トランプ勝利で先進国株が上昇した1週間

先週(11月7日‐11月11日)の世界の株式市場は、米欧日の先進国株と上海株が上昇する一方、中南米を始め新興国株が下落する2極化した展開になりました。週間騰落率はTOPIXが+2.3%、米S&P500が+3.8%、独DAXが+4.0%、上海総合が+2.3%でした。

先週は、米大統領選でメディアの予想に反してトランプ氏が勝利しました。市場はこれを一旦嫌気しましたが、結果としては、すぐに新大統領決定のご祝儀相場に変わりました。通商と国境の壁を高くし、個人・法人ともに税率の引き下げを進め、民間投資促進・インフラ投資の拡大・エネルギー規制緩和などを通じて雇用を引き上げるという経済政策は、「トランプ型高圧経済政策」とも言えそうです。

財政赤字拡大の懸念に対しては、景気拡大による税収増の期待に加えて、国防費や社会保障費の圧縮、米国企業の在外資産の国内還流促進、外資企業の米国直接投資の増加などで米ドルの信認と長期金利の安定化を目論んでいるとも思われます。財政上の算盤勘定はこれからになりますが、市場はまずはドル買い、債券売り(債券の利回り急騰)、先進国株高で反応しました。

株式市場の反応は、先進国株と新興国株、オールドエコノミー株とニューエコノミー株でくっきりと明暗が分かれました。米欧日株が上昇し上海株も上げましたが、米国の保護主義でダメージが予想される新興国株、とりわけ中南米株が大きく下げています。

銘柄の物色動向も特徴的です。米国株の代表的な3指数を見ると、ニューヨークダウ工業株30種平均、S&P500、ナスダック総合指数の順に高くなりました。金融規制の緩和と貸出業務の収益期待から銀行株が買われ、新薬承認の加速期待で医薬品株も上げています。

さらに内需振興期待からキャタピラーやGE、資源メジャー、このところ業績懸念が高まりつつあった自動車株などオールドネームの株価が上げています。一方、アップル、アルファベット、アマゾン、フェイスブック、通信株などはトランプラリーの蚊帳の外に置かれています。欧州、日本でも物色の傾向は米国と同じでした。

先週の主要市場の動き

注:現地通貨ベース、為替は円安がプラス、円高がマイナス

 

年初来の主要市場の動き

注:現地通貨ベース、為替は円安がプラス、円高がマイナス

アウトルック:クリスマスラリーが続くか、イエレン発言が試金石に

今週(11月14日‐11月18日)は、クリスマスラリーが続くかが注目ですが、米大統領選が終わり主要企業の決算がピークアウトしたため、再び米国の金融政策に焦点が移るでしょう。

トランプ氏の経済政策を整合的にまとめる作業は、まさにこれからとなるので現時点で肯定も否定もできません。こうした環境下ではついつい「トランプ氏は政治経験がなく、その公約は非現実的だ」とメディアは批判する傾向がありますが、相場はむしろ持たざるリスクを意識してラリーをしてしまう習性があります。

今、最も現実的な落としどころを探しているのは、当選したトランプ氏自身に違いありません。米国民を広く納得させる最大公約数は雇用増加であり、小さい政府を志向する共和党といえども妥協が必要になるのではないでしょうか。インフラ投資関連銘柄の上昇はそれを先取りしていると思われます。

経済政策の全体像が固まらないうちに、長期金利が上昇し中南米の通貨が売られており、FRBは従来よりも複雑な連立方程式を解く必要に迫られました。長期金利上昇による住宅・耐久消費財需要へのマイナス影響が懸念される一方で、トランプノミクスは期待インフレ率と雇用を引き上げる方向にあります。今年12月の利上げの有無はもちろんですが、2017年の金融政策の方向性をどう示すのか、大いに注目されるでしょう。

来週は黒田日銀総裁の講演、中国の10月のマクロ指標なども注目されます。気が抜けない1週間になりそうです。

 

椎名 則夫