金価格見通し:米大統領選は金投資のチャンスか?

リスクヘッジには不向きとの声も、ドル安が追い風に

注目された米大統領選の第1回テレビ討論会では、民主党のヒラリー・クリントン候補が共和党のドナルド・トランプ候補に貫録勝ちとなりました。とはいえ、選挙戦はまだまだ接戦が続くと予想されており、トランプ候補が逆転する余地は残されています。

こうした中、英EU離脱(ブレグジット)で注目された金(ゴールド)への関心が再び高まっています。

トランプ大統領誕生なら1オンス1,850ドルまで上昇も

ABNアムロが7月22日付けで公表したリポートによると、現在の投資環境では民主党のクリントン候補、共和党のトランプ候補のどちらが大統領となっても金価格は上昇する見通しとなっています。

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同リポートでは、ジェラルド・フォード政権(1974-77年)以降の大統領任期期間におけるインフレ率や成長率、金利といった経済変数と金価格の関係を分析しています。その結果、現在の投資環境であれば、いずれの候補が大統領になっても2017年の金価格は上昇することが見込まれています。

メインシナリオとしてクリントン候補の勝利を予想した場合、2017年のGDP成長率はわずかに改善するものの、依然として長期的なトレンドを下回ることになるでしょう。

この場合、以下の3つが金価格の支援材料となりそうです。

  1. インフレ率が成長率を上回る可能性が高い
  2. 実質金利はマイナスとなることが予測される
  3. 米ドルは長期的に下落トレンドに転じる

メインシナリオでは金融危機の発生は想定しておらず、安全な逃避先としての金需要は弱いとしています。以上から、2017年の金価格は1オンス=1,650ドルに向けて緩やかに上昇していくと予測しています。

一方、トランプ候補が大統領になった場合には、金価格の上昇はさらに大きくなり、来年中に1,850ドルに達するとしています。

トランプ候補が大統領になる確率は低いとした上で、同候補の保護主義的な経済政策は米経済を弱めることになり、国内外で先行きの不透明感を強めることになると予測。この場合には、資金の逃避先としての金需要が高まると予想されます。

なお、9月30日現在、金価格は1330ドル近辺で推移しています。

リスクヘッジの役割には疑問の声も

金は誰の負債でもないことから株式や債券のように紙切れになってしまうことがなく、資金の安全な逃避先と考えられています。しかし、こうした考え方には疑問の声もあります。

8月3日付けのウォールストリートジャーナル紙によると、ハーバード大学のロバート・バロー教授はエコノミック・ジャーナル誌(2016年8月号)に寄稿した論文で、経済危機の際に金はヘッジ(保険)としての役割を果たしてこなかったと指摘しています。

1836年から2011年の金価格を調査した結果、インフレ調整後の金価格の上昇は年率1.1%となり、これは短期金利の利回りである1.0%をわずかに上回るに過ぎませんでした。

一方、リターンのボラティリティ(標準偏差、年率換算)は13.7%となり、株式の16.7%に近い数字となりました。

要するに、金への投資は短期金利並みのリターンを得るために株式並みのリスクを負っていたことになり、結果的にはあまりよい投資先とは言えなかったようです。

一般に、金投資は景気後退のヘッジの役割を果たすと言われていますが、この主張も否定されています。

ヘッジの役割を果たすには景気の後退と金価格の動きが逆相関の関係にある必要がありますが、景気と金価格との相関はほぼゼロであり、景気後退とは無関係としています。

1880年以降、1人当たりGDPが10%以上下落した経済危機が19カ国で56回発生しています。これらの経済危機の間、金価格は年平均で2.1%上昇しましたが、これは全期間の平均値である1.5%と大きな差がありません。

一方、ボラティリティは22%にまで急上昇しており、56回の経済危機のうち30回で金価格は下落しています。

金のボラティリティは1971年に金本位制が崩壊して以降、顕著に高まっています。

ドル安なら金には追い風

バロー教授が指摘するように、長期的な視点に立つと金は経済危機のヘッジにはならないのかも知れません。

しかし、今年6月の英EU離脱の際に金投資の人気が高まったことを踏まえると、大方の予想を覆してトランプ大統領が誕生した場合、再び金に注目が集まると考えても不思議ではないでしょう。

また、今回の大統領選では両候補ともにドル安を志向している点も注目されます。トランプ候補は「大統領に就任した初日に中国を為替操作国に認定する」としており、中国のみならず日本にも批判の矛先を向けています。

クリントン候補も同様に、中国や日本に対し、「通貨安政策をとっている」として非難しています。

加えて、低インフレに悩む米連邦準備理事会(FRB)も、ラエル・ブレイナードFRB理事がドル高に対する懸念を示すなどドル高に神経質になっている模様です。

こうした状況を踏まえると、ABNのリポートでも指摘されているように、今年から来年にかけて、ドル安がトレンドとなる可能性はありそうです。金融市場に大きな混乱が起きないとしても、ドル安による金価格の支援には期待できるのかもしれません。

 

投信1編集部

投信1編集部は、証券アナリストやファンドマネージャーとして長年の調査経験を持つメンバーで構成されており、金融・経済ニュースや投資に関する知識・アイデアをわかりやすくお届けします。