2016年の金融市場は政治に翻弄された1年でした。ただ、足元では円安を大きなサポート材料に株式市場の上昇が続いており、“結果オーライ”となっている格好です。

とはいえ、物事には全てポジティブサイドとダークサイドがあるため、梯子を外されないための準備は常に必要です。そうした観点で、今後の相場を以下の3つの記事から考えてみましょう。

トランプノミクスのポジティブサイドに注目した米金融市場

米国大統領選挙後の日米の株式市場は、これまでのところトランプノミクスの「ポジティブサイド」を見ながらの動きが続いています。

具体的には、この記事にあるように、債権が売られた一方で株式が買われ、株式の中では主に以下のセクターが買われました。

  1. 金融:長短金利差拡大による銀行の利ザヤ改善や金融規制改革法廃止への期待
  2. 資本財サービス:トランプ政権下でのインフラ投資積極化への期待
  3. ヘルスケア:オバマケア(国民皆保険制度)廃止による薬価引き上げ圧力後退への期待
  4. エネルギー:エネルギー規制の緩和や生産拡大への期待
  5. 素材:公共投資拡大による需要増加期待

一方、公益や通信サービス(金利上昇懸念)、生活必需品(安定成長セクターから景気敏感への物色シフト)などは売られています。

日本の株式市場も、概ね米国の株式市場に沿った動きが見られました。

出所:トランプ相場の光と影-期待とリスク要因(楽天証券)

トランプノミクスに「ダークサイド」はないのか

良いことばかりが注目されてくると、どうしても気になるのは「ダークサイド」です。

トランプノミクスは、減税、インフラ投資などリフレ政策を前面に出してくることがコンセンサスとなっていますが、仮にこのリフレ政策がGDPの成長に結びつかずに米長期金利の上昇のみが加速するといった事態になれば、個人消費や住宅市況が打撃を受けることは必至です。

また、高金利により世界のマネーが米国に集中すれば、新興国の通貨は売られ、結果として新興国経済が悪化してしまうというシナリオも十分に考えられます。

また、米国のTPP(環太平洋経済連携協定)からの離脱はほぼ既定路線になりつつあります。これによって保護貿易主義が新たな世界の潮流となり、貿易量が縮小する「スロートレード」という現象が世界経済の成長率押し下げ圧力となるリスクもダークサイドとして気になる点です。

出所:投資リスクを再点検:世界経済は改善、政治不安は拡大(楽天証券)

2016年最後の注目政治イベントはイタリアの国民投票

2016年の金融市場は政治に翻弄された1年でしたが、まだ12月4日にはイタリアで憲法改正を問う国民投票という注意を要する政治イベントが残っています。

イタリア政治についての詳細な解説は省きますが、仮に国民投票で「決められない政治」の打破を目指した政権与党(マッテオ・レンツィ首相)の憲法改正案が認められない場合は、政治的な混乱が生じるリスクが高まることになります。

それは、レンツィ氏が国民投票で憲法改正が否決された場合は首相を辞任すると表明していることや、その結果、反EU・反グローバリズムを標ぼうしている野党側が勢いづく可能性が高まるためです。また、イタリアには銀行債務問題もあるので、国政の停滞で不良債権問題対応が混乱するリスクも無視できません。

さらに付け加えれば、この選挙結果は2017年に予定されているオランダの議会選挙(3月)、フランスの大統領選挙(4月)でも反EU派が勢いを得るという連想にもつながります。よって、欧州リスクが金融市場で強く意識されるきっかけになる可能性があることにも注意が必要です。

もちろん、今年6月の英国国民投票や11月の米国大統領選挙でも、「大変なことが起る」という不安心理から金融市場が大混乱となったものの短期間で収束したため、今回も仮に与党案が否決されても影響は短期間に留まるかもしれません。

とはいえ、反グローバリズムやポピュリズムの台頭は世界経済の長期的な成長を阻害する要因になる要素を多くはらんでいますので、短期的な相場の反応はどうであれ、注視する必要があると思います。

出所:投票に振り回された2016年、イタリアも忘れずに(ピクテ投信投資顧問)

 

LIMO編集部