【サッカー経済学】年俸1億円アップのオファーを蹴った川崎F小林悠の冷静な判断

Jリーグではチャンピオンシップ戦(以下、CS)が始まりました。29日(火)にはCS決勝の第1戦、浦和レッズ対鹿島アントラーズが行われます。2016年の年間勝ち点第2位の川崎フロンターレ(以下、川崎F)は、惜しくもCS準決勝で年間勝ち点3位の鹿島アントラーズに敗れました。

その川崎Fの小林悠選手が、自身のLINEブログで2017年も川崎Fに残留することを発表しました。今回、日本代表にも選出された小林選手には複数のJリーグクラブから声がかかりました。その中には年俸が1億円以上もアップする提示もあったようです。しかし、小林選手はそれらのオファーを退け川崎Fに残留することを決めました。

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この意思決定は川崎Fだけではなく多くのサッカーファンの中で話題となっています。その背景を読み解きます。

西日本のクラブを中心にオファーが殺到

2016年は年俸3,000万円といわれる小林選手に、ガンバ大阪、ヴィッセル神戸、サガン鳥栖といった西日本のクラブを中心に、多くのクラブが移籍金5,000万円を含め1億円超のオファーを提示しました。しかし、小林選手はそれらのオファーを断り、川崎Fと3年契約・年棒8,000万円で契約を更新したと言われています。

契約内容の詳細は定かではありませんが、ここでは仮に小林選手が「単年契約で1億8,000万円のオファーを断り、従来から在籍するクラブで向う3年間にわたって年棒8,000万円で契約した」と仮定して話を進めてみましょう。

小林悠選手は技術を伴った冷静な判断ができるFW

そもそも、なぜ小林選手はこのように高く評価されたのでしょうか。まず外せないポイントは得点力です。小林選手は2016年シーズンに同じ川崎Fの大久保嘉人選手と並ぶ15得点を記録しています。これは、得点ランキングでは3位タイ、日本人選手としてはトップタイです。

2016年の得点ランキングを見れば分かるように、たとえば、ガンバ大阪にはアデミウソン選手など強力な選手が在籍しますが、同チームの長沢駿選手とともに9得点にとどまっています。若手も順調に育ってきてはいるものの、2桁得点を高い確率で獲得できる選手を来年のためにぜひとも獲得しておきたいところでしょう。

ガンバは、やはり2桁得点を上げた大宮アルディージャの家長昭博選手(元ガンバ大阪)などもリストアップしている様子で、決定力のある選手を欲しているように見えます。

こうした中、小林選手は2桁を読める選手としてリストアップされていると思われます。それだけではありません。小林選手には、2016年ファーストステージの対柏レイソル戦で日本代表監督ハリルホジッチ氏の前で見せたボレーシュートのように、確かな技術があります。

また、ゴール前での華麗な切り返しや慌てないプレーができる点で、日本人選手としては稀有な存在と言えるでしょう。

小林悠選手のサッカー人生は故障との闘い

小林選手のサッカー人生を見る上で重要なのが故障です。実際、小林選手は今回のCS準決勝にも、けがのため出場ができませんでした。同選手はこれまでも何度となくけがに悩まされ、日本代表も辞退してきた経緯があります。

小林選手のけがを語る上で外せないエピソードがあります。大学生時代に川崎Fからの内定をもらっていた時、大けがをしてしまいましたが、川崎Fは小林選手との契約を破棄することなく同選手の復帰を待ったのです。小林選手がこのことを恩義に感じているという話は有名です。

今回は小林選手が故障している中、2016年の年棒を1億円以上も上回るようなオファーが殺到しました。大学生時代の川崎Fの対応が思い起こされた可能性は十分にあります。

小林選手の意思決定には経済合理性がある

この好条件を退けたことをプロとしてはいかがなものかと指摘する声もあるようです。しかし、決してそうとは言えないのではないでしょうか。

そもそも、今回小林選手が3年契約を獲得しているとすれば、また、Jリーグの選手の多くが1年、期待されている選手でも2年の契約が前提とすれば、川崎Fも誠意は十分に示したと言えるでしょう。年棒が8,000万ではないかという指摘もありますが、これは複数年契約をセットで考える必要があります。

先にも触れたように、小林選手は故障の多かった選手です。仮に、好条件でJリーグの他クラブに移籍をしても、移籍後の1年間で結果が出なかった場合には、それ以降の他クラブの対応は未知数です。その点、川崎Fは小林選手の状況を十分に把握しているので、長い目で見て小林選手が最もパフォーマンスを発揮できる起用手段を考えるでしょう。

また、小林選手自身も長くトッププレーヤーとしてサッカーを続けることが自分の価値を最大化することだと気づいていれば、今回の判断に行きつくはずです。1年の1億8,000万円よりも3年の2億4,000万を選択する方が経済合理性があると言えます。

この考え方は投資の世界でも同様です。1年で大きく収益を稼ぐ企業よりも、長きにわたって安定的に収益を上げることができる企業の価値のほうが高いのです。そして、小林選手が次の3年間にさらに良いプレーを続けることができるのであれば、今回提示された金額より多額の移籍金を支払ってでも獲得したいクラブも出てくるでしょう。

そうしたチャンスがあるのは何も国内クラブだけではありません。海外という選択肢もあり得ます。つまり、小林選手には今は安定して良いプレーを「継続的に」見せることができる環境を確保しておくことが最も重要なのです。

小林選手の川崎Fへの想いは、大学時代からの川崎Fとの関係や家族を取り巻く環境(今回のオファーはいずれも西日本)を考慮すれば十分に理解できますが、今回の意思決定は外部から評価しても十分に合理的な判断だと思われます。小林選手は、ピッチの外でも冷静な判断をしたと言えるでしょう。

川崎Fがタイトルを獲得するためには-風間八宏ロスを乗り越える

今年川崎Fがタイトルを取れなかった背景には、故障者の多さがあげられます。実際、CS準決勝には小林悠選手をはじめ、大島僚太選手、武岡優斗選手、奈良竜樹選手なども出場できませんでした。本来攻撃的なポジションである田坂祐介選手が、シーズン途中からディフェンダーのポジションをこなさなければならないほど選手事情は厳しかったのです。

川崎Fは求めるサッカーが精緻で各選手への要求度が高いということはありつつも、選手の状態をしっかりケアすることが重要でしょう。

また、2017年シーズンは風間八宏監督が退任し大久保嘉人選手が移籍する可能性が高いことから、鬼木達監督の新体制のもと、新たな攻撃布陣を準備しなければなりません。その際に、小林選手の早期復帰と三好康児選手をはじめとした若手が決定的な仕事をできるようにするのが前提でしょう。

さらに、ボールをしっかりキープしタメを作りながらも相手ディフェンス陣を引きはがす動きができる能力を持つ新たな選手を獲得できれば、さらに勝機を広げることができるのではないでしょうか。ただ、2017年を語る前に川崎Fには天皇杯が残っています。こちらでぜひ悲願のタイトルを獲得してほしいものです。

 

投信1編集部

投信1編集部は、証券アナリストやファンドマネージャーとして長年の調査経験を持つメンバーで構成されており、金融・経済ニュースや投資に関する知識・アイデアをわかりやすくお届けします。