10月11日のアルコア(ティッカー:AA)を皮切りに、7-9月期の米決算シーズンがスタートしました。業績リセッションからの脱却が期待されていますが、アルコアが予想を下回ったことで、いきなり暗雲が垂れ込めています。

労働市場には陰りが見え始めていますので、事前に予想されていたほどには見通しは明るくないのかも知れません。ドルや原油の動きにも警戒が必要で、上下どちらに振れても波乱要因となる可能性があり、安定した推移が望まれます。

7-9月期は6四半期ぶりの増益が期待されている

米調査会社ファクトセットが10月7日付けで公表したリポートによると、S&P500指数を構成する企業の7-9月期の収益は、前年同期比で2.1%減少する見通しとなっています。減益は6四半期連続で、予想通りとなれば業績リセッションを継続することになります。

ただし、過去のデータを振り返ると実際の数字は事前予想を上回る傾向にあります。過去4年の平均値では実績値は見通しから2.9%ポイント改善していますので、この数字を当てはめるとプラスへの転換が期待できます。

また、10-12月期は5.9%の増益が見込まれていますので、少なくとも年内に業績リセッションは終了する見通しとなっています。売上高を見ても7-9月期が2.6%増と7四半期ぶりに増収となり、10-12月期には5.2%増へと伸びが加速する見通しとなっています。

このように、低迷が続いていた米企業の業績も7-9月期には業績リセッションから抜け出すかも知れないとの期待が膨らんでいましたが、スタート直後から主要株価指数が下落しており、雲行きが怪しくなっています。

雇用統計が示唆するほどには強くない労働市場

9月の米雇用統計では非農業部門の雇用者数が15.6万人の増加となり、予想には届かなかったものの、年内の利上げを後押しするには十分な数字と見なされた模様で、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)のフェドウォッチによる12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ確率は70%近辺へと上昇しています。

米連邦準備理事会(FRB)が利上げをするのかどうかの判断基準として70%が1つの目安とされていますので、市場は12月の利上げをほぼ織り込んだと言えそうです。

一方、9月の米労働市場情勢指数(LMCI)はマイナス2.2と、8月のマイナス1.3からマイナス幅を拡大しました。LMCIは、FRBが金融政策の羅針盤として開発したもので、19の指数から構成されています。

市場では雇用者数や失業率が注目されがちですが、雇用者数は振れが大きく、失業率は景気に遅行する傾向があり、こうした不都合からこれらの数字では適切なタイミングで雇用情勢を十分に把握することが難しいと考えられています。

LMCIはゼロを上回れば「改善」、下回れば「悪化」と判断されますが、今年に入りゼロを上回ったのはたったの1度(7月)であり、労働市場は年初から弱含みで推移していることを示唆しています。

長期的に見ても、2014年4月の8.3をピークに低下傾向となっています。米国では2013年12月に量的緩和の縮小が開始され、2014年10月に量的緩和が終了していますので、金融政策が出口政策へと乗り出したタイミングで雇用情勢もピークアウトしていたことがわかります。

昨年12月には利上げを開始しましたが、その後はLMCIの悪化が続いています。こうした状況を踏まえると、LMCIが少なくともプラスに転換しないかぎり、12月の利上げは危険な賭けとなりそうです。

LMCIが悪化を示唆しているにもかかわらず、利上げを実施した場合には、近い将来に景気の後退が始まるかも知れません。

ドルや原油の動きにも注意、相場の安定がベストシナリオ

米株価の先行きを占う上では、ドルや原油の動きも注目されます。

S&P500構成企業の売上高のうち31%を海外が占めており、ドル高は企業収益を圧迫する傾向にあります。

FRBが公表しているドルインデックスを見ると、今年1月まで12カ月連続で前年同月比で10%以上の上昇率となっており、ドル高が企業収益を圧迫していました。それが、8月には1.3%まで上昇率が鈍化しており、収益の持ち直しにつながっています。

しかし、9月以降はややドル高で推移しており、利上げ観測が高まることでドルが一段高となった場合には、10-12月期以降の企業業績は予想されているほどの改善が達成されない可能性があり、警戒が必要です。

8月の原油価格(WTI、期近)は1バレル当たり44.8ドルと前年同月比4.5%上昇し、2014年6月以来、おおよそ2年ぶりに前年水準を上回りました。原油価格は今年2月をボトムに上昇基調となっており、これまで大幅な減益を続けてきたはエネルギー企業も10-12月期にはプラス転換が期待できそうです。

しかし、原油価格の上昇は物価を押し上げますので、利上げの材料となることが危惧されます。

8月の米消費者物価指数(CPI)は、前年同月比1.1%上昇とFRBが目標とする2.0%を大きく下回っていますが、食品とエネルギーを除くコア指数を見ると、8月は2.3%上昇と目標を上回っています。今後は原油安の影響が薄れることでCPIは2.0%へ向けて上昇していくことが見込まれますので、利上げを後押しすると考えられます。

年初からの動きを見ると、原油相場の持ち直しやドル高の修正が株価にプラスであったことを示唆しています。しかし、利上げが強く意識されてくると、原油高やドル安はインフレのリスクを高めますので、これまでとは逆にマイナスに働くことも想定されます。

原油安やドル高は引き続きネガティブな材料と考えられますので、ドルや原油価格は上下どちらに振れても株価への好ましい反応は期待できそうにありません。したがって、当面はドルや原油価格が安定的に推移することが、株価にとっての最も望ましいシナリオとなりそうです。

 

LIMO編集部