ヘッジファンドから見るロボアドバイザーの課題

ロボアドバイザーの元祖はシステム型ヘッジファンド?

ヘッジファンドでは、コンピュータシステムだけで投資判断を行ういわゆるシステム型ヘッジファンドが数十年前より存在していました。また、昨今注目を集める人工知能やビッグデータを活用した運用モデルというのは、ヘッジファンド業界で以前から存在しています。

ヘッジファンドとロボアドバイザー、ざっくり言うと?

コンピュータシステムだけによる投資判断に基づき、莫大な金額の売り買い注文を市場への影響を極力与えることなく超高速で処理する――これを24時間、市場が開いている限り継続するのがシステム型ヘッジファンドの姿です。

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一方、2016年には日本でもロボアドバイザーに分類される資産運用サービスが数多く登場し、注目を集めています。顧客自身の情報に基づき、顧客ごとに最適化されたポートフォリオを提案する、またその後の市場環境の変化に合わせてポートフォリオの最適化状態を維持するというのが基本的なサービスの骨格です。

筆者が関わったヘッジファンドでは、世界最高学府で計量経済学や物理学、数学、コンピュータサイエンスなどを専攻し、金融の分野に足を踏み入れた優秀なサイエンティストを多く抱え、コンピュータシステム運用における最先端の研究開発に注力していました。

長期で見ると、驚くような運用実績を叩き出していましたが、残念ながら調子がかなり悪くなる時期が継続することもありました。他社の話ですが、撤退を強いられたヘッジファンドもありました。極めて優秀な人材が寄り集まって作るコンピュータシステムがそのような厳しい競争にさらされているのです。

ロボアドバイザーも投資判断をコンピュータが行うという点で、このようなヘッジファンドと全く同じです。システム運用の特徴としてあげられるのは、主に過去データの分析に基づいて、現時点におけるベストなポートフォリオを構築するというアプローチです。

過去データといっても、どのぐらいの期間まで遡るべきか、また闇雲に期間の長いデータを反映させるだけではなく、これからの市場に影響を与える余地が大きい新しいデータをどの程度の重みで盛り込むかなど、過去データをどのように生かすべきなのかも千差万別です。

「運用力」での切磋琢磨が望まれる

システム運用の問題としてあげられるのは、投資判断に至るまでのプロセスがブラックボックスであるという点です。つまり、判断の因果関係を人間が書き記すことができないということです。

人間の運用者であれば、「米国大統領選挙後は市場ボラティリティが急上昇すると予想しておりましたが、市場は我々の予想通りの展開となったことで、当ファンドのS&P500指数のロング・ストラングルのポジションや、転換社債のロングポジションがうまくプラスに寄与しました」という説明が可能です。

これに対し、システム運用では、「コンピュータがそのような判断をし、それに基づくポジションを組んだ結果、プラスだったかマイナスだった」という説明しかできません。どうしてそのポジションを組んだのか、人間が理解できる因果関係で説明することは不可能なのです。

因果関係の優劣で運用能力を判断することが困難であるなら、ロボアドバイザーもシステム運用型ヘッジファンドも、運用実績そのものによって優劣を判断するべきです。

ヘッジファンドの運用成績は、そのファンドの運用成績として公表されているので単純です。一方、ロボアドバイザーの運用能力は、一元的に判断することができません。

ロボアドバイザーでは数十万、または数億通りのカスタムポートフォリオを組めることを売りにしているところがあります。また、ロボアドバイザーでは、顧客の入力情報や投資開始タイミングによってもパターンの異なる運用成績が生じます。

ロボアドバイザーのこうした問題に対する対応として、たとえば顧客がインプットした属性データから最も平均的な顧客像を抽出し(またはロボアドバイザー各社で考える平均像を設定)、その顧客にとってのポートフォリオを参考データとして、提示し続けるということが必要ではないでしょうか。これは技術的に可能だと思われます。

おしゃれなユーザーインターフェースや単なるアセットアロケーションのデザインではなく、本当に運用力で勝負するという気概あるロボアドバイザーの登場を待ちたいですし、応援したいと思います。

システム運用を展開するヘッジファンドと同じように、純粋に運用能力での競争が発生し、優勝劣敗による健全な選別が発生することを期待したいところです。

 

小田嶋 康博

金融系ベンチャー企業を経て、イギリス系大手ヘッジファンドであるマン・グループにて、東京、チューリッヒ、ロンドンで勤務後、ピクテに入社。

ピクテでは、従来型のディストリビューションモデルと異なる戦略立案及び営業活動を担当。 特に富裕層向けビジネスモデルの構築、並びにネットチャネル経由のビジネスモデル構築及び促進に向け販売会社とのコラボレーション施策の開発に従事。

慶應義塾大学入学後渡米し、ニューヨーク州立大学経営学士取得。