東京がパリを抜き3位、それでも手放しで喜べない理由

世界の都市総合力ランキングに見る東京の魅力と弱点

この記事の読みどころ

  • 森記念財団都市戦略研究所が毎年発表する「世界の都市総合力ランキング」で、調査開始以来ずっと4位だった東京は、今回初めて3位に順位を上げました。
  • 東京が順位を上げた要因は、2016年前半までの円安とインバウンドと言えそうです。実際の居住者にとってはあまり実感がないかもしれません。また、「経営者」視線では、アジア地域を中心に、都市間競争が激しくなっている状況がうかがえます。
  • 円安とインバウンド消費により順位を上げた格好ですが、それら以外の要因で、都市の魅力を高める施策に期待したいところです。まずは、来年の調査で東京が順位を維持できるかどうかが注目点です。
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「世界の都市総合力ランキング」で東京は3位に浮上

世界の都市総合力ランキング(Global Power City Index、以下GPCI)」という調査があります。森記念財団都市戦略研究所が2008年から毎年公表している調査で、世界の主要42都市を対象に、経済、研究・開発、文化・交流、居住、環境、交通・アクセス、という6分野にわたって指標化してランキングしたものです。日本の都市では、東京、大阪、福岡が調査対象となっています。

この2016年の調査が先日10月18日に発表されました。

2016年の調査では、1位がロンドン、2位がニューヨーク、3位が東京となりました。2008年の調査開始以降、東京はずっと4位でしたが、今回の調査で、同じく調査開始以降ずっと3位を維持していたパリを抜き、初めて3位に上がったことが話題となったようです。

世界の都市総合力ランキングでの日本の都市の順位

出所:「世界の都市総合力ランキング」(森記念財団都市戦略研究所)

円安が東京の都市力を引き上げた?

GPCI調査のコメントによると、パリが順位を落とした要因として、同時多発テロが発生した影響で、訪問者数や外国人居住者数の減少により「文化・交流」のスコアが低下したことが挙げられています。確かにそれも一理あるでしょう。しかし、それ以上に、東京のスコアが上昇したという要因の方が大きいようです。

中身を詳しく見てみると、東京がスコアを大きく伸ばした分野は、伸ばした順に、「居住」、「文化・交流」、「交通・アクセス」の3分野でした。

「居住」分野は変化が大きく、2015年の15位に対し、2016年では6位まで順位を上げました。これは為替変動(円安)により、(ドル建てでの)賃貸住宅平均賃料や物価水準が下がったことが貢献したためです。為替変動が主要因ですから、日本の他の都市にも同じことが言え、「居住」分野では、大阪は16位から8位へ、福岡は18位から9位へ順位を上げました。その結果、日本の3都市すべてが10位に入るという状況になりました。

「文化・交流」分野は5位のままですが、スコア自体は上昇しました。この分野は2013年以降スコアを伸ばし続けていますが、2016年は、国際コンベンションの開催件数、海外からの訪問者数、買い物の魅力、食事の魅力といった指標でスコアを大きく上げたようです。

以上からざっと言えば、円安で相対的な物価水準が下がったことと、(円安も相まって)インバウンド消費が盛り上がったことが、東京の都市力を引き上げたというところでしょう。

ですから、「居住」分野の順位が大きく上がったと言っても、実際に住んでいる住民の多くにとっては、あまり実感が湧かないかもしれません。

「アクター」別 に見ると違った風景が見える

GPCIの調査で興味を引くのは、「アクター別」のランキングというものがあることです。これは、都市に関わる人を「経営者」、「研究者」、「アーティスト」、「観光客」、「生活者」の5つの「アクター」に分け、それぞれの視点からの評価をランキングにしたものです。

東京の2015年と2016年の順位は、「経営者」8位→7位、「研究者」3位→3位、「アーティスト」8位→7位、「観光客」6位→5位、「生活者」8位→6位と、「研究者」以外で順位を上げています。

「生活者」のランクアップが目立ちますが、購買環境のスコアが上昇したことによるものだそうです。やはり、円安による物価水準の低下が大きく影響していると言えそうです。

興味深いのは、「経営者」のランキングです。東京は7位に位置し、前年より1つ順位を上げていますが、2位のシンガポール、3位の香港、4位の上海、5位の北京と、東・東南アジアの都市の後塵を拝す結果となっています。また、9位のソウルや10位のクアラルンプールも迫ってきています。経営者視線では、東京がアジアの都市に埋没しかねない状況が感じられます。

実際、GPCI調査のコメントによると、東京は「ビジネスの成長性」や「ビジネスの容易性」のスコアが低いとのことで、今後、イノベーションを生み出す土壌づくりが必要なことを示唆していると感じます。

もう1つ、3位につけている「研究者」でも、ニューヨークとロンドンの上位2都市になかなか追いつけない理由の1つとして、「外国人研究者の受け入れ態勢」などのスコアが低いことが挙げられています。

東京はこれからも高い順位を維持できるのか

今回の調査で総合順位を上げた東京ですが、その要因は、円安による(世界で見た相対的な)物価水準の低下によるところが大きかったようです。ドル円相場は、2016年初めに1ドル120円の水準でしたが、今は100円台前半にあって、年初よりは明らかに円高となっています。

また、10月17日に公表された日銀の「地域経済報告(さくらレポート)」によれば、インバウンド消費はモノ消費からコト消費へ軸足を移したと明言しています。円高で減少すると考えられるモノ消費を、コト消費でどこまでカバーできるかは未知数です。

東京は築地市場やオリンピック施設の建設をめぐって、ごたごたした状態が続いています。オリンピックはインフラを整える良い機会なのですが、今のところ、うまく活用できているようには思えません。どういう都市にしたいのか、または、どういう都市として見られたいのか、というグランドデザインが見えてこないところに根本的な問題がありそうですが、そうしている間にも、世界の他の都市との競争は激しさを増す一方です。

為替水準と、それに紐づくインバウンド消費以外の要因で、都市の魅力を高める施策に期待したいところですが、まずは、来年の調査で東京が順位を維持できるかどうかに注目しましょう。

 

藤野   敬太

東京大学経済学部を卒業後、プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント(現日本アイ・ビー・エム)等を経て、2001年から2013年まで、日興アセットマネジメントにて、アナリストおよびファンドマネージャーとして日本株ファンドの運用に従事。
現在は、オフィス・ラコルドの代表として、ファミリー向け・ファミリービジネス向けのコンサルティングおよびアドバイザー業務を展開する。
CFP(日本ファイナンシャル・プランナーズ協会認定)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、シニア・プライベートバンカー(日本証券アナリスト協会認定)。