ソース二度付け禁止」も含めて、お作法がよくわからないのもつらい。そんなイメージがあったからです。

しかし、串カツ田中は基本的にソースは二度付け禁止ですが、それ以外はどれもこうした「大阪の串カツ屋」のイメージには当てはまりません。それを証拠に常連は口々に「家族で行く」というのです。リーズナブルで、ファミリーで行けるB級グルメだというのですね。

実はこれ、串カツ田中が狙っている路線でもあります。老若男女誰でも入りやすい、大衆食堂の明るく活気あるイメージを打ち出した店舗。じゃんけんで勝つと子供のドリンクが無料になるサービスや、子供にはソフトクリームを無料にするようなサービスもあります。これらの取り組みは人気があり、ファミリー層の取り込みは狙い通りに進んでいると言えます。

群雄割拠の串カツ屋チェーン。1,000店舗は達成できるか

この路線で串カツ田中は将来的に1,000店体制を目指しています。1,000店舗といえばドトールやサイゼリヤ、吉野家などにも匹敵する店舗数です。今年6月に上場したコメダ珈琲(3543)が700店舗弱、串カツ田中がベンチマークの一つに挙げる鳥貴族(3193)もまだ500店舗に達していません。

しかも、今や串カツ屋は群雄割拠の様相を呈しつつあります。「串カツってそんなに人気だったの?」と驚くほどの数なのです。

JASDAQ上場のフジオフードシステム(2752)は、大型ショッピングモールを中心に「串家物語」を約100店舗展開。未上場ですがピザーラやクアアイナを展開するフォーシーズも「串カツでんがな」を約80店舗展開していますし、京都・滋賀では約10店舗を展開する「串八」が人気です。

串カツ田中が1,000店舗体制を実現するには、これらの競合に負けないサービス・品質とブランド力が必要でしょう。

また、串カツを今よりもっと「日常的に食べるもの」にできるかどうかもポイントになるでしょう。ファミレスやカフェに行くように、串カツ屋にファミリーで、あるいは女性が1人でも通えるような食文化づくりなどの戦略も、もしかしたら必要になってくるかもしれません。

そして「大阪伝統の味」を掲げて関西で(特に大阪で)受け入れられるかどうか。経営者は大阪出身とはいえ、店舗としては関東発祥の串カツ田中を大阪人にどう認めさせるか。これは多店舗展開を図るうえでかなり重要なポイントになるような気がしてなりません。

大阪人からは「串カツ普段そんな食べへんやろ」「そもそもいつから大阪=串カツになったんや」という声も聞こえてきます。

実は串カツ田中だけでなく、串家物語も串カツでんがなも関西よりも関東のほうが店舗数は多いのです(ただし都道府県で見た場合、串家物語は東京都内11店舗に対し大阪府内19店舗と大阪のほうが多い)。大阪で串カツ田中が真の串カツ文化を花開かせることができるか。大阪を離れ東京モンとして生活する筆者も同社の今後を見守りたいと思っています。

LIMO編集部