「トランプ・リスク」で脚光を浴びる資産運用術

米大統領選を控えて注目度が高まるリスク・パリティ戦略とは?

Joseph Sohm / Shutterstock.com

11月8日の米大統領選挙まで1か月余りとなりました。市場では、「もしトランプ大統領が誕生したらマーケットは大きく動揺するのではないか」と心配されており、「トランプ・リスク」として警戒されています。こうした中、ここ最近のウォール街で注目度が高まっているのがリスク・パリティと呼ばれる資産運用戦略です。

リスクをコントロールして、相場の大きな下落を乗り切る

リスク・パリティ戦略とは、投資する資産ごとのリスク(価格変動率)を均一(パリティ)にすることで、ポートフォリオ全体のリスクを抑え、相場の大きな下落に備えようとする試みです。

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資産運用の基本は分散投資ですが、分散投資にはいくつかの落とし穴があります。まず挙げられるのが、同じような値動きをする資産に分散しても効果が乏しいということです。特に注意が必要なのが、平時においては異なる値動きでありながら、相場が急落する時には同調する傾向がある場合です。

また、標準的なポートフォリオとして株60%・債券40%を挙げることができますが、こうした伝統的なポートフォリオでは株と債券が異なる値動きであっても、一般に株価の変動は債券価格よりも大きいことから、リスクの大部分が株への投資に偏ってしまいます。したがって、株価が大きく下落する局面では大きな損失を出す恐れがあります。

単純な例としては、株価と債券価格のボラティリティ(変動率)がそれぞれ15%と5%だった場合、株と債券が逆方向に動くのであれば、投資比率をそれぞれ25%と75%とすることで株価が大きく下げても損失を防ぐことが可能となります。

このように、リスク・パリティ戦略では株価が急落した時に損失を最小限に抑えられるようリスクをコントロールすることに主眼が置かれています。

金融危機で注目も金利上昇局面で運用難に

リスク・パリティ戦略が普及するきかっけとなったのは2008年の金融危機だと言われています。金融危機では、主要な資産クラスが世界で同時に下落したことから、分散投資をしていても期待された効果が発揮されず、多くのファンドが巨額の損失を計上しました。

この反省を踏まえて、相場が大きく下落する局面でも損失を最小限に抑える投資手法としてリスク・パリティ戦略の人気が高まりました。

ただし、いいことばかりではありません。リスク・パリティ戦略は、リターンではなくリスクに軸足を置いていることから、低リスク資産である国債への投資比率が高い傾向にあり、金利の上昇局面での運用難が見込まれます。

実際、2013年のバーナンキ・ショック後、米金利が上昇する中で米株価が堅調となったことから、リスク・パリティ・ポートフォリオの運用成績は標準的なポートフォリオに比べて大きく見劣りする結果となり、それまでの人気が一転して、少なからぬ批判の対象となりました。

人民元ショックや英国民投票で人気が復活、トランプ・リスクも視野に

しかし、昨年8月の人民元ショックをきっかけに株価が急落したことで再びリスク・パリティ戦略が見直され、今年に入っても年初に株価が大きく値を崩したほか、6月には英国民投票で市場が大きく混乱したことから、さらに注目度が高まりました。

6月の英国民投票では事前予想を覆してEUの離脱派が勝利したこともあり、11月の米大統領選挙でも結果が出るまでは予断を許さないとの見方が強まっています。共和党ドナルド・トランプ候補の支持率の方が依然として低いものの、最近では民主党ヒラリー・クリントン候補の支持率低下により、両者の支持率は拮抗してきています。

26日には3回予定されているTV討論会の第1回目があり、高い関心を集めています。トランプ候補がうまく立ち回った場合、「トランプ・リスク」が一気に高まるかも知れません。

レバレッジには要注意、市場のかく乱要因との声も

リスク・パリティ戦略を採用するファンドでは、安全資産とされる国債のリターンを高めるためにレバレッジをかけることがあります。また、ポートフォリオを組む際に株価と債券価格の間には相関がないとすることもあります。

こうした傾向を踏まえて、株価と債券が同時に、しかも大きく下落した場合、ポジション調整などから市場環境をさらに悪化させる要因になる可能性があることが9月13日付けのウォール・ストリート・ジャーナル紙で指摘されています。

すべてのファンドにあてはまるわけではありませんが、リターンを上げるためにレバレッジを高めているポートフォリオには特に注意が必要となりそうです。

低ボラティリティETF、人気急騰でハイ・リターンの珍現象?

リスク・パリティ戦略と同様に、2008年の金融危機以降に人気となった低ボラティリティETF(上場投資信託)にも異変が起きているようです。

7月27日付けのマーケット・ウォッチによると、低ボラティティETFのリターンがベンチマークを上回る現象が起きています。通常、低ボラティリティETFはリスクが低く、相応にリターンも低い傾向にあります。

たとえば、7月22日現在、低ボラティリティETF市場で最大のシェアを誇るiShares Edge MSCI Min Vol USA ETF(ティッカー:USMV)の年初来のリターンは13.96%とベンチマークの6.23%を大きく上回っており、他の低ボラティリティETFも同様に好調です。

背景には低ボラティリティETFへの人気が高まり、投資が集中したことが挙げられています。

「トランプ・リスク」に備えて、リスク・パリティ戦略を採用するファンドや低ボラティリティETFの人気が一段と高まる可能性があります。ただし、投資判断には表面的な投資スタンスのみならず、レバレッジの有無や資金の流出入の動きなど、市場が置かれている環境やより詳細な投資内容にも十分な配慮が必要となりそうです。

 

投信1編集部

投信1編集部は、証券アナリストやファンドマネージャーとして長年の調査経験を持つメンバーで構成されており、金融・経済ニュースや投資に関する知識・アイデアをわかりやすくお届けします。