「トランプ相場」で金急落、安値は拾うべき?

まだまだ世界は不安定、押し目はチャンスかも…

米国の次期大統領にドナルド・トランプ氏が決まったことで、金価格が急落しています。トランプ大統領誕生なら金価格は暴騰するとさえ言われていましたが、実際には債券価格の下落(利回りは上昇)に歩調を合わせて金価格も急降下となりました。

ドラッケンミラー氏「金を全て売却」の衝撃

大統領選の結果も衝撃的でしたが、金市場では資産家のスタン・ドラッケンミラー氏が保有していた金資産を全て売却したとの報道が大きく取り上げられています。

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ドラッケンミラー氏は、”ヘッジファンドの神様”ジョージ・ソロス氏の右腕として、1992年のポンド危機でポンドを空売りしたことで有名です。独立後も驚異的なパフォーマンスを上げ続けたことから、世界最高のファンドマネージャーの1人とされています。

同氏はこれまで、「株式市場の強気相場は終わった」と述べ、株式を売却して金を購入するよう勧めていました。昨年8月には3億ドルを超える金ETFを購入したとも報道されています。金に強気だった著名投資家の突然の売却宣言は、金を保有していた投資家に少なからぬ動揺をもたらしたようです。

金価格は金利に敏感、インフレには意外と鈍感?

金下落の直接的な原因は金利の上昇にあります。金は金利を生まないことから、金利の上昇に弱いとされています。

この点を確認すると、金価格(ロンドン値決め、午後)と米10年債利回りの月次ベースでの相関係数は、2016年10月までの20年間でマイナス0.87、10年間ではマイナス0.77と高い負の相関を示しています。米金利が上昇すると金価格は下落する傾向にあるということです。

一方、トランプ次期大統領の経済政策はインフレ的とも指摘されています。一般には「インフレに強い金」と言われていますが、なぜインフレ見通しが強まったのに金価格は急落してしまったのでしょうか?

データを確認してみると、インフレ率と金価格はあまり連動していないことがわかります。金価格と米消費者物価指数(CPI)の相関を見ると、過去20年間での相関係数がマイナス0.24、過去10年間ではプラス0.01となっています。インフレとは無関係、もしくはインフレ率が上昇すると金価格はむしろ下落することを示唆しています。

まだまだ世界は不安定、注目は欧州での政治イベントへ

ドラッケンミラー氏は金売却の理由として「安全資産を保有する理由がなくなった」とコメントしていますが、これに対しては異論も多いでしょう。

最も多く指摘されているのが脱グローバル化への懸念です。6月に英国がEU離脱を決めたのに続き、今回の米大統領選挙で脱グローバル化の流れが加速したことは確かでしょう。

12月4日にはイタリアで国民投票、年が明けると3月にオランダ総選挙、4月にフランス大統領選挙、9月にドイツ総選挙と、今後1年、欧州で重要な政治イベントが目白押しとなっています。

現在、イタリアの国民投票は「否決」との見通しが優勢となっており、イタリアのユーロ離脱の動きは想定外ではなくなりつつあります。欧州ではどの国の選挙においても移民政策が最大の争点となっており、反EU・反移民政策を掲げる政党が躍進する可能性があります。

こうした中で、3月には英国が正式にEU離脱を通告する予定であり、脱グローバル化の流れを後押しするかもしれません。

世界貿易の停滞は新興国に打撃

脱グローバル化の動きは世界貿易の縮小を通じて、世界経済の停滞へとつながる恐れがあります。既に、2015年の世界貿易額が6年ぶりに縮小しており、中国経済の減速に加え、自由貿易協定の進展が滞っていることも背景として挙げられています。

オバマ政権は11日、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の米議会での承認を断念すると表明しました。自由貿易の流れは完全に止まった観があります。

米株式市場はダウ平均が連日で過去最高値を更新するなど絶好調ですが、その陰でブラジルを始めとする多くの新興国では株価が急落しています。

世界的な貿易取引の縮小により、世界経済は低成長と低インフレを継続するリスクがあり、脱グローバル化の動きはこのリスクを高める恐れがあります。

価格が下がると「ありがたい」?

最後に、金のファンダメンタルズを確認しておきましょう。

ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)が11月8日に公表したゴールド・デマンド・トレンドによると、2016年7-9月期の世界金需要は992.8トンと、前年同期比10%減少しました。需要の約6割を占める宝飾品が21%減少と大きく落ち込んでいます。

その一方で、投資需要は44%増加と急増しています。また、価格の上昇でリサイクルが30%増加しています。金価格は1オンス=1334.8ドルと前年同期比19%上昇しました。

国別では2大消費国であるインドで28%減少、中国で22%減少と、ともに大きく後退しています。インドでは通貨ルピーの下落により国内価格が高騰したことで需要が低下し、中国では景気の減速が需要の後退を招いたとされています。

一方、7-9月期の金ETFへの投資は145.6トン純増の2335.6トンと、残高ベースでは2013年4月以来の高水準となりました。英EU離脱や米大統領選を控え、資金の逃避先として金投資の魅力が高まった模様です。

政治リスクに備えて投資需要が増加した一方で、価格の高騰で実需は減少していたことがわかります。

当面の金価格は、米金利の上昇見通しに圧迫されることになりそうですが、欧州での政治リスクなどから安全資産として見直される可能性があるほか、価格が低下すれば実需の回復も期待できそうです。

「株価の上昇を喜ぶのは誤りであり、下がったほうがありがたい」との指摘は、”投資の神様”ウォーレン・バフェット氏を始めとして、多くの著名投資家が述べています。これは、「これから投資をする人」にとって価格の下落はチャンスという意味です。

金に限らず、マーケットが下がった時ほど冷静な判断が求められそうです。

 

投信1編集部

投信1編集部は、証券アナリストやファンドマネージャーとして長年の調査経験を持つメンバーで構成されており、金融・経済ニュースや投資に関する知識・アイデアをわかりやすくお届けします。