キュレーターから読者に伝えたいポイント

米国での12月の利上げがコンセンサスとなりつつあります。とはいえ、リーマンショック以降の家計および企業による消費や設備投資の手控え傾向、また資金需要の低迷といったトレンド(2009年頃はこうした変化がニューノーマルと呼ばれていました)が大きく転換したわけではありません。

そこで、以下の3つの記事から世界的な低インフレ率や低金利の背景を改めて確認しておきましょう。

世界景気は低体温状態

最近、金融や経済のニュースで耳にする機会が多くなっているキーワードに「自然利子率」というものがあります。このきっかけとなったのは、米サンフランシスコ連銀が米国の自然利子率が低下している可能性を論文で公表したことです。

金利は、一般的には経済が過熱すると上昇し、停滞すると低下しますが、自然利子率は経済が過熱なしに成長できる状態でのインフレ調整後の金利を指すとされています。言い換えれば、自然利子率とは、貯蓄と投資をバランスさせる、物価に中立な金利ということになります。

その自然利子率が低下していることに米国の金融当局は注目しており、また、同じ問題意識を日銀も共有しているようです。

人間の場合は低体温になると血行も悪くなり、病気になりやすくなるといわれています。金利は人間に例えれば経済の体温です。よって、自然利子率の低下を放っておくと経済の健全性や活力が失われてしまうといった問題意識を、私達も持つ必要があるのかもしれません。

出所:新たな注目は自然利子率!(ピクテ投信投資顧問)

モノの動きも停滞

自然利子率の低下と並んで話題に上る機会が増えているキーワードが「世界貿易の停滞」です。

世界全体の貿易統計として最も速報性があることで注目されているオランダの経済政策分析局によると、2016年の世界貿易量は4-6月期に前期比▲0.8%に落ち込んでいます。世界のGDPが低成長とはいえプラス成長を維持している中で、貿易がマイナス成長になっているのは驚くべきことです。

また、GDP伸び率とのマイナス乖離が拡大しているということは、貿易の停滞が“景気が悪いから貿易が伸びない”という循環論ではなく、大きな構造変化が背景にあるのでは、という見方に勢いを持たせます。

構造変化の1つは、先進国の潜在成長率の低下です。これによって、新興国の製品・資源の輸出が減少し、新興国の景気が減速するという状態の定着です。つまり、輸出主導の成長モデルが限界に来ているということです。

もう1つの変化は、現地生産化の進展です。経済発展を遂げた中国、アセアンのような消費地では、現地で部品や設備といった生産財の調達が可能となり、その結果、先進国からの輸出が減少するといった現象です。

米国大統領候補のトランプ氏に代表される「反グローバリズム」を掲げたポピュリスト達は、発展途上国は、アメリカから製品を買わなくなっている一方で、米国には安い製品を輸出し米国の雇用を奪っていると主張して自由貿易に異を唱えています。また、同様な考え方が、米国に限らず先進国で一定の支持を集めています。

こうした考え方がさらに広がっていくと、ますます世界貿易を世界経済の牽引役として期待することができなくなり、世界景気は停滞することになります。そして、上述した自然利子率の上昇も期待できない、ということになります。

出所:ハッサクのなるほど為替超入門 第120回 世界貿易の停滞(楽天証券)

低金利環境は当面継続すると見られる

米国では12月の利上げが行われることはコンセンサスとなりつつあり、また、欧州でもマイナス金利や量的緩和策の見直し機運が高まっています。こうした短期的な潮目の変化に注目することは資産運用を行う上で非常に重要ですが、一方、中長期的な大局観を持つことも忘れてはいけません。

これまで述べてきたように、需要不足や貿易の停滞などの構造要因により、世界経済は低成長が続き、金利が持続的に大幅に上昇するような局面ではない、ということも頭に入れておくことが大切です。

出所:マーケットフォーカス、2016年10月(アセットマネジメントOne)

 

LIMO編集部