この記事の読みどころ

  • 昨年の後半に何かと話題になったNISA(少額投資非課税制度)の公表データを見ると、年齢層や商品などにおいて、昨年と比べて少し変化があることが確認できます。
  • 2016年にジュニアNISAは、まだ日が浅いこともありますが、年齢別には比較的万遍なく口座が開設されているようです。
  • NISAにしても、2017年から始まる個人型確定拠出年金の制度にしても、投資リターンを高めるための手段です。自分の投資の目的や目標を明確にした上で、これらの手段をうまく使っていきたいものです。

昨年の今頃盛り上がっていたNISA

昨年の今頃、金融、経済または投資関係のセミナーやシンポジウムで多く取り上げられていたテーマは、「NISA(少額投資非課税制度)」でした。

2014年から始まった制度ですが、2016年1月から非課税の投資枠が年間100万円から120万円まで引き上げられるとか、2016年から0~19歳を対象としたジュニアNISAが始まるとか、話題に事欠かず、金融機関がこぞって口座獲得に動いていたというのが1年前の状況です。

2016年も残すところ3か月を切りましたが、NISAの話題はすっかり聞かなくなったという印象は否めません。とは言え、当面は続く制度ですから、現状がどうなっているかを確認してみたいと思います。

NISAに関係するデータを見てみよう

NISAの利用状況は、3か月に1度のペースで公表される金融庁のデータ(全金融機関対象)と、毎月公表される日本証券業協会のデータ(月次公表は主要証券会社10社のみ、全証券会社のデータは3か月に1度公表)があります。9月の終わりに金融庁から2016年6月末の状況のデータが公表されましたので、その数値をもとに状況を確認してみましょう。

NISA口座は中高年齢層の保有が多いが・・・

NISA口座数は、2016年6月末で1,029万口座です。このうち証券会社は612万口座ですから、全体の60%くらいが証券会社で、残りが銀行や信託銀行などの金融機関になります。

年代別に見ると、60歳代が26.0%で最も多く、次に多いのが70歳代の19.1%です。60歳代~80歳代以上を合計すると、NISA口座数の53.5%と過半を占めます。金融資産を多く保有する中高年齢層の口座が多いという状況です。

ただし、少し変化も見られています。

2015年6月末から2016年6月末までの1年間で、NISA口座は108万口座増えています。その増えた108万口座を年代別に見ると、40歳代が最も多い21.2%、次に60歳代の20.9%となっています。その後、50歳代の15.9%、30歳代の14.8%と続きます。この1年間に増加したNISA口座だけで見れば、若干ながら若年層へ裾野が広がっていると言えそうです。

残高では投資信託が多いが、今年の新規買い付けは上場株式が増加

2016年6月末の口座数は前年同期比11.8%で増えている一方、買い付け金額は、2015年1~6月の2.21兆円に対し、2016年1~6月は1.93兆円に留まり、12.7%減少しています。口座を開設したけれども投資していないという人が多いということも考えられますが、注目したいのは、その商品別の内訳です。

以下は、商品別の2015年1~6月と2016年1~6月の各半年間の買い付け金額の比較です。

総額:2兆2,115億円→ 1兆9,317億円(▲2,798億円)
上場株式:6,577億円→ 8,267億円(+1,690億円)
投資信託:1兆5,038億円→1兆403億円(▲4,635億円)
ETF: 312億円→ 461億円(+148億円)
REIT:188億円→186億円(▲2億円)

投資信託への買い付けが大きく減った一方、上場株式の買い付けは増加し、投資信託の買い付け金額に接近しています。

これには、いくつかの要因が考えられるかと思います。

先ほど、この1年で増加した口座のうち、40歳代の占める割合が最も高いと指摘しましたが、比較的リスクが取れる(取るべき)世代が増えたことが、上場株式が増加した要因の1つにあげられるかもしれません。

また、NISA口座の節税効果から、キャピタルゲインが大きくなる可能性がある上場株式への投資に、NISA口座を優先して充てていることも考えられます。また、年初より為替が円高方向に振れてきているため、海外の債券や株式を対象とした投資信託への投資が手控えられた(その分上場株式に向かった)可能性も考えられます。

非稼働口座は4割以上存在する

また、日本証券業協会のデータによれば、全証券会社の設定口座数のうち稼働口座数の占める割合は、2015年6月末の51.1%に対し、2016年6月末は59.1%まで上昇しています。

それでも、面倒な手続きを経て口座を開設したのに何も買い付けていない口座が、全体の4割以上あるということで、単にキャンペーン目当てで開設したのか、それとも投資を妨げる何かしらの要因があるのか、知りたいところです。

比較的万遍なく申し込まれたジュニアNISA

2016年1月から申し込みが、4月から投資(買い付け)が開始となったジュニアNISAですが、口座数は2016年6月末で13万8,672口座となっています。対象となる子供の年齢別では14歳、15歳の約7,500口座が最も多いですが、1歳から18歳まで、6,000~7,000口座の範囲で比較的万遍なく分布しています(さすがに0歳や19歳の口座数は少なくなります)。

買い付け金額は、2016年4月~6月の3か月で122億円です。1口座あたりの買い付け金額は88,000円ですが、年齢層別では、0歳の68,000円、1~5歳の71,000円、6~10歳の83,000円、11~15歳の98,000円、16~20歳の111,000円まで、きれいなまでに、年齢が上になるほど1口座あたりの買い付け金額が高くなっています。

また、ジュニアNISAの商品別の内訳を見ると、投資信託が61.1%、上場株式が36.0%となっているので、通常のNISAの商品構成とほとんど変わりません。

実際には親が投資配分を考えるわけですから、似たような形になるのは当然かもしれませんが、投資の目的が何であるかにより取るべきリスクが変わってくることを考えると、もし親の年齢と子供の年齢の組み合わせのデータがあれば、面白いことが分かるかもしれません。

ジュニアNISAについてはまだ期間が短いので、もう少しすれば、詳細なデータが出てくることと期待しています。

手段と目的をはき違えないようにすることが大切

昨年、NISAに関連して『NISA口座では100万円の枠を使いきることを目的にしてはいけない』という記事を書きました。口座の枠が余っているという理由で、年末に慌ただしく投資するのだけは避けましょうという内容でした。

2017年1月からは、個人型確定拠出年金の制度も始まります。NISAにしても、個人型確定拠出年金にしても、あくまで投資リターンを高めるための、国家公認の手段であり道具です。投資の目的と目標を明確にすることを前提に、どの資産をどの手段で運用していくか、秋の夜長にゆっくりと考えてみてはいかがでしょうか。

データ出典元金融庁の公表データ日本証券業協会の公表データ

 

藤野 敬太