静かに始まった日銀「新たな枠組み」への期待と不安

日銀内部の「主な意見」の気になる点

この記事の読みどころ

日銀は物価目標の達成を「2年で2%」という短期決戦型で取り組んできましたが、 9月20~21日の金融政策決定会合で、持久戦となることをにらんだ枠組みである「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」に変更しました。

持続性に懸念も見られた国債購入など「量」を重視した政策から、長期から短期までの金利を操作する「イールドカーブ・コントロール」へと政策の中心をシフトしました。新たな金融政策の枠組みがそろりと開始される中、期待がある一方、今後の課題も見られます。

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金融政策決定会合における主な意見と国債購入計画:新たな枠組みが動き出す

日銀は2016年9月30日に、9月20、21日に開催した金融政策決定会合での議論の内容を紹介した「金融政策決定会合における主な意見」を公表しました。

この9月の金融政策会合で新たに導入を決めた枠組みに対して、どのような意見があったのかを振り返ります。また、同じく9月30日には日銀が月次の国債購入予定を公表しました。新たな枠組みで長期金利の水準を操作すると表明してから最初の国債購入額の公表ですが、前の月に比べ減額となるなど、変化の兆しが見られます。

どこに注目すべきか:国債購入計画、マネタリーベース

日銀は物価目標の達成を、短期決戦型(2年程度で2%)で取り組んできましたが、 9月の金融政策決定会合で、持久戦となることをにらんだ枠組みに変更しました。新たな金融政策の枠組みに対する期待がある一方、今後の課題も見られます。

まず、もう一度、日銀の金融政策の枠組みを簡単に振り返ります。従来の非伝統的金融政策は「量」に軸足を置いた枠組みでした。しかし、今後は長短金利に誘導目標を設定して利回り曲線(イールドカーブ)の形状をコントロールする「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」にシフトしたことがうかがえます。

一方、年間80兆円程度というベースマネー増加の数値目標は補完的な立場に置かれたと見られます。ただし、この先も「量」を増やし続ける方針は維持され、消費者物価上昇率の実績値が目標の2%を安定的に超えるまで量的金融緩和を継続するオーバーシュート型コミットメントも提示されました。

先に紹介した「主な意見」で、新たな枠組みに関する日銀内部での意見を見ると、新たな枠組みは、経済情勢に応じて柔軟に対応でき、政策の持続性も高まると評価する声が上がる一方、現状程度の国債買い入れを続ける中で、期間10年までの金利をフォワードガイダンスのもと、マイナス圏で長期間固定することになれば金融仲介機能への影響が懸念されるなどの批判もあり、日銀内部でも評価をめぐる意見の相違が浮き彫りとなっています。

個人的な感想としては、金融機関の収益悪化への配慮などからマイナス金利の深堀りを抑えたことなど評価すべき点はあります。また、新たな政策ゆえ、試行錯誤を重ねながら改善する余地もあると思われます。ただ、そもそも市場金利は景気動向を反映するのが本来であり、長期金利を操作するという発想そのものに無理があるように思われます。

次に、まだ始まったばかりですが、新たな枠組みでの政策運営を見ていきます。日銀は9月30日に「当面の長期国債買い入れの運営について」を公表しました。前月(9月)の購入計画に比べ、たとえば5~10年セクターで200億円、購入計画金額を減額しています。日銀が示した当面のイールドカーブ・コントロールは短期金利をマイナス、長期金利はゼロ%近辺を目標としたものの、実際に利回りがマイナス0.1%程度であったため減額したものと思われます。

市場では国債購入減額が懸念されず、為替はむしろ円安が進行する格好となっています。唐突なマイナス金利導入により悪化した市場と日銀の対話の改善が感じられます。総括的な検証では、コミュニケーションについて明確な検証が行われたとは思われませんが、市場と日銀の対話に改善の兆しが見られます。この対話の改善は今後の政策運営をするうえで重要になると期待しており、今後も対話が続けられるかに注目しています。

その意味で、気がかりな点もあります。「主な意見」には、日銀内の意見の相違も見られるからです。たとえば、マネタリーベースの拡大は予想物価の上昇率に寄与したとして、前向きに評価する意見と、マネタリーベースと物価上昇率の間には長期的な関係は観察できないという、全く反対の意見が併記されています。イールドカーブ・コントロールを主体とすることを決断したのであれば、マネタリーベースの拡大は分が悪いようにも思われます。

最後に、潜在成長率を引き上げて、経済に中立な金利である自然利子率を上昇させるには政府の成長力強化の取り組みが必要だという声が日銀内部から聞かれました。

たとえば、欧州中央銀行(ECB)はドイツに財政政策を促すなど、外国の中央銀行でも金融政策だけに成長戦略を期待すべきではないという姿勢を示しています。自然利子率が低いとするならば、その原因は人口動態や生産性など、金融政策以外にも求める必要があると思われます。日銀の成長戦略に対する新たなメッセージにも注目しています。

 ピクテ投信投資顧問株式会社 梅澤 利文

梅澤 利文
  • 梅澤 利文
  • ピクテ投信投資顧問株式会社
  • シニア・ファンド・アナリスト

東京理科大学工学部卒業後、国内証券会社のシステム運用部門を経て、外資系運用会社(BNPパリバ投信投資顧問(当時)等)で債券、仕組債、オルタナティブ運用を担当。
2010年ピクテ投信投資顧問入社。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員。