なぜ中国人はシリコンバレーの高額住宅を買うのか?

パロアルトに流入する中国からの資金は年々上昇

写真:筆者提供

パロアルトの住宅市場で存在感を増す中国からの買い手

シリコンバレーにあるパロアルトの住宅市場の夏は、地元住民が海外休暇へ行くため市場に出る新規の物件が少なく、本来は取引が少ない時期です。

しかし、近年は海外、特に中国からの買い手が夏に集中して来るため、限られた供給に対して需要が強く、住宅価格の小さいピークを打つこともあります。中国人家族たちは、子供を近辺のサマーキャンプに行かせると同時に、パルアルトおよび隣町のアサートンのハイエンド住宅(500万ドルから$1500ドル、約5億円~15億円)を購入するのです。

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正式な統計はありませんが、パロアルトにおけるハイエンド住宅(400万ドル以上)の買い手のうち、中国からの顧客は近年少なくとも半分ぐらいになった実感があります。

また、中国からの需要がなければ、いわゆる2011年から15年の“スーパーサイクル”も起きなかったかもしれません。その間、パロアルトにおける住宅の中間価格は$130万から$250万まで、ほぼ倍に上昇しました。

中国人の買い手が市場全体に占める割合の統計がない理由は、カリフォルニアで家を買う場合、特に何の身分証明書も要求されず、名前と資金があれば売買が成立するからです。

売買の記録は公開情報ですので、買い手の名前は調べられます。しかし、名前では国籍を判断できません。それに、買い手の代理である仲介業者で判断するのも不可能です。中国人の買い手の多くは英語が流暢で、英語しか話せない地元のベテラン仲介業者を選ぶケースも少なくありません。

なぜパロアルトを選ぶのか?

では、なぜ中国から住宅を買いに来る人たちは、高い価格にも関わらずパロアルトを好むのでしょうか? それは、パロアルトには彼らが望むものが全て揃っているからです。つまり、質の良い公立学校、好調なテック経済、多様な人種、アジアから西海岸へのアクセスの良さ、そして温暖な天候もです。

中国人の親は、自分の能力が及ぶ限り子供に最善の教育環境を与えようとする伝統があります。それは、その親自身が十分な教育を受けたかどうかには関係ありません。

パロアルトに来る多くの中国人の子供たちは、それ以前に英国やスイス、そして、もちろん米国東海岸での短期プログラムをすでに体験してきています。そのため、筆者がよく聞かれるのは、シリコンバレーでは公立・私立校ともにアカデミックのレベルは決して高くはないのに、なぜ中国人がここを選ぶかということです。

しかし、彼等が敢えてパロアルトを選ぶ理由は、学校での勉強だけでなく、子供たちがシリコンバレーという環境の中で学ぶことに価値があると考えている点にあります。つまり、リスクテイクする態度や責任感といったものを、ここで養うことができるからです。

シリコンバレーの堅調なテック経済は、裕福な中国人家族がパロアルトを選ぶもう1つの理由です。その親たちのプロフィールを見ると、新興インターネット企業の初期メンバーとビジネスオーナーがほとんどで、何らかの形で、すでにシリコンバレーと仕事上の関係があります。

周知のように、世界のテック経済のほとんどは米国とアジアにあります。特に中国は、ひと昔前の“世界の工場”から、シリコンバレーの斬新なアイデアに資金を提供する立場へと変わってきています。アジアへの便利なアクセスによって、パロアルトに転居してきた中国人の親たちは本国との仕事を支障なく続けることもできます。

どんな動機でパロアルトに住宅を購入するのか?

パロアルトで住宅を購入する中国人は、大きく2つのグループに分かれます。1つは投資目的です。すぐに移住するつもりはなく、金融資産のリスク分散とシリコンバレーとの接点を持つことを目的に、パロアルトの住宅を購入します。

以前の記事で述べたように、パロアルトの住宅の中間価格は1998年から2015年までの平均上昇率が年率9.1%となっており、世の中の大半の金融商品よりも高いリターンになっています。

2つ目の目的は、もちろんパロアルトに移民することで、自宅として利用します。

地元住民には中国からの資金流入への不安も

では、住宅という手段で中国の資金がパロアルトに流入することが地元にどういった影響を与えているのでしょうか。

中国人が購入した投資物件は、賃貸の形で地元の住宅供給にリサイクルされます。賃貸はシリコンバレーの若い家族がパロアルトに居住する最初のステップで、これによって、子供達をパロアルトの公立校に通わせることができるようになります。

また、パロアルトに移住した中国人家族は、豊富なリソースを所有しています。彼らの多くは購入した古い家を建て替えることを望みます。建て替えが進めば、街の変化はさらに加速します。そして、子供の学校を通じて地元コミュニティに貢献することもできます。

一方、中国からの住宅購入者が年々目立ってきていることで、地元の長年の住民が不安を感じるケースも少なくありません。住宅の供給が限られた中で、自分の子供や孫たちは、もうパロアルトには住めないのではないかという不安です。

というのは、シリコンバレーで高額住宅を購入できるようになるには、起業で成功するか、あるいは株価がすざまじく高騰した企業に、株価が上がる前のいいタイミングで入社して巨額のストックオプションを手にするかです。こうしたチャンスはそれほど多くはありません。

それに対して、中国ではGDPの2桁成長が10年以上も続き、しかも各種制度が整っていない中では、何らかの手段で荒稼ぎするチャンスが山ほどあったと言えます。すなわち、中国の方が、富の蓄積レベルも富裕層の数も圧倒的に上回っているのです。

シリコンバレーの成功者以外のいわゆる普通の人々にとっては、中国人が享受している富との競争はとても厳しそうです。

 

Jiang Xin

中国生まれ。早稲田大学商学部卒業後、メリルリンチ証券・投資銀行部門の東京とパロアルトで勤務。その後、ペンシルベニア大学ウォートン校にてMBAを取得。
2005年から2013年まで、日本のフィデリティ投信とサンフランシスコにあるマシューズ・インターナショナル・キャピタル・マネジメントで日本株を含めたアジア株のアナリストとして従事。
2013年からパロアルトを中心に、シリコンバレーで不動産の仲介と住宅の開発に専念。7歳になる娘の母親でもあり、シリコンバレーの住宅と教育事情に詳しい。