この記事の読みどころ

トランプ次期大統領の政策に対する思惑から、世界的に国債利回りが上昇(価格は下落)しています。ただしイールドカーブをコントロールする金融政策を採用しているため、日本の国債利回りの上昇幅は相対的に小さくなっています。

このことのメリットとデメリットは何かを考えるとともに、今後の日本の政策の行方についても言及します。

米国大統領選挙:欧米の国債利回り上昇幅に比べ、日本国債利回りに落ち着き

米国で次期大統領にトランプ氏が選出されてほぼ1週間が経過しました。世界の主な国債市場では、トランプ次期大統領が導入すると見られる財政拡大政策によってインフレ率が上昇するとの期待が高まり、そのため利回りが上昇(価格は下落)しています。たとえば、米国10年国債利回りは約0.36%(11月8日から11月15日)、ドイツ10年国債は約0.12%上昇しています。

一方、9月20、21日の政策委員会・金融政策決定会合において長短金利操作付き量的・質的金融緩和を導入した日本の10年国債利回りについては、この間の利回り上昇は約0.07%と相対的に小幅な利回り変動にとどまっています。

どこに注目すべきか:イールドカーブ・コントロール、為替、財政政策

トランプ次期大統領の政策に対する思惑から、世界的に国債利回りが上昇(価格は下落)しています。ただしイールドカーブ(満期までの期間が短い国債から長い国債へと利回りをつないだ曲線のこと)をコントロールする金融政策を採用しているため、日本の国債利回りの上昇幅は相対的に小さくなっています。

まず、今回の局面におけるイールドカーブ・コントロール政策(短期金利は政策金利をマイナス0.1%とし、長期金利(10年物国債金利)は概ねゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う政策)のメリットは何かといえば、日本の国債市場の変動性が抑えられていることです。このため利回り上昇による価格下落が、いまのところ、相対的に小さくなっている点があげられます。

なお、日銀は10年国債利回りをコントロールすることを示唆しているため、自由度が多少は高いと思われる、より長期、たとえば30年国債の利回りの動きを見ると、こちらも、いまのところ小幅な動きとなっています。

次に、最も大きなメリットとしては日米の金利差を反映したことなどから円安が進行、結果として日本の株価にもプラスの影響があったと見られる点があげられます。トランプ氏の勝利を受け、日本国債利回りも上昇はしていますが、9月の水準に戻った程度です。

一方、ドイツ国債は概ね半年、米国にいたっては1年ほど前の水準にまで利回りが上昇したため、相対的な日米金利差が拡大しました。その点が円安・ドル高の一つの要因になったものと見られます。その結果、円安への感応度が高い日本株式も上昇基調で、結果オーライの面も感じられますが、金融政策の有効性が高められたものと見られます。

反対に、デメリットとして思いつく点をあげると、自由な取引で金利水準が決められるという、国債市場の価格シグナル機能の低下が懸念されます。価格シグナル機能の低下とは、経済状況などを勘案して自由な取引で市場が決めるべき価格(国債の場合は利回り)を当局がコントロールすることで、実勢と離れてしまうことに対する懸念です。

注意すべきはコントロールであって、いつまでもある水準に固定するわけではないことです。ただし、何をもって水準を決めているのかは不透明です。もっとも、短期的には価格シグナル機能の低下よりも先にあげた円安効果などのメリットのほうが大きいとは思われます。

最後に、トランプ氏勝利後の財政拡大や景気対策を受けて、自国(ここでは米国)の通貨高が見られた点についてです。この背景は、財政拡大(期待)で金利上昇が高まり、金利差による資本流入圧力が自国通貨高を演出するという流れと見られます。

しかし、日本の状況はインフレ率上昇を懸念する段階とは思われず、財政政策など成長戦略を導入することも必要と思われます。通貨の動向を気にして経済政策の導入に消極的になる段階ではないと思われます。また、そのような懸念を防ぐためにも、財政か、それとも金融かという二者択一(どちらか一方だけを選ぶ)ではなく、両者を組み合わせていくことが今後いっそう必要になると思われます。

ピクテ投信投資顧問株式会社 梅澤 利文