不振が続く自動車株、主力株は軒並み大幅下落

2016年も残り2か月弱となりましたが、株式市場では年初から自動車株の不振が目立っています。円高進行に加え、国内販売の低迷、米国市場の頭打ち、新興国市場の伸び悩みなどにより、主力株のパフォーマンスは軒並み冴えません。

実際に年初からの騰落率を見ると、TOPIXの▲12%に対して、トヨタ自動車が▲22%、ホンダが▲25%、日産自動車が▲20%、富士重工が▲22%、マツダが▲36%となっており、市場平均を大幅に下回る状況です(2015年12月30日と2016年11月7日の終値比較、以下同)。

しかも、11月7日の自動車株は総じて大幅反発となりましたので、それでもこの下落率になっているわけです。

年初来で唯一プラスのスズキ株が一人勝ち、高値を更新中

その中にあって、唯一、年初来の騰落率がプラスとなっているのがスズキ(7269)です。他の主力自動車株が軒並み▲20%以上の下落となっているにもかかわらず、スズキ株は約+4%上昇となっており、“一人勝ち”と言っても過言ではない状況です。

特に、7日の株価は前週末に発表した好決算を受けて大幅高となり、年初来高値を更新しました。11月に年初来高値を更新すること自体が特筆すべきことです。スズキ株に投資していた人は大喜びしているでしょう。

なぜ、スズキの株価だけが“一人勝ち”状態となっているのでしょうか。

好業績は株価好調の一つの要因だが・・・

まず、業績動向を見てみましょう。先日の上期決算時に上方修正した結果、2017年3月期の営業利益は対前期比+2%増の2,000億円となる見込みです。それまでの会社予想は、同▲8%減の1,800億円でした。

確かに、減益見通しが一転して増益見通しになったインパクトは大きいと言えます。他社の多くが同▲30%減以上の大幅減益見通しですから、相対的に見ても目立ちます。

しかし、10月31日に決算発表を行ったホンダも、従来予想を上方修正(営業利益は+29%増益へ)したにもかかわらず、その後の株価は下落しています。ホンダの場合、大幅増益と言っても会計処理の変更など一過性要因があることや、発表翌日から円高が進んだこと等、一概に比較できません。

ただ、スズキ株の好調の背景には、業績動向以外の要素もありそうです。

7月上旬まで他の自動車株と大きな差異はなし

ここでスズキの株価チャートを見てみましょう。株価は、不適切な燃費測定問題が明らかとなった5月中旬に年初来安値を付け、その後は戻しますが、円高が加速した7月上旬に再び弱含みました。

実は、この時点において年初来から約▲30%下落しており、他の自動車株と極端に大きな差異はありませんでした。つまり、7月上旬以降にスズキ株が他の自動車株よりも圧倒的に評価されるようになったわけです。

スズキの過去1年間の株価推移

米国の自動車販売頭打ちで相対的な優位性が出た可能性

スズキと言えば、国内の軽自動車とインド事業が2本柱です。しかし、国内の軽自動車販売は苦戦が続いています。また、インドの販売は好調を維持していますが、7月以降に改めてポジティブに評価される材料とは考え難いと言えます。

ただ、7月から米国市場の新車販売に頭打ち傾向が強まったため、相対的な優位さが評価された面はあるかもしれません。

見逃せないスズキのトップマネジメントの変化

もう一つ見逃せないのが、経営の変化です。スズキは現在の鈴木修会長の強烈なトップダウン経営で成長してきました。しかし、その鈴木修会長も高齢となり、徐々に次の経営陣への期待と不安が交錯する時期が続いてきました。

しかし、前述した不適切な燃費測定問題の責任を取る形で、6月末に鈴木修会長がCEOを辞して(注:代表取締役は継続)、息子である鈴木俊宏社長にCEOとCOOを移譲しました。そこから、新しい経営陣への期待が高まったとも考えられます。

また、10月に入ってからは、トヨタ自動車との業務提携の検討開始を発表しました。これは、今までの鈴木修会長の経営時には見られなかった、非常に大きな変化です。

こうしたトップマネジメントの変化に対して、外国人投資家は大きく反応する傾向があります。スズキの新しい経営スタンスが、外国人投資家を中心に評価されはじめた可能性は十分あると考えられます。

しかしながら、現在のスズキ株の高いパフォーマンスは、円高の環境を勘案した“消去法”による一過性の可能性であることも否めません。スズキ株の真価が問われるのは、まさしくこれからになると言えましょう。

 

LIMO編集部